毎日目覚ましをかけない
毎日目覚ましをかけない。
夜明けの前に庭掃除をする早起きな婆さんのほうきと、踏切の音で目を覚ますから。
布団をたたみメガネをつけて、昨晩読んだ本にしおりを挟む。
歯磨きをして、伸びた口髭をハサミで整え、他の髭は綺麗さっぱり剃ってしまう。
顔を洗い、髪を少し整えたら霧吹きを持って2階に上がる。目に見えないほんの少しの生長を喜び、今日も水をやる。
さて、仕事に行く時間だ。作業服に着替え、鍵とわずかな小銭をとる。
扉を開けて空を拝むとまだ青暗い。今朝は昨日よりかは晴れそうだ。
いつもと同じ缶コーヒーを買い、車に乗って一口。今日掛けるレコードはどれにしようかしら。
毎日同じことの繰り返し。
同じことを繰り返すから、洗練される。
一つ一つの動作ーいや、所作とあえて言おうーに心がこもっていて、繰り返すことに喜びを感じている。そこに惰性はないのだ。
同じことを繰り返すから、小さな自然の変化を、自分の変化を、よろこびを、哀しみを、大いに感じる。
これは日本的であり、仏教的、あるいは茶室的な生き方の美学である。