伊藤正夫の歯ミング噛ミング 静岡編二話門と問
わたしは、歯科インプラントの手術を行う口腔外科医なので、題字はハミングとカミングに掛けています。歯のこと喰うこと生活のこと、旅の中で楽しく語っていこうと思います。
静岡編では、静岡県にゆかりの人や出来事や土地を取り上げて、お話をします。もしよろしければ、YouTubeでも同じ内容を動画にしていますのでご覧ください。今日のタイトルは「門と問」です。
静岡駅からバスで三○分くらい行きますと、日本平の麓に瀟洒な建物があり、静岡県立美術館といいます。ここにロダンの彫刻が展示されています。
中でも目玉は、有名なロダン作の「地獄の門」。ブロンズのとても大きな門です。七つ八つ鋳造されたらしく、それぞれ世界に分散しています。日本ではここ静岡県立美術館と東京上野の国立西洋美術館の前庭にあります。
日本で言えば室町時代の頃のお話で、叙事詩「神曲」の著者ダンテは、フィレンツエの役人でしたけれど、失脚し放り出されて、怒りのあまり地獄を作りました。この地獄の入り口の門をブロンズにしたのが、ロダン作の「地獄の門」です。門には、地獄に落ちる人たちの、嘆きや阿鼻叫喚が、大迫力で浮き彫られています。門をくぐるともうそこは地獄の縁、リンボーと呼ばれ、異教徒たちが住む世界、トロイのヘレンなんかがそぞろ歩く世界です。
そして円錐型の大きな断崖を巡り下りるにつれて、生ける時に罪を犯した者たちが、永劫の罰を受けている。ですが、その罪というものは、大概ダンテの主観が入り混じっているところに人間的で親しみやすい。怖いばかりでなくて、そんなところもあります。
門の上の方には、人が座っており、間違えて生者が迷い込まないよう番をしています。頬杖をついたこの門番は、「考える人」と呼ばれ、独立のブロンズ像になりました。
静岡県立美術館、いっぺん是非訪れてみてください。
「門」という漢字、「笑う門には福来る」の門の音読みが「もん」ですが、口を付け加えると、意味が変化し、「質問」の「問」になります。地獄門の門から、何かを問いかける門に変わったのです。
この漢字は「門構え」ではなく、口偏なんだそうです。門《もん》の方は音を、口の方は意味を表すので、意味が先行して口偏なのだとか。
つまり口は「質問する」臓器です。そういう臓器は他にありません。
わたしはインプラントを専門にしておりますので、悩みごとや相談をお受けします。静岡では、敬天堂歯科医院に参る折にお話を伺おうと思います。それではどうかお元気で、ごきげんよう。