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学生指揮より③「交響曲第9番」に寄せて 「あと2日!」

こんにちは、代指揮としての仕事をほとんど終えて本番を楽しみに待っている指揮者です。札幌もすっかり雪景色で寒い日が続いていますね。100周年記念演奏会まで残すところあと2日、オケ内の緊張も高まっているように感じます。

交響曲第9番

さて、本日は今回の演奏会のメインであるベートーヴェンの交響曲第9番、通称「第九」について解説していこうと思います。と思いましたが、長くなりそうなので4楽章だけにさせてください。詳しくは定演当日に配られるプログラムを見てください!

L.V.ベートーヴェン(1770-1827)

第4楽章は、不協和音が強烈に鳴らされるところから始まり、チェロとコントラバスによって伴奏なしのメロディが奏でられます。これがどのような意味なのかは、後ほどほぼ同じ音型で現れるバリトンソロの歌詞を見ればわかります。ドイツ語で「O Freunde, nicht diese Töne!」、訳すと「おお、友よ、このような音ではない!」という意味です。第4楽章は歓喜を表現しているはずなのに、なんと音の否定で始まるのです。

では何を否定しているのでしょう?答えは、それまで演奏されてきた1から3楽章です。せっかくここまで演奏してきた楽章を全否定してしまうのです。しかし、「これでいいのか?」とでも言うように歓喜の歌の断片が現れると、チェロとコントラバスも、「これだ!」と言わんばかりに答え、ついに静かに歓喜の歌が現れます。これが次第に高揚していく様は、苦労して見つけた歓喜の表現が多くの人に伝わっていき、幸せが次第に広がっていくようです。合唱にもこれが受け継がれ、高らかに喜びが歌い上げられます。

4楽章も終盤に差し掛かると、男声によって「抱擁」と称される重厚な旋律が現れます。オケにはトロンボーンが加わり、宗教感というか、神秘的なものを感じます。これがその後「歓喜の歌」と混ざり合ったところは何度聞いても感動的です。そしてクライマックスは喜びの大爆発とも言える激しさで、指揮を振っているときの気持ち良さは計り知れないものがあります。きっと奏者も同じ思いでしょう。

必要な音

クラシック音楽は作曲された年代によって音の表現を変える必要があります。よく考えてみればクラシックに限った話ではなく、例えばポップスでも30年くらい前に流行した曲と今流行している曲では歌い方に大きな違いがあると思います。今回の演奏会の前半では重い音が要求される「マイスタージンガー」、日本風の表現が必要とされる「祝いのために」を演奏します。

その後に第九を演奏しますが、ベートーヴェンの曲を演奏する際に決して前半2曲と同じような弾き方をしてはいけません。言葉で表現するのは難しいので割愛しますが、とりあえずベートーヴェンっぽい音を出さなければいけないのです。苦労はありましたが、練習を重ねるうちにその雰囲気が出てくるようになりました。演奏会当日は、それぞれの曲の音の鳴り方の違いに注目してほしいです。

代指揮って?

ここまで第九の紹介をしてきましたが、勝手ながら自分の紹介も少ししておきます。筆者は「代指揮」と言って、普段の練習を見ている学生の指揮者です。では、自分がどのようなことを考えて合奏に臨んでいるのか少しだけ書いてみようと思います。きっとオケの団員も知らない一面があるかもしれません。誰かに教わった訳ではなく完全に自己流なのでお気をつけください。

いきなり合奏に出たって何もできませんから、まずは曲の研究からです。タイミングやテンポ等、指揮を振る上で重要になることを確認するのはもちろんですが、自分が特に気にするのはそれぞれの楽器が出す音にどのような「意味」があるかを考えることです。どの楽器が、どういう場面で、どの楽器と一緒に、どういう意図で音を出しているのかなどを考えておきます。スコアを読むだけなく、さまざまな音源を聴き比べることによってさらに自分の頭の中で曲のイメージを作り上げて、ある程度の完成形を想像できる状態にしてから合奏に向かいます。

合奏では指揮を振りながら音を聞いて、気になったら演奏を止めてコメントします。これが難しい。50人くらいが同時に弾いている音を聞くので聖徳太子を越える必要があります(今は聖徳太子って呼ばないんでしたっけ?)。事前に作っておいた頭の中の完成形と瞬時に照らし合わせて、違う、と思ったら原因を解明して改善していきます。縦があっているかどうかといった基礎的なことのほか、表現等にも追求していきます。

時には弦だけとか、一つのパートを取り出してそれに対してアドバイスします。基本的にはこれで進めていきますが、楽しいのは、自分の中の想像を超えたものを奏者が出してくれる時です。奏者一人一人も自分の意志を持って「こんな表現をしたい!」と思って弾いてくれている訳ですから、合奏しているとそれが垣間見えてとても嬉しくなります。月に一度ほどは本指揮の先生がいらっしゃって指導してくださります。その際言われた先生の意図を表現できるように自分の合奏で再度確認するということもします。

こんな感じでまとめましたが、どんな風に普段の練習を進めているかわかってもらえたでしょうか。代指揮は本番には参加しないので表舞台で活躍することはありませんが、裏で曲の枠組みを作り上げる重要な役職です。マイスタージンガーの指揮者曰く、「みんな指揮棒を買おう!」だそうです(笑)。

"100周年記念演奏会"で第九を演奏する意義

100周年を祝福するにあたって、喜びを歌とともに表現する第九は最も適した曲だと思います。奏者の団員はもちろん、合唱や独唱として参加してくださる方、合唱の練習に携わってくださった方には本当に感謝していますし、そのメンバーを集めるなど運営に尽力してくれた役員会や演奏委員会の人たちにも頭が上がりません。また、北大オケを100年もの間存続させてきたこれまでの全ての団員の方や、本番に会場に来てくださるお客様も第九の演奏の一つのパーツになっていることは確かです。演奏会本番ではこれらの多くの人の心が集った、そんな演奏にしたいと思います。

左から川越、ベートーヴェン、ワーグナーの代指揮

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