Mond Tränen PhilharmoNikeR演奏会2024 -久遠の音連れ 一念の旋律-
2024年10月13日(日)に所沢市民文化センター ミューズ アークホールにて行われたモント・トレーネン・フィルハルモニカー(通称:月オケ)の3回目となる公演に、2019年に引き続き合唱指導として参加した。
前回以上の充実と、こうした活動の意義を強く感じたため、noteに記録しようと思った。
月オケ2019 -永久の響き 生命の歌 -の記憶
ミリしらで始まった月オケ2019
始まりはこんな書き出しの1通のメールからだった。
私が主催する企画合唱団の白浜坂高校合唱同好会などの演奏を副次的文化系合唱祭〜奏宴〜で聞いて、ぜひ合唱指導をお願いしたい、と。
メールの主は月オケ運営陣の一人であるもりはる。彼女の職場の背中合わせの同僚に白浜坂高校合唱同好会のメンバーでもあったやまうがいて、その彼を介してのファーストコンタクトだった。
こうした企画型のオケからの合唱指導依頼は初めてだったので、驚きと喜びとが混じる感情のまま、運営3人との顔合わせをし、色々とすり合わせをするところから始まった。
今振り返ると当初のメールで依頼された内容は
うん。無理。17曲を5回の練習でやるのはとても無理。
たぶん、ここから話をしたと思う。結果として合唱単独練習は直前になって追加した分も含めおそらく13回をやった。
それと、これも読み返して気づいたけど、初手のメールには造語・架空言語である旨は書かれてないね(笑)
兎にも角にも、NieRシリーズもDoDシリーズも知らない状態で、世界観もほぼ見えないままに手探りで音楽と言語とに向き合うことになったのだった。
指導陣との顔合わせ
次に行われたのは指導陣との顔合わせだ。練習の始まる4ヶ月ほど前に、運営の3人と、指揮者、コンミス、合唱指導の計6名で食事をとることに。私の都合で経産省での指導後の時間にしてもらったため、新橋の魚金別館を指定して予約してもらったことを覚えている。
(本来であればここで指揮のおーすけと"はじめまして"なんだけれど、前月に長年の飲み友達で月オケでもパーカッションで参加をしているぺろの計らいによりすでに顔合わせを済ませていたのである)
コンミスのyuan(のちに妻となる)とはここで正真正銘の初めまして。このときはまさか、おーすけが合唱練習にフル参加するとは思ってもみなかったし、yuanもあれほどに回数を重ねて合唱の練習に興味を持ってくれるとも思っていなかった。
譜面チェック
指導陣には練習が始まるより前に必要な作業がある。譜面のチェックだ。
編曲者から上がってきた楽譜を見て、元の音源と聞き比べ、意図していない音の書き間違えがないか、音域や旋律に無理はないか、などをそれぞれの職分に応じてチェックをする。私であれば当然合唱の4声。
このころには打楽器のトレーナーとしてSHINちゃんも加わって4人体制に。
今見返すと、曲の結末が3種類用意されていて、どう終わらせるのがよいかを相談されていた曲もある。
こんな事前準備を経て、演奏参加者の皆を迎え入れることが出来るのでした。
初心者OKの合唱
運営との顔合わせの際に初心者の受け入れ可否について相談されていたように思う。答えはもちろんYES。同時に、器楽メンバーにもきっといい影響があるから、と、希望があれば合唱練習に歌っての参加OKを提案した。
ボイトレの機会も設置した。これについてはより専門性のある人にお願いしたかったので、信頼するテノールで合唱指導者でもある田中豊輝さんにお願いし、快く引き受けていただいた。
合唱勢はやっぱり飲ミニケーション
