落語家のネタ下ろし
落語家にはネタ下ろしという定期テストがあります。正確には不定期なテストです。期間は決まってないので。
それとテストと違うのは強制じゃない事と、全て実技だという事くらいですかね。
まずネタ下ろしというのは何かというと、初めてお客様の前で新しいネタを披露する事です。
なんだそれだけかと思うかもしれませんが、そこに至るまでにはいくつかステップがあります。
まず噺を覚えなきゃいけない。
でこの噺を覚えるためのステップがなかなかすんなりではありません。どなたかに教わらなきゃいけません。
二つ目までは基本的に真打の師匠のところへ行きます。ステップは次の通りです。
①まず◯◯師匠にお稽古のお願いに行く。
②実際教わる。今は音を録らせてもらえる。
③必死に覚える。
④上げのお稽古のお願いに行く。(上げとは高座でやっても良い許可をもらうためのお稽古)
⑤上げのお稽古。上がらない場合は何度か通う。
以上です。
見てもらうと分かる通り、①と④はただお願いに行くだけです。落語家は目上の人に電話でお願いなんて出来ませんから、実際にお会いしてきちんとお稽古を依頼するんです。
なので③を除いて、四回その教わる師匠に会うわけですね。上がらない場合はさらに数回お稽古があります。
そんな苦労をしてやっと許可をもらえればネタおろしをします。なのでネタおろしはお客さんの前ですが、その前にちゃんと落語家に聴いて貰ってるわけですね。
で、いざネタおろしとなるわけですが、このネタおろしの感覚は非常に重要で、ここでお客さんの反応如何でその後のこのネタに対する思い入れが変わってくるんで、特に最初は細心の注意を払います。
初めてなんで出来は良いはずはないんですけど、とにかく何が重要かというとデータ収集です。この持っていき方、このセリフ、ここの感情の出し方がどうなのか。そんなことを例えお客さんが少なかったとしても、感じ取って行くわけです。
こんなことを特にネタおろしから僕の場合は3〜5回はやります。なのでネタおろしってのはお客さんがいなきゃ全く意味がないんですね。
なので生配信ではネタおろしは出来ませんね。お客さんがいないので。反応が分からなければデータを収集できませんので。
こういうことを考えていると落語ってなんのためにやってるのって話になるんですけど、やっぱりお客さんのためにやっているんですね。じゃあ客のいない生配信は落語じゃないのかってことになるんですけど、演者側からしたら落語じゃないですね。
だけど、だけど、これで楽しんでもらえてる人がいることもすごく理解しています。なのであくまで代替作で生配信をやっているということですね。
ネタおろしというものをこれからもしていかないといけないんですけど、やっぱり今の状況では出来ませんね。生配信でネタおろしは僕には出来ない。
せいぜいおさらいくらいでしょうか。
生配信を今たくさんする様になって来たので、生配信の落語と、今までのお客さんを入れてやる落語と、落語をやる行為は一緒ですが、その中にも演者の中で違いがあるというのを最近ずっと考えています。