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【文学】死なばもろとも〜『歪がめられたAC.青春のゾンビゲーム』〜【HURUTA・REPORT】

第一章:閉鎖された郊外と襲い来る影


コロナ禍の自粛が長引き、メタバースプラットフォーム「Eden Sphere」に閉じ込められた19歳の女子大生、藤原沙耶(ふじわら さや)は、東京大学文学部の2年生だった。彼女の青春は、講義室の討論や図書館の静寂ではなく、バーチャル空間でのサバイバルと、現実と虚構の境界が曖昧な郊外での生活に塗り替えられていた。

沙耶は元々、論理的思考と危機管理能力に優れた才女だった。だが、メタバースのバグか、政府の極秘実験かは不明だが、彼女が暮らす郊外エリアはゾンビ化した住人たちで溢れていた。現実の肉体は自宅のVRヘッドセットに繋がれたまま、意識だけがこの「郊外」に囚われている。そんな状況下で、沙耶は生き延びるために奔走していた。

ある日、ゾンビの群れを鉄パイプで倒しながら逃げていた沙耶の前に、奇妙な男が現れた。黒いキャップにサングラス、口元に不敵な笑みを浮かべたその男は、こう言った。

「そんじゃあ、今日も暴露してきますか。」

彼こそが、@gaasyy_yade

こと暴露系YouTuber「ガーシー」だ。

第二章:ガーシーという怪物


ガーシーは単なるYouTuberではなかった。彼は「追跡者」と呼ばれ、高学歴の詐欺師集団「トマホーク」を裏で操り、莫大な資金を投じて不謹慎な暴露動画を量産する暴君だった。かつての不謹慎系YouTuber坂口章の精神を引き継ぎつつ、知能面を補うブレイン集団によって進化した存在だ。沙耶の住むメタバース郊外に突如現れた彼は、ゾンビを蹴散らしつつ、カメラを手にこう叫んだ。

「藤原沙耶ちゃん、初登場だね! お前がゾンビ相手に必死こいてる姿、視聴率爆上がり間違いなしだよ!」

沙耶は困惑した。ガーシーは彼女の名前を知っていた。それどころか、彼女の過去――両親の離婚、過保護な母親との軋轢、高校時代の失恋――まで詳細に語り始めた。彼の背後にはドローンが飛び、リアルタイムで配信が行われている。コメント欄には「暴露最高!」「沙耶ちゃん頑張れ!」と無責任な声援が飛び交う。

「どうして私のことを……?」

沙耶が声を震わせると、ガーシーは笑った。

「俺のブレインがな、お前のデータ全部抜いてきたんだよ。メタバースのサーバーから個人情報まで、全部な。」

第三章:知恵と暴力の対決


ガーシーの目的は単純だった。沙耶を「コンテンツ」として使い、彼女の日常を暴露しながら視聴者を煽り、さらなる資金と影響力を得ること。だが、彼の手段は過激だった。ゾンビを操るデバイスを手に、沙耶を追い詰める。さらには、現実世界で雇った傭兵が沙耶の自宅を監視し、VRヘッドセットを外せないよう圧力をかけていた。

沙耶は絶望しかけたが、諦めなかった。彼女は東大で学んだゲーム理論と心理学を駆使し、ガーシーの行動パターンを分析し始めた。ガーシーが視聴率のために派手な演出を好むこと、彼のブレイン集団がデータに依存しすぎていること、そして彼の資金源が「死んだ令和の虎社長」の遺産であることを突き止めた。

沙耶はまず、ゾンビを利用して反撃に出た。ガーシーが配信中、ゾンビの群れを誘導して彼のドローンを破壊。さらに、メタバース内のチャット機能を使い、ガーシーの視聴者に偽情報を流した。「ガーシーがゾンビを操ってるのは政府の陰謀だ」と拡散させて、彼の信用を揺らがせる。

第四章:裏切りと逆転


ガーシーは怒り狂った。「お前、賢い女のフリして俺をハメる気か!」彼は資金力を活かし、メタバース内に武装したアバター軍団を送り込む。だが、沙耶は一歩先を読んでいた。彼女はガーシーのブレイン集団「トマホーク」の一人、元MIT研究者のハッカーを特定し、彼に接触。暴露されることを恐れたそのハッカーは、沙耶に寝返り、ガーシーのサーバーをダウンさせた。

配信が止まり、視聴者が離れる中、ガーシーは追い詰められた。だが、彼にはまだ切り札があった。現実世界での傭兵が沙耶の自宅に侵入し、VRヘッドセットを引き剥がそうとしたのだ。沙耶の意識が現実に戻れば、メタバースでの戦いは終わる。だが、沙耶は事前に母親に暗号メッセージを送っており、近隣住民が警察を呼んで傭兵を撃退していた。