合同の練習に先駆けて3回ほど合唱の練習があった。初回の練習は確か雑司ヶ谷。終了後にそれなりに多くのメンバーと、今は無くなってしまったサンダーバードに行った。なんならその後も足しげく通った。私も元から好きだった店だが、参加していた立教聖歌隊組がここを知っていて、それをきっかけに彼らとは仲良くなったように思う。
合唱練習にフル参加していたおーすけは、練習後の飲みにもフル参加であったことを書き添えておく。
器楽メンバーはどうしても楽器があるため、練習後にあまり飲みに行かない。とコンミスのyuanから聞いて、「なるほど」と「かわいそう」と思った。合唱ってほら、"飲むために練習している"みたいなフシもあるから。
最初の合同練習と決起会
初めての合同練習の日、私は先約で別の団体の指導があり出られなかった。
夜枠での決起会から参加したため、オケの様子も、合わせでの合唱の様子も未知数のまま。
「はじめまして」の人しかほぼいない状況に人見知り発動。ある程度の合唱メンツと運営とおーすけ、yuanしか知った顔がいない状態に、最初の席にほぼそのまま齧り付いていた気がする。SHINちゃんともオフラインでははじめましてだったため、あそこにいるよ、と言われるもの遠くから“あの辺のだれか”という曖昧な認識と、曖昧な挨拶だけしたような記憶。ごめん。
プレイ動画から得たもの
既に触れたようにNieRシリーズのことを全く知らない状態から指導が始まった。音楽そのものもつカッコ良さはわかるが、それ以上の想いについては共感のしようがない。ましてや架空言語だから言葉からのアプローチもできない。
プレイ動画でも見るか、と思ったものの「はい、それでは今日はNieR:Automataをプレイしていきたいと思います」的なアレに慣れておらず、断念。
そんな話をしたら白高同好会のメンバーでもあるおっちゃんがプレイの様子を撮影したものを共有してくれた。おかげでストーリーを理解。曲の使われてるシーンのエグさ、エモさなどを自分なりに咀嚼しながら指導にあたれることになった。感謝。
架空言語への取り組み
何度も書いているし、作品ファンにはわかりきったことだが、NieRシリーズの楽曲で使用されているのは基本的に架空言語だ。もしくは(オートマタの時間軸なら)約1万年かけて変化した地球の言語の未来予想、といえるのかもしれない。公式な表記などは基本的に公開されていないから、耳コピでの書き起こしとなる。
はっきり聞こえる部分だけでないこともそうだし、聞こえたものをどう発音させたいと思って書くか、は書き起こした人の言語体験によって微妙に変わってくる。
それを原曲をさほど知らない人が指導する、という過程にはやはり困難があった。どう発音させるべきか迷った時には現場で原曲をプレイバックしながら判断し、歌唱に落とし込んでいくこともしばしば。
もちろん合唱メンバーの中には強い思い入れや、拘りをもっている人も。そうした人にとって(特に前半は一層)もどかしいこともあったと思う。
声の選択肢
普段、オーソドックスな合唱を指導する時にもよく言っているのが「声の選択肢を増やしてほしい」ということだ。ベテランの歌い手でも"ひとパターンの良い声"しか持たない人が少なくないと感じる。曲によって、歌詞によって、場面によって、文化によって、求められる適した声はごく様々なはずだ。1色の鉛筆しか持たなければ、全ては濃淡でしか表現が出来ないが、12色を持っていれば豊かに色を変えることが出来る。少ない色を混ぜて特殊な色を作るより、最初から持っている色数が多ければ、さらにその選択肢は増える。金持ち(?)の子が持っていた60色のクーピーとかのアレだ。
ましてや月オケはそもそもの原曲が透き通るような美しい声から、民俗的なイメージの地声系まで多様なサウンドで創られている。
こと地声のブルガリアンヴォイスのようなサウンドで歌うことは、合唱の経験があったとしても普段求められないだけにできなかったり、どこまでやっていいのかわからなかったりする。
