【創作小説】恋をしたら死ぬなんて
今回もやって参りました #noteでBL 第三弾!!
いやぁ、まさかこうして継続していけるとは思っておらず、徐々にこれから参加者も増えていく予定なので楽しみ&嬉しい限りでございます。
そして今回のお題は
読書会、マジで恋する5秒前、13分後に死ぬ
くじ引き担当のナミさん。。。
引きが毎回強いんです。
だけど全く関係ないキーワードを繋げて物語にしていくと言うのは物書きとしてはとても楽しいです。
とは言え今回は色々苦戦しましたが笑。
それでは第三弾!
恋をしたら死ぬなんて
本編スタートです⬇️
大学の課題レポートの提出のために分厚い専門書を1人で読むのがつらいから、と幼馴染でありバスケ馬鹿になりつつある洋介に【読書会】と銘打って洋介の部屋で一緒に勉強することになった。
とは言っても読書するのはオレだけで、洋介は眉間にシワを寄せながら難しい専門用語と睨めっこしたり大学でもらったPDF資料をわざわざプリントアウトしたグラフを確認している。
「洋介、せっかく買ったタブレット使えよ」
と言うが本人は勉強の時はどうしても紙がいいらしく、
「あー……書き込んだりして資料汚したくないんだよなぁ」
資料を大切にする辺りからも洋介がしっかり者なのがよく分かる。
そしてこの状態では読書会とは言えないのでは?と思うがオレは案外こうして同じ空間に居るのにお互いが別のことをしているのが嫌いじゃない。
それに洋介がこうして困っているとき、一番に声をかけてくれる相手が自分であることに優越感を覚えている。
人付き合いも人当たりもいい洋介を呼びたい人はたくさん居るし、実際にタイミングが合えば呼ばれた場所に顔を出したりもするけど。
洋介からの呼び出しを受ける人間はごく僅かに限られている。
そんな中に自分がいることを嬉しく思わないわけがない。
部屋について勉強を始めてから小一時間程度は真剣に専門書に目を通していたが、さすがに分からない言葉だらけの文字の羅列に飽きたらしい。
目をこすりながら淹れてきたお茶を飲んだり伸びをする回数が増えてきた。
それを尻目に、大変な勉強をしている洋介はやっぱり凄いし努力を当たり前としてきたのが良くわかる。
思えば自由奔放な母と引きこもってイラストを描く以外できない父。
洋介が家のことができるようになるのも当然だったのだろう。
小学校の時から家庭科で裁縫でボタンも簡単に縫い付けていたし、小学校の間では一大イベントと言ってもいい調理実習のとき、誰よりも包丁の使い方も火加減についても詳しかった。
それは彼が普段から家でやっていることと何も違わなかったからだと今なら分かる。
男子が家庭科ができることを笑う同級生のいる中、普段ならおちゃらける洋介が
「これからは男だって料理しねーとモテない時代になんだぞ!」
なんてふざけて返事をしていた。
クラスメイトたちも
「確かにそれもそうだよなー」
なんて言い合って話は終わったようだが、ほんの少しだけ寂しそうな横顔が印象的だった。
そういえばあの時はクラスが一緒だったのに調理班は違っていて、ふざけている男子連中が洋介の名前を呼んでいたので気になってそちらを向いたのだ。
あの時のほんの一瞬見せた横顔は今もずっと俺の心の中に残っている。
そんな彼が今では真剣に専門書と向き合っている様子を見ながらふと思い出した。
本に目を戻し、ダラダラしていた雰囲気から本格的に勉強を開始から1時間半ほど経っただろうか。
「だぁーっ!!!!もう限界!文字がミミズに見えてきた!!」
両腕を大きく上に突き上げたかと思えばそのまま背中を反らすように後ろにあるベッドに上半身だけ寝転んでしまった。
腕を大きく持ち上げたせいでチラリと見える洋介の腹筋は割れて逞しく、この身体で日々バスケのゴールにシュートを決めているのかと思うと思わず男の自分でもドキッとする。
そして自分のおへそ辺りを見て虚しくなる。
決して贅肉がついてるわけでもなんでもないが、その、“なんでもない”ことが確実な差を生んでいるのだ。
洋介自身は気づいてないだろうけど、彼は決して妥協を許さない。
ここまでやると決めたら最後までやり抜く。
勉強以外は。
いや、一応勉強もここまでやると決めたら最後には終わらせるのだが今回は苦手分野とあってか中々スムーズにいかないらしい。
「ははっ、じゃあちょっと休憩しよっか」
俺も伸びをして凝り固まった首周りの筋肉を首や肩を回してほぐす。
膝を立てて座っていたせいか若干腰回りもダルい。
ちょうどお茶も無くなったし、ということで2人して台所に向かう。
洋介の家には母親の趣味であるワインを保存するために本格的なワインセラーが置いてある。
そこから一本拝借し、手際よくトマトをスライスカットして生ハムと一緒にあえてサラダや冷蔵庫にあるチーズを出す。
小学校の頃の家庭科の授業で見た手際の良さも格段に上がっており、洋介の手料理を食べるとしばらくは外食したくないと思うくらい絶妙な味付けなのだ。
これも恐らく何だかんだと食わず嫌いが多い俺に、彼が色々食べさせるためにしてくれているのだと思うとやっぱり特別扱いされているようで嬉しい。
そうして男2人が並んでも余裕のあるスペースで何を観るか相談すると、普段映画などには無頓着な彼が珍しく観たい映画があるという。
内容は戦争モノだがそんなに重苦しいものではなく、映画も本も評判が良いらしい。
