せっかくならば
今日は珍しく、何の予定もない日だった。
よし。
こんな日はお昼過ぎまで寝て、朝昼兼用のご飯を済ませ、気が済むまでゴロゴロとして
気まぐれに映画なんか見て
そしてまた
ゴロゴロしよう。
そういう計画を立てていた。
一見大した予定でもないように見えるが、私にとってはこれも立派な計画。
だったのだが…。
ふと、大学で必要な教材を買わねばならぬ事を思い出してしまった。
多分、今日を逃してしまえば一向に買いに行く事はないだろうと悟った私。
仕方なく、地元のショッピングモールへと向かう予定を付け加えた。
のだが……
「え、ないですやん」
念の為スマホで在庫を確認してみたところ、私が探していた教材の在庫は無く、もっと言うと、近くの本屋全てが在庫切れだったのである。
まぁ、事前に調べていて良かったという思いはあったけれど
でも
「一冊くらいあってくれよ……」
が正直な意見だ。
一応その店、取り寄せも可能だったのだが、今日手に入れると決めたら、意地でも手に入れたくなるのが私。
普段そこまでプライド高いわけじゃないのに、こういうとこは謎に譲れないのだ。
そうして、なんとか在庫が残っているお店を見つけ出し、足早に支度を済ませ向かう事となるのであった。
ちなみに言うとその本屋、地元からは少し離れた都会にあったので、行くと決めた時点で家ゴロゴロ計画はもろともに崩れ落ちてしまった。
ま、まぁ、いっか。
電車に揺られること一時間。
毎度毎度思うけど、都会、人間がとても多い。
多分ここにいるみんなが思っているんだろうな。
「この人達、ここに何しに来てんだろう」って。
私も思っているし、多分思われているんだろうな。
なんてくだらない事を考えていると、無事本屋に到着。
予め取り置きをしてもらっていたので、探す労力は必要なかったのだけど、でも、せっかくここまで来たのならと、色々と本を見て回る事にした。
それにしても、本ってこんな沢山あるんだなぁ。
なんて、小学生みたいな事をただ呆然と呟いてみる。
雑誌や小説、絵本や、写真集。
その中でも特に目を惹くのは、やはりエッセイ集だ。
エッセイに興味を抱くようになったきっかけは、東田直樹さんの「飛び跳ねる思考 会話の出来ない自閉症の僕が考えていること」という本だった。
またこの本については後々紹介したいと考えているのだが、兎にも角にも、この本は私にとって、凄く衝撃的だったのだ。
心を突き動かされるとは、まさにこういう事かと痛いほど、いや、痛くはないけど思い知らされた作品なのである。
そうして色々なエッセイを物色していると、次第に本買いたい欲が増してきてしまった。
あれも欲しい。
うわ、これも欲しい。
だがしかし、私、現在金欠である事を思い出してしまった。
なんなら私、金欠を理由に友人からの遊びの誘いを断ってしまった。
あ、ごめんよ友人。
また遊びに行こうね。お金、貯めるからね。
本買いたい欲からひとまず逃げるようにカウンターへと向かい、そうして、取り置きしていた教材だけを購入し店を後にした。
ふぅ、危ない危ない。
なんとか教材を得た私は、せっかくだからとカフェへ立ち寄り、二時間程勉強をする事とした。
そうして家路へと向かう、つもりだったのだが…
またしても誘惑。
とてつもなく美味しそうな匂いを漂わせたパン屋を見つけてしまった。
それも、結構行列の。
あぁ、都会は誘惑が多すぎる。
私、別に行列に並ぶのが好きとかではないし、特別パンが好きなわけではないのだけど
あの決まり文句が、頭の中にふわふわと浮かび上がってきてしまった。
まぁ
「せっかくなら。」
そうして無意識のうちに列へと並び、お店の名物なのよと言わんばかりに並べられたクロワッサンの一つを手に取る。
うん、これで終えよう。
そう言い聞かせながら、そっと塩パンとドーナツも購入し、店を後にした。
あれ?
私、三つも買ってしまってた。
あれれ、おかしいな。
にしてもこのセレクト、まさに私のマザー牧場が大好きなやつだ。
あ、マザー牧場とは、私の母である。
私、無意識のうちにマザー牧場の好きなパンを選んでいたらしい。
あぁ、多分こういうのが幸せっていうんだろうなぁって、なんとなく思ってしまった。
喜ぶ顔が見たいとか、いつものお礼にとかじゃなくて
手に取った物が、無意識にその人へのプレゼントになる。
うん、相変わらず何言っているのか分からなくなってきたが、なんか素敵だ。
そうしてそっとカバンにパンをしまい、潰してしまわぬように慎重に持ち運ぶ。
多分、周りからみたらカバンにペット飼ってる人みたいになってるんだろうな。
それくらい慎重に慎重に、家へと向かっていたのだ。
ちゃっかりマザー牧場に
「美味しそうなパン買ってきたよ」ってメールなんかしちゃって。
まぁ、せっかくだしね。
私のカバンには、雑に扱えない3匹のパン達がいるのだから。