幸い、その方向性についてはちょっと見本を示したらすぐに対応できるメンバーを中心に「あ、こういう出し方してもいいのね」という理解が広まり、シーンごとに様々な声を出せるようになっていった。
演出の思いつき
練習が進むにつれ、おっちゃんの動画も進行していき、私自身の思い入れも深まっていくと、自然と表現への拘りも強くなっていく。
ただ原曲のサウンドに寄せていくだけでなく、合唱としての良さ、無理のなさと、原曲ファンにとっての納得性とのすり合わせをしていく時間は、こうした編曲もの独特の楽しみだ。
また、アンコールの演奏で、セーブデータを捧げた人から歌詞→ハミングに変えていくシーンに合わせて各々が楽譜を閉じていく、という演出を思いつき、それが観客(=作品ファン)に好評だったことは嬉しかった。
アンコールへ参戦
月オケ2019は初めて「合唱指導」という立場を経験したこともあって、観客席の特等席で公演を観た。自分が指導した演奏を観客席で観る、というのはなかなかに面白く、感慨深いものであった。
一方、おーすけや運営とこっそり相談し、アンコールだけオンステすることに。"合唱メンバーも知らせずに"だったので、並びで遠かった人たちは、私がオンステしていたことを終了後のレセプションで知ったのである。
月オケ2019が遺してくれたもの
月オケロス
かくして終了した月オケ2019。初めての大きなプロジェクト参加は私に、そしてメンバーに"月オケロス"をもたらした。練習後毎回のように飲んでいた合唱メンバーは特にロスが強く、当時合唱のグループLINEなどで終わった後も盛んに連絡を取り合っていたし、何度か食事会・飲み会も開催したように思う。
妻との結婚
そうしたロスを覚えている一員の輪に、コンミスを務めていたyuanも加わっていた。
共に戦った戦友として、同じロスを覚える仲間として、次第に距離が縮まり、月オケ本番の約2か月後にお付き合いを開始。その5か月後に入籍へと至った。
月オケでのご縁だったので、運営に伝えたら「あの二人、うまくいかないかな」と思っていたとかいなかったとか。
結婚の証人として、指揮のおーすけと運営のもりはるにサインをお願いしたのだけれど、おーすけが消えるボールペンでサインをしたことはいい笑い話。
40歳の誕生日:おーすけにフルートを演奏させたい
2019年はちょうど私が40歳となる年。誕生日当日に誰もが知っている"Happy Birthday to You"を10人の作曲家に合唱アレンジしてもらってレコーディングする計画を立てていた。
一方で、最近は指揮ばかりで楽器を演奏していないというおーすけにフルートを吹かせたい、と指導陣の飲み会でもりあがった。そこで、レコーディング後に計画している自分主催の誕生日パーティで、演奏を披露しよう、と半ば無理やりに計画を立て、友人の作曲家であるあひる先生(田中達也さん)に特別編成の作曲を依頼した。
詩は私が国分寺の喫茶店で手にした須賀敬子さんの詩集をあひる先生に贈呈し、そこから選んでもらった。
「秋風のこゑで」は、Vo.みよし、Fl.おーすけ、Vn.yuan、Perc.ぺろ、Mar.SHIN、Pf.いずみという月オケドリームキャスト(?)にて初演された。
月オケ2024 - 久遠の音連れ 一念の旋律 -
運営からの声掛け
数年後、もりはるから運営×指導陣のLINEグループに、「レプリカントVer1.22を演奏したい!」という話が投げかけられたのである。
このLINEグループに来たということは指導陣も全員留任!あのチームでなら安心して取り組める!と喜んで返信をしたが、おーすけからは「三浦オッケー!」とボディビルダーのスタンプで送られてきたのであった…
軽いわ!!
