墨田区で優れたはさみ 「石宏製作所」
はじめに
自分は今回調査を行った墨田、ましてや墨田区になんて行ったことがなかった。それゆえに、墨田という地域がどこにあり、そこに何があるかを全く知らなかった。ましてや町工場が実際どんな環境にあるかや町工場でどのような人が働いているかなんて考えたことがなかった。
調査してからは、細い路地や住宅街の一角にこじんまりとした町工場が多かった印象がある。また、ストリートビューでも出会えない町工場や町工場に見えない町工場もあった。しかし、この墨田にはそのような町工場が多いからこそ、この日本の生産業や金属業等の様々な産業を支えていると言っても過言ではない。そんな中で、私は「石宏製作所」という町工場に興味を持ったので、紹介していきたい。
「石宏製作所」とは?
「石宏製作所」は、創業53年の医療用、一般用はさみ製造を主とした業務用機械器具製造業の町工場である。この町工場の従業員は2代目代表の石田昭雄のみである。そこでは、1か月で高硬度、高強度を得られるステンレス製の様々なはさみが200丁~300丁程度のみ作られている。さらには「すみだモダン」2011,2013,2016に当社のオリジナルのはさみが認証された。
「石宏製作所」はどこに?
まず、この町工場の外観をストリートビューを用いて見ていく。
次に、上からの視点を地図を用いて見てみる。
このストリートビューとこの地図から、非常に細い路地の中にこじんまりとした町工場があることがわかる。ここまで細い路地に町工場があるとは普通なら考えられないであろう。しかし、それが墨田にある町工場の特徴の一つでもある。
また、これ以外にもストリートビューで「石宏製作所」の内部を見学することが可能である。
「石宏製作所」は、茶色い器の中に入っている多くのはさみを一人の男性が手作りで作っているようだ。そして、非常に狭い場所ではさみを作っている。しかし、この量を一人で手作りで作るなんて、なんて素晴らしい職人なのであろうか。
この町工場内をより詳しく見てみたい方は、ぜひこのストリートビューで見てみてほしい。
「石宏製作所」の製品は?
「石宏製作所」の製品は、鋏職人2代目の石田昭雄さんによって作られているはさみである。今回はオリジナルのはさみについて紹介していきたい。
これは、重量が約157gの裁ちばさみである。このはさみは、切れ味とはさみの重さでしなやかに切ることができて、非常に使いやすい。また、切れ味の要となる「ひねり」も加えており、切断面が一点で交わるようになるため、少ない力で切れる。さらに、このはさみには「SUS420J2」というステンレスが使われている。それゆえに、錆びにくく、硬く粘りがある強いはさみになっている。
これ以外にも日常で使えるように分解して洗うことが出来る衛生的なはさみや刃先が安全で持ち運べる携帯用はさみも作られている。これらもしなやかに少ない力で切ることが出来る。
以上で紹介されたはさみは、2011年から作られている「すみだモダン」で受賞されたオリジナルのはさみの一部である。
「石宏製作所」の代表 石田昭雄とは?
はさみを作る際の一番の苦労でもある優れた職人技について、このようなことがあるネット記事で書かれている。
驚きだったのが、どれくらい叩けばいいか、どのくらいの角度で曲げればいいかというのは、数値では言い表せないため、経験と勘だけで作られていて、まさに職人技です。
「やってると必ず見えてきますが、叩き方も曲げ方も削り方も、全ては大体なんです」
長年やっていても、うまくいかないときもあるのでしょうか?
「それはありますよ。叩きすぎちゃったりとか、気分が乗らないときとか。そういう時は、ちょっとぼーっとしたり、スマホいじったり。そしたらまた叩くんです。誰も注意してくれないので、自分で自分を奮い立たせないといけないので、あとはひたすら叩きます」
はさみを作る際の厚さや幅を気にするのに非常に繊細な職人技を求められるとは思いもしなかった。そして、そのような職人技をうまく発揮するのに苦労がいるからこそ、石田昭雄さんは非常に凄い方である。また、非常に優れたはさみはここまでの職人技を持たないと作れないことも学べた。
また、このようなことも同じ記事の中で書かれている。
すみだモダンや、東京スカイツリーの反響から、オリジナル商品を作りたいという依頼が石田さんのところに徐々に入るようになってきます。その中の一つが、この黒く染められた眉切ばさみ。
「ステンレスの黒染めは、新潟の方でやってもらっています。眉切りばさみを作ってほしいと依頼された時に、黒く染めて欲しいという要望があってできるところを探しました。黒く染めたのは、白髪の人を切るのに光って見えないからだったみたいです」
石宏製作所の強みはなんと言っても、多品種少量生産。小ロットでの依頼がほとんどで、多くても数百ほど。個人での依頼も可能で、この眉切りばさみは、わずか5丁だけの生産だったそうです。お客さんからの指示は、なんとハガキで届いたそう。
小ロットにも関わらず、普段とは違う難しい依頼を受けるのはなぜでしょうか?
「どう作ればいいか悩んだりもしましたが、作ること自体は他のものと変わりません。ただ、眉切りばさみは、長さが合う材料がなく、限りなく近い材料でも長さが違ったので、切って溶接してもらうところから始めたので、手間はかかりました。でも、うちは1個からでも作りますよ。他のと一緒に作ればいいだけだし、せっかくお願いしていただいてるので、あまり断らないようにしてます」
この言葉どおり、修理も基本的にどんなはさみでも受け付けてくれるそうです。
少し長い文章であったが、以下のようなことを考えた。
小ロットでの依頼で手間がかかるような難しい依頼であったとしてもお客様のためにはさみを作ろうとしていることは非常に素晴らしい。また、製造もしながら、修理もしてくれることは、なんてお客様に対する心が広いのだろうと感心してしまう。だからこそ、この町工場は将来墨田に残すべきである。
まとめ
「石宏製作所」は、細い路地にある従業員がたった一人のこじんまりとした町工場だと思っていた。しかし、調査していく中で製品が細部までこだわりがあった。また、石田昭雄さんはお客様に対して非常に広い心を持っていて、非常に優れた職人技を持っている素晴らしい職人さんであった。
だからこそ、「石宏製作所」が墨田に残すべき非常に素晴らしい町工場であるに違いない。自分は「石宏製作所」で作られたはさみを買うことで、「石宏製作所」を少しでも支えていけたらいいと思っている。最後に、墨田の町工場や町工場の技術をこれからも日本に残していくことを支えていきたい。