「うたのなか」 第2日

テスト演奏と楽譜のFIX(5/24)

音取り

この日は実際に楽譜を使用してのテスト演奏を行った。前回は皆の顔を見ながら声を聞くことが出来ただけでも十分に楽しかったが、今日はいよいよ合唱練習である。
まずは音取りから。私以外のマイクをホスト権限でミュートにし、ライン入力している電子ピアノの音に合わせて各自で歌う。Zoomで歌うことに特化した楽曲のため、音数も比較的少なく、ユニゾンも多用されているからサクサク進む。音域も広くないので基本的に全員に全ての声部(3声)を取ってもらった。
これもシステムとの相性の問題でソロが多い。曲の終わりには13人が一音ずつをつないでいく個所もある。そういう部分の指名では聞き逃しの無いように、画面共有機能を活用して楽譜に直接名前を書き込むことで理解をしてもらった。

練習そのものはいたって「いつも通り」であった。
声の大きい人が優先して聞こえるのはオフラインでも同じこと。むしろ、タイミングによっていろんな人の声が聞こえてくる分、普段は埋もれがちな人の声も聞こえてくるのは面白い。

今回の曲が意図的に指揮者もピアニストも置いていないため、各自が率先してタイミングを計り歌い進める必要がある。
私自身も歌いながら、このシステムでの聞こえ方などを考慮しつつ、歌い方、タイミングの取り方などを森山さんやメンバーと相談し、詰めていく。

これまでの初演で重ねてきたのと同じような楽しい手探りの時間がそこにあった。

プロフィール画像と仮想背景

音や歌い方、タイミングの取り方の確認が一通り終わると、映像面のリハーサルのスタートである。
Zoom合唱ならではの特性として、プロフィール画像や仮想背景を使用する指示が楽譜には書かれている。カメラのオンオフのタイミング、すべき動作などを順を追って試していった。

蛇足だが、当初は冒頭の花を仮想背景に、プロフィール画像を空にする予定であった。
歌い手は画角から外れたところで歌い始め、途中で仮想背景の花の中に姿を現す。
が、仮想背景が端末によって実に様々な挙動を示すのだ。
背景の一部に現実の部屋が残る人、服が背景に溶け込む人。中には顔までもが仮想背景に取り込まれて、とてもアートな風合いになる人も。結果的にこの方法では森山さんが意図した映像にはなりそうもなかった。

音声のタイミング合わせ

この作品はZoomを通じた合唱本来の同時性を楽しむという歌い手への体験の提供をひとつの目的としながら、他方ではそうして撮影された映像と音声をWEB上で公開することで完結する。
つまり、演奏と聴衆への伝達の間にはラグが発生する。
また、Zoom上で鳴る音は3音までのため、作品として公開するには全員の音声を編集で重ねなおす必要があった。それなら編集して公開された音源は多重録音と変わらないのでは?という意見もあるだろう。
しかし、同時に演奏するという体験は多重録音では得られないものだ。

また、今回の音の重ね方にもこの作品ならではの工夫がある。

音声の重ね方として一番に思いつく方法は、録画者の映像に合わせてそれぞれのメンバーの音を重ねることだ。
単純な方法は、録画・録音を開始してから、メンバーそれぞれはっきりとした動作と同時に声を発しておく。「手を挙げながらハイっ!と言う」あたりが簡単だろう。
そうして各人の動作にそれぞれの「ハイ」の声のタイミングで同期していけば、録画者の環境で鳴っていた(鳴るはずだった)音を再現することが出来る。

しかし森山さんから提案された方法はそれとは違うものだった。
あらかじめ時計を合わせておき、同時刻に手を叩き、その叩いた音で同期をする、という方法だ。
当然Zoom上ではそれぞれのラグによってばらばらに叩いた音が聞こえてくる。
が、距離を隔ててそれぞれの空間で同日同時刻に発せられていた、その瞬間の音が、編集された音声によって聞くことが出来るようになる。
演奏者のだれもが聞くことのできなかった、本当に同時に演奏されていた音楽をバーチャル上で再現する。とてもロマンチックな同期方法だと思った。こうすると同期をさせた音声を聞くことの意義が演奏者自身にとっても強くなる。そしてそれは同時にいわゆる多重録音では考慮しえない方法でもある。

※楽譜には録画を公開せよ、とも記載していないし、公開時の音声の同期方法も指示はない。だから、初演の方法に合わせなければいけないこともないし、そもそも映像を作る必要も必ずしもないことは念のため記しておく。
システム上の音声的な不完全さはあるものの、音を共有しながら同時に演奏することで十分に楽しめる作品である。

イヤホン・ヘッドホンの利用

前段で述べたように音声をあとから合成するためには、参加者それぞれの声のみを録音する必要がある。Zoomから流れてきた音がすべて入ってしまうと、編集時にぐちゃぐちゃになってしまうからだ。つまり、イヤホンやヘッドホンの使用が必須となる。
これもちょっとしたことなのだが、パソコンの世代や設定によって、イヤホンとマイクが1端子で処理され、イヤホンだけを接続したときにパソコン本体のマイクが拾わないことがあった。
後にパソコンの設定をすることで無事に解決はしたのだが、練習段階ではイヤホンを使わずとも不都合はなかったため、通して録音してみようという段になって慌ててしまい、その瞬間では解決できずタイムアップとなってしまった。


こうして作品と奏者と双方にいくつかの課題を残し、テスト演奏が終わったのである。

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