「ご苦労様です」
挨拶に使う
落語家が使う言葉に「ご苦労様です」というのがあります。どういう時に使うかというと、まずは挨拶の時。楽屋に入る時、また楽屋に誰かが入って来た時。これは誰に会っても同じです。後輩でも先輩でも同期でもお囃子さんでも、全て「ご苦労様です」です。
昼でも夜でも「おはようございます」と言うのは落語の世界じゃなく、お芝居とかそっちの世界から来ているみたいですね。「おはようございます」も使います。丁寧な挨拶は「おはようございます、ご苦労様です」というセット使いです。これも結構言います。
高座に上がる人に使う
もう一つ使う場面は、高座に上がる人に対してです。上がる人が「お先」とか「お先勉強させて頂きます」ときたら、「ご苦労様です」と返すんですね。これも先輩後輩関係ありません。ご苦労様です。で大丈夫です。
ビジネス的には
さて、この「ご苦労様です」なんですが、どうやらビジネス用語では目上の人には使っちゃいけないみたいなんですね。これは上の人が下に使う言葉らしいんです。それを僕らは堂々と目上の人に使うわけなんです。小三治師匠にも馬風師匠にも「ご苦労様です」と言っても、落語界では全く問題ないんです。
一般のビジネス用語では目上の人に対しての挨拶として「お疲れ様です」があるそうですが、逆にこれを楽屋でやったら違和感がめちゃくちゃあります。「お疲れ様です」自体は使いますが、挨拶には使えません。高座が終わって楽屋に戻ってきた時とか、帰る方に対して「お疲れ様です」は使います。だけど、楽屋に来た人に「お疲れ様です」とか楽屋に入る時に「お疲れ様です」はあり得ません。やっぱり落語家は「ご苦労様です」ですね。
この「ご苦労様です」という雰囲気は客観的に見れば確かに上から目線のオーラがあります。時代劇なんかで、主君が家来に「ご苦労であった」のように使う場面を見ていることもあるかもしれません。
ネットで調べました
気になってネットでこの「ご苦労様」を調べると、何人かの言語学者が唱えているんですが、「この言葉が目上の人から下のものに対して言うようになったのは明治になってから」としてありました。
『仮名手本忠臣蔵』の中にも家来が主君に対して「ご苦労千万…」というのが出てくるそうです。明治初期でも、上に対しての「ご苦労」を用いているものがあるそうです。
では江戸時代は、上の人は下の人になんと言っていたか。これは「大儀であった」だそうです。そういえば大河ドラマでこの言葉聞いたことありますよね。
で、これが明治から大正にかけて変わっていったそうです。倉持益子さんという言語学者の方が言うには、ご苦労様が目上の人が使うようになっていった背景には軍隊の言葉として定着したからではないかということでした。1980年代からは今と同じように目上の人が下のものに使うように定着したらしいです。
落語家は江戸時代のように、目下のものから目上のものにという限定した使い方でもなく、双方向で使っています。ミックスですね。
ちなみにこの「ご苦労様です」を我々と同じように、目下から目上にも使っている人の割合って15%あるそうです。人口の15%も落語家がいるわけではないので、もしかしたら他の業界にも我々のような使い方をしているところがあるのかもしれませんね。