本作のプレイ
月オケ2019ではミリしら、未プレイのまま公演を迎えたが、今回は話をもらったときにちょうどプレイをしていたため、ある程度は理解をした状態で取り組めることが決まっていた。
当時のLINEを振り返ると、武器の強さの話や釣り、日記についてなど、ゲームの内容がやり取りされ、1週目の私とおーすけに対し、すでにコンプしてそうなもりはる先生からの情報が授与されている。
あとは体重、体形の話。2019の時の衣装が着られるか…。
楽しそうなグループだ(笑)
本番日の決定
とにもかくにもホールが取れないことには演奏会が出来ない。しかも今回は計画の初期段階からパイプオルガンを使うことが決まっていたため、ホールの選択肢が限られる。(おそらく)使用料金の問題なども含め所沢ミューズに狙いは定まった。
当初運営の考えていた9月からの抽選は私が忙しすぎて難しかった。合唱指導は当日必須ではないから、練習のみの参加になるけどそれでもよければ、と伝えたが、それなら10月に本番しましょう、と即答された。必要としてくれていることが単純に嬉しかった。
とはいえ10月になったらなったで、翌年幼稚園へ入園予定の娘の運動会がどうやら10月らしく園へ確認したら10月12日。更に、私の両親の金婚式も2024年10月14日。なんとか、10月13日が取れたため、運動会→月オケ→金婚式の3連続が確定した三好夫婦であった。
歌詞チェック
今回はミリしらではない。月オケ2019の時の経験もあるし、作品そのものもプレイしている。スタートの段階で解像度がそれなりに高い状態で取り組めるというのは、私自身にとって安心感のあるものだった。
楽譜が出来るより先に、歌詞だけをチェック、というのも良かったように思う。主として運営が書き起こしてくれたものを、音源を聴きながら、合唱のテキストとして自然になり、かつ発音が理解しやすくなるように、言語の雰囲気(○○語風)に寄り添いながら、スペルを修正していく。さらに、1音節ごとにスペースで区切られた断片を、単語としての切れ目を想像しながら、言語として適切になるように、フレージングが自然になるように、仮想の単語を生成していく。
こうした工程を経たおかげで、2019のときより格段にやりやすく、発音の指導も具体的になったと感じている。
譜面チェック:合唱の活躍
今回も当然譜面のチェックをした。基本的には原曲にハーモニーがあるため、その聞き取りの確認が主となる。音域的にアマチュアが歌うのにきつくとも、原曲がそうなってるなら「よし、合唱がんばれ」と譜面にOKを出す。
その中で感じたのが今回の合唱の出番の多さだ。2019より明らかに、出ずっぱりだ。しかも合唱だけになる瞬間が何度かある。
これは前回はなかった気がする。合唱だけの部分にオケが入っていて、ここは合唱だけにさせてほしかった、と思った記憶があるくらい。
だから、これは運営が前回の合唱をそれだけ評価してくれた証なのかな、ととても嬉しかった。
練習での取り組み:基礎力向上キャンペーン
合唱パートは初心者歓迎、のスタンスは今回も変わらず行くことにした。そのうえで、前回同様のボイトレはもちろん、楽譜の読み解き方やそもそものハモリ方、言葉(特にアルファベット表記のそれ)を発音するときに意識すべきことなど、月オケだけでなく、どこの団に行っても役に立つこと、を伝えたかった。
まず、みんなの理解度を測るため、「楽譜等の理解度調査」を実施した。音程、音名、階名、倍音などの理解状況を把握し、そのうえで最初に音名について説明の時間を割き、基本的音名はドイツ語で示す旨を周知した。
また複雑な音程ではなくシンプルにハモるための練習と、日本語ではない言葉を発音するための練習として、著作権フリーの楽譜が使える楽曲の中からMozartのAve verum corpus を導入。終盤までほぼ毎回の練習で、整理体操ならぬ整理合唱としてその日のテンションを鎮め、良い音程を身体に沁み込ませて帰るように意識した。
音色・声色
今回ももちろん様々な声が求められる。透明感、ボス感、民俗感。2019年から引き続き参加してくれたメンバーが多くいたため、民俗系発声への戸惑いは前回よりはるかに少なかったように思う。もちろん、初参加のメンバーは面食らっていた部分もあるだろうけれど。
一方で、オーソドックスに歌う場面では、そのニュートラルさゆえに声の選択肢が自然と狭まり、色彩に乏しくなりがちだったとも思う。だがそういう時にこそ、作品世界のイメージで表現を語れるのはこうしたゲーム音楽・アニメソングに取り組む良い所だとも思う。
