家を解体するとき、引き受けたもの

 両親が住んでいた家を解体する時、家の中にある全てのものを時間をかけて引き出してみた。結婚する前の10代の母から父に宛てたの手紙、父から母に宛てた手紙が別々の箱に仕舞われていた。そしてその頃から亡くなる直前までの、父の日記帳、父に触発され書き始めた母の日記帳。開くとその時々の若い父と母に対面する。両親が生きているときにはわからなかった、一生の体験の大きさや長さ、人が生きるのに必要なものを私に提示する。それらをみんな妻が庭で焼いてくれた。

 社宅からこの家に住み始めたのは1974年から。解体するときに私が引取る基準は「今使いたいもの」「両親のために私が購入したもの」「子ども(私)や孫の写真などの思い出」「部屋に飾ってあるライブな両親の思い出写真」。3ヶ月間、妻と2人で計11回、金曜日に半休を取りながら実家に通った。

 引取ったものをリストにすると、両親が生活する上で『チョットだけ工夫してきた事』の集積を感じる。それは、両親が積み上げてきた小さな文化を引き受けることである、と思った。そして、「両親のためだ」と思って購入したものたちが、やがて年をとる自分に必要なものだった、と気がつく。

例えば、洗面所の掛け時計は、視力が悪い私には重宝。同じ理由で枕元の数字が大きく光っている置き時計も。ソファに寝転ぶ+電気ストーブ、就寝前に布団を布団乾燥機で暖める、なども寒い戸建住宅にいた両親からもらったものた。

○引取ったもの!・・・・シャープペン、鉛筆、ハサミ、消しゴム、サンドペーパー、万年筆5本、インク、インクの吸取紙とブロッター、紙切りナイフ、爪切り、拡大鏡、ホッチキス、ピンセット、画鋲、写真帳から剥がした写真50枚程、子ども(私)の写真帳、孫たちの写真帳、針金のチーズカッター、泡立て器、裁縫針、パジャマ用ゴム、ペンチ、木槌、ふんばる君、キャベジン、メンソレータム、部屋に飾ってあった写真、腕時計、置き時計、掛け時計、座布団、敷布団、羽毛掛け布団、ウールの毛布、中位のお皿数枚、マグカップ2つ、こちらから持っていったコーヒーカップセット、耐熱ガラスのボウルと皿、タッパーウエアー、見覚えのある(または未使用の)ナイフ、フォーク、スプーン、バターナイフ、ハンガー・洗濯バサミ、テーブルクロス2枚、傘、杖、燕尾服一式、コートとマフラー、ベランダ用スリッパ、母の室内履き、収集した切手帳・コイン、母の女学校時代の校章・クラブ章、イアリング、父の剣道の記章、父の水彩画帳と筆、電気座布団、布団乾燥機、電気あんま器、トイレ用の暖房機、電気ストーブ、電気ヒゲソリ、トースター、エアコン、桐箪笥、3人がけソファ。

○引き取らなかったものは?・・・・もし持ってきたら私の子どもたちが30年先に困るもの、写真帳数十冊、壁にかけてある絵画や木彫、照明器具、茶箪笥・整理ダンス・衣料品類、台所用品・食器、姿見鏡、勉強机・文机、テーブルと椅子、布団類、碁盤、本棚・本・名簿類・画集、父が学生時代に勉強した参考書、父のクロッキー帳7~8冊、母のボーリングやダンスのトロフィー、パソコン、LDプレイヤー等、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、各種引き出物類、置物類、鉢植え、○別のだれかが引取ったもの・・・勲章の額、仏壇、観音様、布袋様、テレビ、ヤカン、無水鍋、プラシチックの衣装ケースと運搬用ガラガラ。


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