第五章:青春の奪還


メタバースに戻った沙耶は、ガーシーに最後の対話を挑んだ。

「あなたは確かに怪物かもしれない。でも、私の青春をコンテンツに変える権利はない。」

ガーシーは嘲笑ったが、彼の資金は尽き、ブレインは裏切り、ゾンビすら制御不能に陥っていた。沙耶はメタバースのシステムをハッキングし、ガーシーのアバターを永久追放。現実世界では、彼の詐欺行為が明るみに出て逮捕された。

沙耶はメタバースから解放され、現実の大学生活に戻った。だが、彼女の心には、ゾンビとガーシーと戦った歪な青春の記憶が刻まれていた。それでも彼女は前を向いた。賢さは、どんな怪物からも自分を守れる武器だと信じて。

暴露系YouTuberの歴史



初期:YouTube黎明期と暴露の萌芽(2000年代後半〜2010年代初頭)


YouTube自体が日本で広く認知され始めたのは2000年代後半頃です。この時期はまだ、HIKAKINのようなエンタメ系ややってみた系が主流で、暴露系という明確なジャンルはほとんど存在しませんでした。しかし、一部の個人配信者がブログや掲示板文化の延長として、噂話やゴシップを動画で語る動きが見られました。例えば、芸能人の噂を扱う小さなチャンネルが散発的に登場しましたが、収益化の仕組みが未熟だったこともあり、大きなムーブメントにはならなかったんです。

この頃の日本では、テレビや週刊誌がゴシップの主要な供給源でした。YouTubeはまだ「個人が自由に発信する場」として模索中だったため、暴露系のコンテンツは影が薄かったと言えます。

発展期:不謹慎系と暴露系の融合(2010年代中盤)


2010年代中盤になると、YouTubeの収益化プログラムが整備され、クリエイターが本格的に活動を始めました。ここで注目すべきは、不謹慎系YouTuberの台頭です。例えば、過激な行動で炎上を狙うスタイルが流行し、その中で「暴露」を武器にする動きが出てきました。坂口杏里やシバターのような人物が、自身の経験や他人の裏話をネタにすることで注目を集めたんです。

この時期、暴露系はまだ独立したジャンルというより、不謹慎系や炎上系のサブカテゴリーとして存在していました。彼らの目的は、主に再生数を稼ぐこと。視聴者も「本当か嘘かわからないけど面白い」という感覚で楽しんでいたように思います。

最盛期:ガーシーの登場と暴露系の確立(2020年代初頭)


暴露系YouTuberが一気に脚光を浴びたのは、2022年頃に現れた東谷義和、通称「ガーシー」の影響が大きいです。彼は芸能界での幅広い人脈を活かし、有名人の秘密を次々と暴露する配信を始めました。それまでの暴露系が小規模なゴシップや炎上狙いのネタに留まっていたのに対し、ガーシーは具体的な名前や証拠を交え、視聴者に衝撃を与えたんです。

ガーシーの登場は、暴露系を単なる噂話から「リアルタイムの暴露劇場」に進化させました。彼のチャンネルは登録者数が急増し、短期間で100万人を超える規模に。背景には、コロナ禍でエンタメが停滞し、視聴者が新しい刺激を求めていたこともあったでしょう。さらに、彼が資金力や組織力を駆使して配信を続ける姿は、これまでのYouTuberとは一線を画していました。

転換期:法的な壁と衰退の兆し(2022年〜現在)


ガーシーの成功は、同時に暴露系の限界も浮き彫りにしました。彼の暴露は名誉毀損やプライバシー侵害とみなされ、法的なトラブルに発展。2023年には逮捕されるに至り、暴露系YouTuberへの風当たりが強まりました。視聴者の間でも「面白いけど行き過ぎでは?」という声が広がり、企業やプラットフォーム側も規制を強化し始めたんです。


現在では、ガーシーのような大規模な暴露系は鳴りを潜め、小規模なゴシップや内輪ネタにシフトするクリエイターが増えています。一方で、暴露系が完全に消えたわけではなく、特定のコミュニティ向けに細々と続く形に落ち着いている印象です。

暴露系YouTuberの歴史が示すもの


振り返ると、暴露系YouTuberの歴史は、YouTubeというプラットフォームの自由さとリスクが交錯する中で育まれてきたと言えます。初期の模索から、不謹慎系との融合、そしてガーシーによるピークと衰退まで、社会の好奇心やメディアの変遷を反映しているんですよね。


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