としまアートステーションZ、おとなのための時間を気にしなくていい準備室
雑司ヶ谷駅直結の千登世橋教育文化センターの一角に、としまアートステーションZ(「Z」は雑司が谷の頭文字。)はある。
「豊島区民をはじめとする様々な方が、自分たちの手でアートを生み出す小さな拠点」をたくさんつくろう、という「としまアートステーション構想」の一番初めのモデル拠点である。運営は2013年設立の一般社団法人オノコロ。文化や芸術をチャンネルとして「市民が自発的な活動を継続的に行える仕組み」をつくる。
週末に開館、12時~午後6時とあったので8月初旬の金曜日の12時に訪問した。まず、オノコロのコーディネーターたちが迎えてくれる。喫茶店でもあるが注文をとるわけではない。主催者(*)からは想像できないが、ここはとてもフレンドリーで、コーディネーターを介して様々な人に出会える。この日私は午後3時過ぎまで滞在し、3人から面白い話がきけた。(*)としまアートステーションの主催は東京都、豊島区、東京アートポイント計画室、一般社団法人オノコロ
ふるまい簿記のワークショップをやった五藤さん。人はお金だけで損得を考えているわけではない。この「お金以外の損得」の収支バランスは、ワークショップをやると自分では気がつかなかった収支が見えたり、極めて個人的だと思っていたことが意外と普遍的だったりする。本人も驚くほど盛り上がったそうだ。
次にお話したのは、数学者+認知科学者の矢野さん。それぞれの家の明日の太陽光発電量と使用量と余剰を予測して、前日に供給契約を結ぶスマートグリッドのシステムを研究中だそうだ。矢野さんがおもしろいのは数学的に人の満足度(7割ぐらい?)を実証し、仕組みに取り入れようとしている点だろう。
野村さんからは、スパイラルでEAT&ART TAROさんの「おごりカフェ」が立っている、との情報をいただいた。野村さんは、エスプレッソを注文。それを次の人が飲む仕組みだ。コーディネーターがいて、エスプッレッソを「初めてのむ」というFMラジオのアナウンサーと話をした。香りを楽しむ、水を用意する、などコミュニケーションができたそうだ。前に注文した人ともお話できる。何のつながりもなかった人と縁が生まれる不思議な仕組みなのだ。
オノコロの冠さんによると、今年度のコンセプトは「準備室」。日経の紹介記事「大正から昭和にかけ・・芸術家が多く住み、パリセーヌ川左岸になぞらえて・・アートによる創造的なまちづくりをめざす、としまアートステーション構想が進行中。」をみて「引きこもり」から社会復帰するステージとしてここを選び、4日間訪れた人がいた。そのときは数学者矢野さんがコーディネート役を勤めたそうだ。
ここには、特に目的なくても「面白い話が聞けるかもしれないと思ってきている」と矢野さんがいわれた。義務感がない分発想は自由に広がるとも言える。この日五藤さんとお話していて「ふるまい簿記」は「占い」のように若者をひきつけるアプリに発展するのではと思った。全く違う分野の人でも、気軽にリンクしていく。
としまアートステーションZは、地下鉄副都心線の地下空間から地上にでる丁度間にあり、表に出る準備にとりかかる場としてふさわしい。『大人のための、時間を気にしなくていい準備室』は、ありそうでない場所なのである。