ホール練習での悩み:音量
かくして最初のホール練習を迎えた。オルガンの石川さんともはじめましてだ。今回はホール練習が2回設定され、そのうち1回は参加、となったこともあってか、合唱の参加は全体の6割強といった感じ。
合唱練習の部屋ではうるさいほどに聞こえていた声も、ホールでオーケストラやオルガン相手になると、悲しいかなほとんど聞こえてこない。
その日のメモには「存在感が欲ほしい」「ボス感が欲しい」「○○を足す?」「音量欲しい」「言葉の輪郭」「子音が欲しい」などなど、軒並み聞こえないことを示唆する文言が並んでいる。
本番で人数は増えるとはいえ、オケも練度が上がればおのずと音量は増していく。前回を大きく超える80名超が集まってなお厳しいのか、と暗澹たる思いになった。
オーディションという試み
今回の譜面では多くの箇所に「Solo」「Soli」が書かれていた。とはいえ、フルオケ相手に無理、効果的でないものも多く、パートの人数を調整するにとどめた。逆に「Solo」とは明確に書かれていない2ヵ所で、ここはソロでやるべきだろうと編曲者・運営とも相談し、初めてのソロオーディションを実施した。それが、M10の配達員とM12の仮面の王だ。
月オケは人数が多いのと、そもそも本番での歌唱時間が長い事もあって、練習の際にその時間を取ることが難しく、一人ずつ歌わせることは実施していない。なので、個々人の声を取り出して聴くことはまずなかった。
多くの人が見守る中で、普段その場では起こりえない「一人で歌う」という状況に仮面の王で3人、配達員では10人を超える人が手を挙げてくれたのは、勇気のいることだったと思うしすごいことだと思う。(オーディションは受けるのも評価するのも心理的に苦手)
なお、仮面の王は正直即決だった。あまりに"そのまま"なのだ。それもそのはず、その場面を何百回、何千回と繰り返し見て体に入れた、というのだから。
かくて本番後のポストやアンケートで、コアなファンたちからの「まさか本物?」という声が見られるほどの精度と思いのこもった演技であった。
比べて配達員は迷いに迷った。
本当にそれぞれに良い所があるし、同時にそれぞれに物足りなさもあった。
運営・編曲者からは「娘に歌を教える父親感」が欲しいと言われたが、みんな良い声ではあるものの、若すぎたり、おじさんすぎたり…。
最終的におーすけ、運営陣とも相談し決定をしたが、選んだメンバーはどうやら学生らしい。
本番では、オケも一切音を出さない静寂かつ周りの男声は座っているなか一人立ち上がって歌う、というめちゃくちゃに緊張するシチュエーションでありながら、とても良い歌を歌ってくれた。
オンステの決意
最初のホール練からずっと悩んでいたことがある。合唱メンバーとしてのオンステだ。当初は2019と同様に客席で観るつもりをしていた。なんなら、当日ホールにいない可能性もあったくらいだ。
だが、ホール練で聞いたそれは明らかに音量不足だった。もちろん、私一人が増えたとて、加わる音量は高が知れている。それでも、ある程度しっかり出す人がいれば、周りの声量もつられて上がるというのはよくある。一方で残された私の参加できる合同練習はほとんどない。そもそも私自身が歌い手として間に合うのか。
迷った末に決断したタイミングは合同練習は2コマ弱を残すのみだったし、パンフの合唱メンバーに載らないくらいとてもぎりぎりだった。
はじめて合唱で参加した合同練習の休憩時に、コンミスである妻がくれた「(遅刻でいつのまにか来ていた)あなたが歌い始めたタイミングが分かった。合唱の声が変わった」という言葉はすごく嬉しかったし、オンステすると決めて良かったとも思った。
中に入ることで気づくこと、伝えられること
そうして中に入って歌ってみると見えることがやはりある。前には聞こえてはこないが、中で起きている小さな事故の数々。発音そのものの間違いや、母音変化や語尾子音のタイミング違いなど。練習中に指示はしていても会得できていなかったり、練習に不在であったために文字による指示の伝達だけでは十分理解できていなかったり。そうしたミスについて、ごく近くのメンバーには直接何度か声を掛けたりもしたし、全体にも再確認をするいい機会となった。
また、練習で歌う時は努めて前よりも周りへ響くように意識した。”ここはこれだけ出してもいいんだよ”とか”こんな色合いで歌ってね”を歌で伝えるように。立ち位置もテナーとアルトの間の3列目、となるべく多くの人に私の声やイメージが届く位置を選択した。
