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落語家が見ても『米津玄師/死神』MVは最高でした。

にわかに盛り上がっている米津玄師さんが歌う『死神』のMVですが、落語家から見てもとてもカッコいい仕上がりになっていて驚きました。歌詞の解説をされているYouTubeも観ましたが、なるほど落語とのリンクのさせ方が上手いなあと感心しました。

そんなミュージックビデオを見て気づいた点というか、落語初心者の方にもわかる死神と末廣亭の解説をしたいと思います。

『死神』簡単あらすじ

詳しいあらすじは検索で出ますので、ざっくりお話しますと。

ある男が、死神に出会い医者になる。呪文のおかげで一儲けするが、ある患者をズルして治してしまう。

それに怒った死神が洞窟へ連れて行く。そこには何千何万の蝋燭が。全部人の寿命だという。

ズルしたことで、寿命が減った(蝋燭が短くなった)主人公に死神が新しい蝋燭を差し出す。これに火を移せば助かるというが手が震えて移せない。結局火が移らず消えてしまい主人公はパタリと死んでしまう。

これが簡単なあらすじです。落ちは人によって色々変わりますが、最終的には主人公が死ぬ演出が多いのではないかと思います。

そんな死神をインスパイアして歌っているのが今回の米津玄師さんのMVです。場所は新宿末廣亭で、米津玄師さんはMVの中で噺家も客も全てやっています。ひたすらカッコいいMVです。

ロケ地は新宿末廣亭

まず大前提として、ロケ地は新宿末廣亭です。総木造で、震災にもびくともしなかった建物です。昔の大工さんの技を感じますね。

僕も2011年3月11日はこの楽屋に居ました。それはそれは揺れました。

高座には床の間があるのが特徴です。

初めてこの高座を見た方は落語の舞台がかなり高いところにあると気付くんじゃないかと思います。落語は正座してやるため、お客席との高さの差がとてもあります。寄席ではお客さんの頭より上に高座があるように作られています。

これは都内の寄席全てに言えることです。

和気満堂

高座の頭上にある字は、和気満堂と書いてあります。昔の書き方なので右から読みます。

読んで字のごとく、会場全体が和やかな空気に包まれているというのを表しています。とても良い言葉ですね。

和気を感じたい方は寄席へお越しください。

米津玄師の着物は夏物

今や『死神』は季節を問わずやりますが、やはり夏の御話です。なので、米津玄師さんも夏の着物を着ています。

羽織が透け透けなのは、紗(しゃ)という生地で、絽(ろ)という夏物よりさらに薄い盛夏に着る着物を着ておられます。

着物は、はっきりわかりませんが麻っぽい生地ではないかと思います。コーディネートされていますね。

羽織紐は房のないシンプルなタイプでした。

時計が2:30

高座から一瞬客席を映した映像が出ますが、時計が映ります。落語家は高座からあのアナログ時計を見て落語をやりますが、その時間が2:30になっていました。

夜中に撮影したのか、死神が出てくる時間ということで、丑三つ時に設定したのか、どっちかなと思っていたらファンの方が後者の方だと教えてくれました。

あんな一瞬なのにそこまで設定してるのは、芸が細かいなあととても感心しました。

ちなみに、実際の落語では丑三つ時に出て来る描写はありません。

アジャラカモクレンテケレッツのパー

歌詞に出てくるこのアジャラカモクレンテケレッツのパーというのが、死神を吹き飛ばす呪文です。

演者によってアジャラカモクレンの後をアレンジしたりしますが、この言葉ってとても響きが良いんですよね。

テケレッツのパーはTシャツにしたいくらい良い言葉です。

落語芸術協会の新真打のポスターと東京かわら版のポスター

個人的に嬉しかったのは、米津玄師さんが入り口から入ってくるシーンで、芸協のポスターとかわら版のポスターが貼ってあったことです。

というより剥がさなかったのが嬉しいです。普段からあそこに貼ってあると思うんですが、それをそのままMVに入れ込んでくれたところが、「寄席の雰囲気をそのままに」という気概を感じてとても嬉しかったです。

協力は「落語協会 柳亭左龍 新宿末廣亭」

落語協会と末廣亭が協力に入っていて、さらに左龍師匠が名を連ねておられました。

今度、左龍師匠にお話を伺いたいですね。

おそらく、高座へ上がるまでのやり方、座り方、お辞儀の仕方、羽織のあしらい方、死神の所作などを教えたんだと思います。

死神が杖をつく所作はちゃんとカナメのある方を下にしていたので、誰か教えたんだろうなと思っていたらちゃんと最後に左龍師匠のクレジットがあって、納得しました。普通、初めてやると開く方(紙が付いている方)を下にしがちなんです。

米津玄師さんは所作も綺麗で、死神の雰囲気もバッチリでしたね。

まとめ

今回は落語家から見たMVで気づいた点を述べさせて頂きました。こういうことで、落語に注目が行くことは本当に嬉しいことだと思います。落語界にとってもメリットしかないので、こういうコラボは大歓迎です。

落語の歌は『寿限無』ばかりでしたが、『死神』を扱うところが米津玄師さんのセンスを感じます。僕なんかがいうのはおこがましいですが。

これを機に落語を聴きに行ってみようという人が増えることを願っています。

それでは寄席で。

『死神』、またやろうかな。


動画による解説はこちら👇👇👇


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林家はな平
落語について、また過去の思い出等を書かせて頂いて、落語の世界に少しでも興味を持ってもらえるような記事を目指しております。もしよろしければサポートお願いいたします。