舞埋マイワールド 第3話
今日も沢山の他人という私の世界が舞い埋もれている。
―朝―
<公園>
不絵ちゃん「ふえ~、いらっしゃいませ余命一年ちゃん」
余命一年ちゃん「何やってるの不絵ちゃん」
不絵ちゃん「私の描いた絵を売ってるの」
余命一年ちゃん「へえ不絵ちゃん、絵を描き始めたんだ」
不絵ちゃん「うん、それで余命一年ちゃんは私の絵買う?」
余命一年ちゃん「うーん買う前に作品を見たない」
不絵ちゃん「はい、見て見て」
余命一年ちゃん「? これは何かな、楔型文字? もしかして古代文明の壁画を扱った作品?」
不絵ちゃん「違うよ、夕焼けに向かって飛ぶ鳥を描いたんだよ」
余命一年ちゃん「鳥……文字にしか見えないよ」
不絵ちゃん「ネットに作品を投稿した時と同じような反応だね。絵じゃなくて意味不明な言語で書かれた文章ってコメントを貰ったんだ」
余命一年ちゃん「ごめんね不絵ちゃん、私にはこの作品の良さが分からないな。だから買うのは遠慮しておくね」
不絵ちゃん「それは凄く残念なことだけど、謝ることじゃないよ。いつか余命一年ちゃんが買いたくなるような絵を描いて見せるよ」
余命一年ちゃん「ふふ、それは楽しみだな」
不意打ち君「おい、お前等こんなところで何やってるんだ?」
余命一年ちゃん「あ、不意打ち君」
不絵ちゃん「私の絵を売ってるの、不意打ち君も買う?」
不意打ち君「どれどれ、うわー下手くそな絵だな。センスないから絵描きなんて止めた方が良いぞ」
不絵ちゃん「ふえ?」
不意打ち君「その反応まさか、お前自分の事を天才だと勘違いしているタイプか。分かってないようなら教えてやるよ。お前の絵から才能は感じない」
不絵ちゃん「君は私の描いた絵が下手くそだと思うの?」
不意打ち君「ああそうだよ。分かってないようだから何度でも言ってやる、下手くそく下手くそ超下手くそな絵だ」
不絵ちゃん「ふふ、ありがとう不意打ち君」
余命一年ちゃん「良かったね不絵ちゃん」
不絵ちゃん「うん」ニコニコ
不意打ち君「どういうことだ? 何が良かったんだよ。意味がわからねえぞ。何で自分の絵を馬鹿にされて喜んでる。どうしてだ?」
不絵ちゃん「だって不意打ち君が初めて私の描いた作品を下手くそな絵として認めてくれたんだもん」
不意打ち君「はあ?」
余命一年ちゃん「絵と認識されないのなら、それは絵じゃないかもしれない。だけど下手な絵と評価されたのなら、それは絵なんだよ」
不意打ち君「まさか……」
不絵ちゃん「下手な絵も上手な絵と同じ絵だよね」
余命一年ちゃん「そうだね」
不意打ち君「おい余命一年ちゃんよ、お前はこの絵に何て感想を述べたんだ?」
余命一年ちゃん「楔形文字」
不意打ち君「……ちくしょう」
不絵ちゃん「それで不意打ち君は私の絵買うの?」
不意打ち君「買わねえよ、疲れたから帰る」
不絵ちゃん「それは残念、ばいばい」
余命一年ちゃん「ばいばい」
不意打ち君「おう、じゃあな」
今日も沢山の私という他人の世界が舞い埋もれている。