おかげで、特にテナーやアルトのメンバーから、その言語外メッセージを受け取った旨を練習後やレセプションで聞くことが出来た。
今回は本番直前の平日にあった最後の合唱練習でおーすけに指揮をまかせ、私も一緒に歌いながら歌い手目線での気付きを共有する形をとったが、もし次の機会があって歌う決断をするのであれば、もう少しそうしたスタイルでの練習を増やしてみようと思う。
きっとおーすけは合唱練習全参加してくれるから出来るはず。
コレペティの存在
合唱練習では本番にピアノで参加するさくらそうさんや、他の器楽メンバーがピアノを弾いてくれることもあり大いに助けられたが、中でもコレペティいずみさんの存在は大きかった。彼女はプロピアニストとしてゲーム音楽などの経験が豊富で、スコアの読み込みも素晴らしく、合唱練習用にピアノに落とし込まれたコンデンス版には書かれていないオケ部分についても、必要に応じて弾けるようにスコアから引き出してくる。
おかげで、合唱メンバーもオケ合わせの時に「あ、これいずみさんが弾いてくれていたあの旋律だ」と気づくことが多かっただろうし、そうしたガイドによって合唱の入るべきところや音高がつかみやすくなった部分がたくさんあった。
まさにプロの仕事である。
練習と当日の意識の違い
月オケは公募型の企画団体で、基本的にはその作品を好きな人が集まり、音楽で作品愛や想いを共有することを大事にする場だ。もちろんゴールに演奏会が設定されているから、人に聞かせることを前提とはしているものの、練習ではまず自分達が楽しみ、共感し、恐怖し、憎悪し、感動し、感涙することが大切だと思っている。
一方で演奏会当日はそうした自分達自信が楽しむことは二の次になり、来てくださったお客様に作品世界をお届けすることがなによりの優先事項となる。
だからこそ当日にM13のエミール/犠牲でアルトと共にハイトーンで歌うテナーのオーディションを行い、ボーイソプラノのようなサウンドで無理なく全音域を歌える人のみに歌ってもらうようにした。自分達の出したい、歌いたい、より、お客さんの聞きたいサウンドを求めることが大事だから。
また、当日まで決めきれなかった表現も最後まで追求した。M02のイニシエノウタ/ポポルで、ポポルに近づいていくようなサウンドを作るのに、ゲスト奏者のギターとの最終的な擦り合わせは必然的に当日になり、その中でソプラノ、ギター共にフレーズの開始にクレシェンドすることを決めた。
そこのサウンド作りの意味を受け取ってくれていた観客が多くいて、拘り抜いて良かったと思う。
私自身にとっては当日の舞台リハで初めてテノールとして歌った曲も多くあった。繰り返し注意したことでうまくできていないことや、新たな気づきなども多く、リハーサルではずっと歌いながらスマホでメモを取り、曲が終わるごとにDiscordの練習指示チャンネルに共有を重ねた。あともう少し意識をすることで、より良いものに近付くと信じていたから。月オケ全体としては数少ないプロの指導者として役割をもらっているのだから、最後まで全体のクオリティ向上に寄与していたかったから。
リハの締めくくりに次の言葉を贈った。
初心者も多くいる現場で、こういうメッセージを出せたこと
その意味が伝わる、きっと演奏が良くなる、と感じられたこと
改めてとても良い団体だったと思う。
良い響きのハコといっぱいの客席からしか得られない栄養素
良い会場は団体を育ててくれると信じている。もちろん本番だけでなく練習も。
月オケが今回、所沢市民文化センター ミューズのアークホールという、屈指の響きの良さを持つ会場で二度の事前練習と本番をできたことは団としても個々人としてもとても良い経験となったと思う。空間の広い、響きの良いハコに如何にして音を飛ばしていくのか、または音を委ねていくのか。ffの残響の心地よさ。無理せず聞かせられるppの美しさ。色々なものを体感できたのはきっと良い糧となったに違いない。
また、多くの来場者に恵まれたこともありがたかった。
"大人になって、人から拍手をされる"って実は特別なことだ、と、以前所属していた合唱団の指揮者に言われてハッとしたことがある。
大きなホールで多くのお客さんに見守られ演奏を披露し、舞台照明に照らされながら割れんばかりの拍手を浴びる、というのは本当に格別なものである。
そこで得た感動や興奮は、他の体験では補い難い。だから、また次の舞台へと立つのだと思う。
