落研の部室で一人で楽しんだ落語
大学の落研の部室は和室でとても心地良かったです。部活がない日でも授業の合間には入り浸っておりました。昼間から酒を飲むこともありましたし、半分は家のように使ってました。
そしてやっぱり楽しみは落語の音源を聴くこと。今思えば、池袋演芸場とか近い寄席にもっと行けばよかったと思いますが、当時は部室の音源を聴き漁っている方が性に合っていました。
今日はそんな中から特に衝撃を受けたものを三つ紹介します。
※敬称略で記しています。
「あくび指南」柳家小三治
これは、YouTubeでも取り上げましたが、僕は一年生の頃に割と初めて手に取った音源です。当時はカセットテープでしたが、これに先輩が律儀に寄席文字でタイトルを書いてあって、それが並んでたんですよ。
落語の知識が全くない僕は、とりあえず先輩に聞いて「小さんか小三治を聴いておけば間違い無いよ。」の言葉を胸に、探してみました。ただ、演目についてはわからないから後はタイトルのインパクトでとりあえず手に取るしか無い。
そこで目に入ったのが「欠伸指南」。漢字で書いてるところが落研らしいですが、この欠伸がまず読めなくて、先輩に「けっしん指南って何ですか?」と目をキラキラさせて訊いていました。
で、このあくび指南というのがまず引っ掛かちゃんです。
「え?あくびを指南するの?」
この単純な疑問が、とても新鮮でした。落語はただ古い噺をしてるだけって思ってたら、まずこの発想に驚いたんです。
聴いてみたらさらに驚いた。これはもうまず小三治師匠の音源が凄いんですけど、それを差し引いてもこの噺はすげえって思いました。
テレビのお笑いしか知らなかった僕に電撃が走りました。同じじゃんって。お笑いにある要素は既に落語にあるじゃんって思いました。
落語の出会いがこの噺だったおかげで、早い段階で僕は落語の可能性を見つけることが出来ました。今思えば、この瞬間から落語家への道筋が出来始めていたのかもしれません。
とにかく衝撃でした。語彙力少なくてすいません。
「短命」五代目柳家小さん
小さん師匠はどれも好きだし、一番を上げるのは難しいんですが、「短命」は特に好きです。
確かビデオで見たんだと思います。おそらく落語研究会の映像だと思うんですが、これがまあすごいのなんの。
「押さない芸」を知りました。
小さん師匠の真骨頂ですね。お客に歩み寄らせる芸です。この噺は主人公のハっつぁんが、全然理解しないのを分からせるために隠居さんが何度も説明するんですが、僕なんかがやるとどんどん強めになって行って、「怒り」「呆れ」が出ちゃうんですけど、小さん師匠はそんなものがまるでない。
淡々とふわふわ説明するんですけど、お終いの「短命だろ?」
の一言で、ブワッとウケるんです。
この「短命だろ?」がもうこの噺の一番のポイントで、あの「短命だろ?」が言いたくてずっとやってますが、未だに出来ません。本当に出来ません。
僕は先代の小さん師匠だと「短命」が一番好きです。
「すみれ荘201号室」柳家喬太郎
色々迷ったんですが、最後はこちらです。僕の同期が喬太郎師匠が大好きで、MDを色々借りて聴いてました。
全部面白いんですが、この噺は特に最初の頃に聴いたので物凄く印象に残っています。
ご自身が落研だったことをこれでもかと抉るようなネタです。
僕は当時落研に入ってまだそんなに経っていなかったので、この噺を聞いて「落研ってそんなに虐げられている部活なんだ。」と思ったのを覚えています。
全く間違いじゃ無いですからねw
イケイケな落研なんて聴いたことがない。どの大学でも大体同じなんですよね。
僕はこの落語を聴いた時に思ったのは、落語なんだけど、描き方が落語じゃない感じがしていたという事です。
当時は気が付かなかったんですが、後で思えば演劇的だったんだと言うことですね。
大きなところで言えば、場面転換の時に地の文(ナレーション)を挟まないってことですね。
古典落語だと大体、「これからどこどこへやって来る。」「あっという間に夜が明けて、朝早くに」とか状況説明が入りますが、それがなかった。
パッとセリフで次の場面に行ってる。で、一瞬わかんないけどセリフの流れからすぐに場面が変わったのがわかる。
新作落語というものに惹かれたというより、この手法がとても印象的でした。
落研の音源
今回は三つに厳選しましたが、思い出の音源は数え切れません。
今じゃ絶対ダメですが、OBの先輩が寄席で隠し録りした音源とかもあって、なかなかすごい時代だなあとも思います。
カセットテープなので音質は悪かったんですが、カセットって最後まで聴くんですよね。
僕の時はこうして昔の名人上手を聴くのが当たり前だったんですけど、最近の現役の子達はあんまり聴いていないみたいですごく寂しいです。
時代の流れなんでしょうけどね。聴いて欲しいです。柳好の「野ざらし」とか、「芝浜」だって僕は可楽が好きです。
でもしょうがないです。落語はいつだって新しいですから。