003 マッシュルームカット哀歌
好みを宣言してる歌
マッシュルームカットソングという曲をご存知だろうか。
『私は男性のマッシュルームカット姿が大好きです(以下略)』
という台詞のサンプリングが主題のキョーレツソングである。
知る人ぞ知る、YouTubeで観る事ができる黒歴史のひとつなのだが、
これを作ったのは紛れもなく私、古町MOIなのだった…。
まだライブ活動はせず、音楽学校に通ってDTMを学んでいた頃にサンプラーの使い方を得た勢いで作った、若さとアツさを感じる曲。動画編集も始めたばかりの頃の力作なので、消せないでいる。
ここで蒸し返さなくてもいいのだが、世間へのマッシュルームカットの浸透と、私が今思うマッシュルームカットへの心理を言っておきたくなったので書こうと思う。
フクナガさんになりたい!
学校に行けず精神が蝕まれ始めた暗黒の中学時代、暗い雲の隙間から二つの光が差し込んだ。
ひとつは「音楽」、もうひとつは「マッシュルームカット」だった。
そのきっかけは諸説あるが、テレビドラマ「ライアーゲーム」に出てくる
「フクナガユウジ」という濃いキャラクターが、中二女子の心に強い衝撃を与えた。
ライアーゲームとは、言わば勝ち上がりの騙し合いゲームの物語なので恋愛ものや日常ものとは程遠い非日常感があり、日常がイケてない自分にとっては見ていてとても楽しかった。
フクナガユウジとは、俳優の鈴木浩介が演じる「悪役だけど味方かも?」みたいななんとも言えないポジションで、
ボリューミーなマッシュルームカットにサイケ柄のシャツを派手色ズボンにイン、さらに針金入りスカーフを首に巻いているという狂人めいたファッション。
私はその『フクナガのファッション』に、なぜか憧れた。
怠惰で伸ばしていた髪を「私もああいう髪型にしたい!」と思って美容院に駆け込むのもわかるだろう。
しかし、そこで予想外の言葉を食らう。
よくもよくも、そんなことを言ってくれるものだ。この先も、って占い師気取りか?そもそも流行に乗る目的じゃないっつーの!私はそいつの反対を押し切ってマッシュルームカットになった。
私は勝った。フクナガがゲームで大金を得た時のように。喜びと自己満足に浸り、その後の10年間ほどは髪型をマッシュルームカットにし続けたのだった。
美容師も最初こそ失礼極まりない人に当たったが、マッシュルームカットを得意とする人もいて、
おかげさまで『古町MOIのファッション』として維持することができたのだ。
今では世間にもマッシュルームカットは浸透した。
わかっている、私の功績ではない。
が、実際ひと昔前よりもマッシュ男子・マッシュ女子が街によくいる。
流行なんてわからない!
マッシュルームカット卒業
マッシュが大好きで私もマッシュ!な約10年を通り過ぎ、
もうすでにマッシュルームカットをやめている自分がいた。
20代後半を迎え、単純に
「この髪型だと子供っぽくなるからやめようかな」という気持ちが芽生えたのと、
「もうマッシュルームカットの男性が好きとか言うのやめよう」と思った次第である。
現実的に考えると、髪型がマッシュルームカットだから付き合いたいと思う男性は存在せず、芸能人やキャラクターでいても興味すら出ないのだ。
でもそんな今こそ、フクナガに感謝したい。
『あの頃に強烈な希望の光をありがとう!』
忘れられない毒キノコから、微かな青春の香りがした。