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北斗晶よ、女子プロレスに謝罪しろ!⑮

全女のチャンピオン アジャ・コング

 1992年11月26日川崎大会。アジャ・コングはブル中野を破って、全女の最高峰の赤いベルト、WWWA世界シングル王座を奪取する。

 アジャ・コングに敗れたブル中野は、柳澤健の取材で赤いベルトについて「心がなかったら獲れない」と言っている。「自分がどうのこうのというよりも、女子プロレス全体、プロレス界全体を見られる立場というか。これからどうすればいいのかを考えられる人が持つべきベルトだと思います」。

 ブル中野は『極悪女王』でブレークしたダンプ松本のパートナーとして、クラッシュギャルズと戦うヒールレスラーだったが、ダンプ松本が引退した後、ブル中野は凶器に頼らない、プロレスのできる強いヒールを目指してやってきたチャンピオンで、壮絶な戦いを見せることで全女を引っ張ってきた。

 今でも伝説になっている1990年11月14日に横浜文化体育館で行われた金網デスマッチで、ブル中野は金網の上に登ってそこからギロチンドロップを落としてプロレス界に衝撃を与えた。
 ブル中野自身の身長を加えると4メーターを超える高さからの落下である。お尻を床に落として足を相手に浴びせるギロチンドロップは、当時100キロを超える体重を有していたブル中野にとってはまさに命と引き換えの攻撃だった。
 飛び降りる直前、ブルは両手を合わせて拝んでみせたが、その姿がまた観客にインパクトを与えた。
 ブル中野のギロチンドロップに、それまで女子プロレスをナメていた男子レスラーも目をみはり、女子では神取忍がブル中野に強く惹かれている。ブルは赤いベルトについて語っている通りに、チャンピオンとしてプロレス界に強い影響を与えて見せた。

 その金網デスマッチの相手を務めたのが赤いベルトを奪取したアジャ・コングだ。
 アジャ・コングはもともと長与千種に憧れて全女に入った選手で、ベビーフェイス志望だったが、会社から言われてダンプ松本率いる極悪同盟に入れられ、ブル中野の付き人をやっている。
 ダンプ松本が引退し、極悪同盟がなくなって、ブル中野は新しく獄門党を立ち上げる。そこにアジャ・コングは参加し、ブル中野が唱える強いヒールを目指すことになる。

 獄門党に入ってから、アジャ・コングは当時設立したばかりの男子プロレスの団体ユニバーサル・プロレスリングに参戦し、人気を博すことになる。ユニバーサルはメキシコ流の飛び技を主体とするルチャの団体で、提供試合として全女の選手が派遣されていた。
 そこで客を沸かせたアジャ・コングは、全女の会場にユニバーサルの客を連れてくることに成功する。クラッシュギャルズ引退後、客足がガタ落ちになっていたこの時期に、観客動員の面で大いに貢献している。

 そのアジャ・コングが獄門党を離れ、そこからブル中野との壮絶な抗争が始まる。お互い憎しみ合い、殺したいとまで思うほどに感情のたぎらせての試合が行われた。前出の金網デスマッチもその戦いの中で生まれた試合だ
 そんな死闘が2年続いて、アジャ・コングはついにブル中野を破り、全女のチャンピオンとなり赤いベルトを巻いたのだった。

 試合後のアジャ・コングとブル中野は抱き合って涙を流し、「中野さんから受け継いだこのベルト、あまりにも大きすぎますけど、中野さんが歩んできた道を汚さないよう自分がしっかりやっていきます」と言って、ブル中野の前に腰を落として深々と頭を下げ、その感謝を伝えた。
 2年に及ぶ戦いの中で、ブル中野とアジャ・コングはいつしか心が通じ合うようになっていたのだ。

 ブル中野とアジャ・コングをめぐる物語は細部においても様々エピソードがあり、極めてドラマチックだ。葛藤、憎悪、和解、共感と、リングの上で恐ろしいほどに感情をむき出しにした戦いのストーリーが展開されてきた。その意味でアジャ・コングは間違いなく称賛に値する。
 ただし、そのストーリーが全女内部においてのみの物語ならば、という前提がつく。

 内部でいくら魅力的なストーリーがあったとしても、その集団が外部の存在にひどいことをしていたら、そのストーリーがどんなに魅力的であっても通用するのか? という話だ。

 アジャ・コングが赤いベルトを巻いたこの日は、くしくもLLPWの風間ルミ、神取忍、ハーレー斉藤がこの会場に招待され、だまし討ちの策略にはめられた日でもあった(全女によるだまし討ち)。

 赤いベルトのチャンピオン、アジャ・コングは、前に紹介したアジャ・コング・井上京子vsイーグル沢井・沙羅ゆかりでLLPWの未熟な沙羅ゆかり観客に見せつけるようにいたぶって見せた。

 さらに、全女のチャンピオンになったこの日から1年後、LLPW主催の駒沢大会で、残忍な凌辱試合を行い、LLPWの興行を潰してへらへら笑っていた。

 ブル中野の「自分がどうのこうのというよりも、女子プロレス全体、プロレス界全体を見られる立場」というチャンピオン像とはかけ離れたチャンピオンの誕生だった。


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参考文献および引用元


雑誌・書籍・ネットニュース等
週刊プロレス 週刊ゴング NUMBER 1993年の女子プロレス 
別冊宝島 プロレスライバル読本
1995年のクラッシュ・ギャルズ ぼくの週プロ青春記
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