最前列限界オタ
今回の演奏会では、ことP席(通常の舞台の後方、オルガン前の位置に設置されている席のこと)に配置された合唱からは指揮者の向こうにいるお客さんたちがよく見えた。
その中でちょうど指揮者の後ろの最前列ど真ん中に座る女性の反応が特別に大きかった。端的にいうと、ほとんど泣きっぱなしなのである。
シーンが変わるごとに「はぁ」と泣き崩れ、手にしたハンカチで顔を覆う。それをひたすら繰り返しているのだ。隣の女性も同様である。
だめだ、あそこを見るとつられてこっちも泣いてしまう、と思うが、指揮者の真後ろだから視界から外すのもむずかしい。
1ステージを終えて休憩になった時に、口々に最前列中央の女性について噂する合唱メンバーたち。
コンミスの妻ももちろん気づいていた。すぐ近くだしね。
のちにわかるのだが、この女性二人組はなんと親子だそうで。
二人で趣味を共有し、同じ場面で同じリアクションで泣ける、ってとっても素敵だなと思う。
我が子たちとそんな共有できるものを持てるようになれたらいいな。
オタ(運営)の愛の塊を、オタ(演者)が受け取り、共感・表現し、オタ(観客)が解釈し号泣する
月オケはなんと言っても運営陣の作品愛が異常なまでに強い。まあ、オタクとしてはそれが正常であるのだが。そしてその愛に共感できるオタクたちが演者としてあつまり、半年をかけて練習をし、たくさんのオタクたちの前で演奏し、その演奏で多くのオタクたちが泣いてくれていた。
実際、最前の女性だけでなく、あちらこちらから度々啜り泣くような音は聞こえてきてたと思う。
本当に愛の塊の素敵な音楽空間だったと思う。
これは公募企画型の大きな魅力だと思っている。
なにかのきっかけになれるということの意義
一方で中には未プレイの人や、友人に誘われてきたミリしらの人もいる。それでもその音楽や、それを愛する人たちの熱に触れ、自然と作品をプレイしてみようと思った人は多くいた。
もう一度プレイしたくなったという人はもっと多い。
"月オケが初めてのフルオーケストラのコンサートだった"
"初めてパイプオルガンを聞いた"
という人もいた。
"迷っていたアカペラサークルに入ることにした"
"自分の「好き」を諦めないで貫くことに決めた"
という人も。
月オケのオンステメンバーにも、初めて合唱をするという人がたくさんいてくれた。
こうして「何かの・誰かのきっかけになれる」というのは本当に尊いことだ。
初めは作品に特化した経験であったとしても、横のつながりで次のオケ、合唱へと足を踏み出す人も少なくない。
合唱を経験する人、愛好する人を増やしていきたい、と考え、さまざまな施策を打つ立場にいるものとして、こうした活動は本当にありがたいし、そこに関わることができてとても光栄だとも感じている。
終わりに
5年の時を経て、コロナ化を経て、結婚と出産を経て
個人的にも、世間的にも大きくいろんなことが変わったと思う。
以前より作品に対する理解も、器楽に対する理解も深まっていたし、2019ではほぼ知り合いがいなかったのに対し、今回は器楽チームも含め格段に多くの知り合いがいた。
ある程度の弱点も見えていたし、その対策も予め用意できた。
それでも全てを思うように伝えられたわけではないし、用意したことの全てを実施できたわけでもない。
多くのことは達成できたし、2019以上にいい演奏会となったと思っているが、同時にまだできることもあると思っている。
なによりこの運営・指導陣のチームが、そこに惹かれて(もちろん作品にも)集まってくる月オケのみんなが好きだ。
次の機会があること、またこの陣容で取り組めることを切に願う。
2027年はNieR:Automataが10周年を迎えるらしいですよ。運営さん。
余談
本番日の決定の項目で触れた、娘の運動会の朝、親族合わせて7人分のお弁当を作ろうと張り切って調理していた時のこと。蓮根と共に左掌を思いっきりスライス。運動会もその日にあった本番も包帯ぐるぐる巻きで過ごすことになり、運営に連絡。
ドレスコードでコスプレは禁じられていたので、この包帯はカイネのコスプレではありません、と伝えた。
M01の冒頭で指揮を振る際、合唱の皆から私が本番の照明に重なり見えづらかったらしいのだが、手が白かったおかげでなんとか拍がわかったらしい。まさしく怪我の功名である。
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