白秋
真夏のむせ返るような、空気を満たし尽くしたような光は飽く迄何時も瞬きの一種で、ため息一つ分の刹那も与えず、裂いた氷の様に鋭く薄く私を透析するものへと変化し、考査に追われる人々へカーテンを捲って金糸を蒔く。
皮膚を透かし、肉を透かし、血管を透かし、魂を見た時、鋭く、それでいて鈍く滲んでいく。過敏に反応してか、嫌になるくらい痛めつける割に私の心の臓は屹度明日もまた暢気に血潮を煽っているのだろう。なんてこと無い淡白な一日は、嘗てこの学校に来た時はそうではなかった筈だ。全てが劇薬的な極彩色に彩られ、常時貧血の眩暈の只中に有るように思えたあの感動は何処にあるのか。
温い春は寒い秋に、恋は惰性に、愛は記憶に。大人が若さを羨むのはさんざめく世を幼気を以ってして貪ったからなんだろう。人は多くを求めすぎ、嘗ての恋すら打ち捨て、夢に恋をした。叶わぬことには目を瞑り、いや正確には目を瞑りたいのだ。持て余した孤独に、現の裏側を探っている。みんな夢を見たかった。嘗ての夢も長く醒めなければ現に豹変し拒絶した。
白秋の頃になって、ふと気づくのだ。決して不幸とは、退屈とは、向こうから成り行きの侭に訪れていたのではなく、自分が招いていたのだと。幸福を尊び、隣の芝生の青さに感動しては、嫉妬し、自らの手の内の幸福を拒絶していたのだと。
満足しない人間などお構いなしに光は虚ろい、揺蕩う。時に空気を満たし、時に引き裂いて。帷が靡いた刹那、アルミサッシの上で少し煌めいた一筋が、確かに私の網膜へ焼き付いた。
『空は何時でも綺麗だから凄くムカつく。いくら高級な絵の具で、色見本で色を混ぜてもこんな色にはなりやしない。結局自分が純粋じゃ無いからなんだろうけど。』
〈とある日の美術部での会話より〉
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