瞼
君が何も口にしないから、私は世界を作り出したの。
月が綺麗だねって、笑いあった日があったよねって、そんな話をした日があった。
君のまつ毛がシーツに沈むのを、愛おしく眺めた日があった。
いつまでも君は君のままで、夢の中でも君でいた。
どうしてここにいるの。
ねぇ、どうしてここにいるの。
私は不思議で仕方なかった。
あなたと私の今があることが、私は不思議で仕方なかった。
消えてもいいんだよ、私を忘れてもいいんだよ。
私にとってのあなたと、あなたにとっての私は、多分、とっても違うから。
君の足音を聞く度に、私は君を嫌いになった。
私の先を行く背中をいつも、早歩きで追いかけた。
雨の日は会わないようにしよう。
億劫で仕方ないからさ。
雨の日は家にこもっていよう。
億劫で仕方ないからさ。
そんな言葉で辞められるほど、きっと素敵な愛じゃない。
気持ちが悪くて仕方がないよ。
私は私が許せないの。
君が何も言わないからさ、こんな世界をつくりあげた。
私は私を許せないだけの、ちっぽけな世界を作り上げた。
王様は君で、私は砂。
そのくらいの世界をつくりあげた。
サラサラと流れたその先に、君のつま先があるのかな。
風で舞って、君の目尻を知る日が、私にも来るのかな。
私は何も知らなかった。
星が揺れて消えていく日も、友達が私を嫌う日も、アイシャドウが厄介に割れる日も、私は何も知らなかった。
本当はそのままで良かったよ。
そのまま瞼を閉じたまま、君だけを知れれば良かったよ。