彼が忙しい事もあって最近話題になっている本を読みたくても読めなかったものであり、映画化されてすでにネット配信されているのでそれを観ることにしようと提案された。
映画でも本でも、洋介が決めるものならハズレはないだろうと安心してその映画を見ることに決まった。
用意したものを手で持って洋介の部屋に運び足でドアを開けて続いて洋介が部屋に入ってきた。
行儀が悪いなと思いつつその足でそのまま扉を閉める。
この様子を見ると、きっとクマさんこと洋介のお父さん。
あの人ならお盆くらい使いなさいと言うだろうが、そこに洋介のお母さんは男子大学生がお盆なんて使うはずないじゃない、何よりうちにそんなものあったか忘れちゃったわ。
なんていう会話をするのだろうと想像するとおかしかった。
それほどまでにあの2人の掛け合いは容易に想像できる。
今日は2人とも家を空けており洋介と2人きり。
そうじゃないと彼の両親は10分に一回はどちらかが様子を見ると言う体裁を繕って部屋に入ってくる。
なので実は幼馴染とは言え俺はこの部屋には数える程度しか入ったことがなかった。
几帳面な彼の部屋らしくすっきりと片付けられた部屋の中。
と、言いたいがクマさんが画材道具の置き場に困ったり、こっそり購入したものの隠し場所として部屋の一角を占領していた。
それは大体戦隊モノのフィギュアであったりプラモデルであったり、まだ使えるのに新しく買ったカメラのレンズや電子機器だったりと様々だ。
机の上に持ってきたものを置いて手際よく洋介は机いっぱいに広げた教科書やノート、配布されたプリントなどを片付けていく。
その様子を見ながら俺は本にしおりを挟んでカバンにしまった。
先ほどまでは対角に座っていた場所を横に移して彼のベッドの上に丁寧に置かれている枕を抱き締めてテレビに目線を移す。
俺のクセのようなもので、洋介と2人であったり、安心できる場所にいるとついつい柔らかいものを抱きしめてその上に顎を乗せてしまう。
やってる格好が女子みたいだから、となるべくしないように気をつけているが今は2人きり。
俺の様子を笑われることもないので心置きなく立てた膝の上に枕を乗せて顎を置く。
そうして俺がもたついてる間に彼はさっさと慣れた手付きでテレビを操作して映画が始まった。
平日の昼下がりの部屋。
クーラーを入れるほどでもない気温。
ベランダを少し開けて入ってくる肌触りのいい風がカーテンを揺らしてほんのりとキンモクセイの香りを運んできた。
穏やかに流れる時間。
落ち着いた空間。
そして隣にはなんでも話せる幼馴染がいる。
こんな時間にネット配信とはいえワインとおつまみを用意して映画鑑賞会。
やってることが贅沢だな、なんて思いながらテレビから流れる映画はさっきまで読んでいた小説だった。
映画化する時にタイトルが変更されていて洋介に言われてから観るまで気づかなかった。
そうして映画は順調に進んでいきもう間もなく終わりを迎えると言うところまでやってきた。
本の内容が映像化されることによって変わっていなければ、あと少しで主人公は戦場に向かってしまう。
映像の下に映る残り時間の表示から、おそらくあと10分程度だろう。
というか、オレの読んでいる小説であれば、読書のスピード的にあと15分。
テレビの時間も下のバーの進み具合から、おそらく正確な時間はわからないが映像ということもあり、きっと13分後には主人公は、死ぬ。
報われない時を超えた恋の物語は進んでいき、洋介の匂いのついた枕を思わず抱きしめる。
フィクションだろうとなんだろうと、人が人を想い報われない話は好きじゃない。
あぁ、こんな終わり方して欲しくないのに。
思わず涙ぐむ顔を見られたくなくて膝の上に乗せた柔らかいそれに鼻先を埋めて必死に泣きそうなのを隠す。
それでも横並びに座った以上、俺の様子に気付いたのだろう。
映画の主人公が空の上から相手を思う回想シーンに入ったまさにクライマックスの瞬間。
俺の肩を洋介が抱き寄せたかと思った途端に唇に柔らかなものが触れた目の前には洋介がいた。
「ビックリして涙引っ込んだろ」
イタズラが成功した時の嬉しそうな満面の笑みに釣られて先程のキスのことなど忘れ、
「いたずらするにも限度ってもんがあるだろ!」
そう言い返しながら、あ、と気付いた。
昔いとこのお姉さんがよく使ってた言葉。
M(マジで)K(恋する)5(秒前)
まさか洋介相手に恋に落ちることなんて考えてなかったし、キスされたのをきっかけに気持ちに気づいてしまったオレの顔は真っ赤に染まった。
「なんだ翔太、初めてだったか?」
まだ笑顔のままの洋介にからかわれて、うろたえながら首を縦に振ると今度は洋介が固まった。
「マジか……」
口元を押さえて考え込む洋介の姿に不安になる。
単なる遊びだったとはいえ、初キスを奪われたのだ。
「んじゃ、仕切り直しな」
そう言って彼は片手を俺の髪の毛に滑り込ませて頭を引き寄せられて2度目のキス。
ダメだ。
これは正真正銘のMK5だ。
幼馴染の洋介にこの気持ちを悟られないように、心の中にしまっておこう。
涙はすっかり引っ込んで、代わりに溢れてしまいそうな洋介への恋心を笑顔に変えて
「仕切り直しとかねーよっ!!」
洋介の肩を軽くパンチして俺たちはそれもそうだな、なんて笑い合う。
テレビの中の映像は、綺麗に整頓された人の名前の並ぶエンドロールが流れていた。