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【運営管理】経済的発注量(EOQ)

経済的発注量(EOQ)


経済的発注量(EOQ: Economic Order Quantity)は、発注費用と在庫保管費用の合計を最小化する理想的な発注量を決定するための在庫管理手法です。



EOQの定義

企業が在庫を維持するためには、大きく分けて発注費用在庫保管費用の2つのコストがかかります。

  • 発注費用: 商品を発注するたびに発生するコストです。具体的には、注文書の作成、発注処理、荷受、検品、支払い手続きなどにかかる費用が含まれます。発注回数が多いほど、このコストは大きくなります。

  • 在庫保管費用: 商品を在庫として保管するためにかかるコストです。具体的には、倉庫の賃料、保険料、棚卸費用、在庫の陳腐化による損失などが含まれます。在庫量が多いほど、このコストは大きくなります。

EOQは、これらの相反するコストのバランスを取り、総コストを最小化する発注量を求めるためのモデルです。




EOQの前提条件

EOQモデルは、いくつかの前提条件に基づいています。

  • 需要が一定かつ予測可能: 一定期間における需要量が一定であり、かつ予測可能であること。

  • リードタイムが一定: 発注から納品までの期間(リードタイム)が一定であること。

  • 単価が一定: 発注量にかかわらず、商品の単価が一定であること。

  • 在庫の補充は一度に行われる: 発注した商品は、一度にまとめて納品されること。

  • 在庫切れは許容されない: 品切れによる販売機会の損失は考慮されていません。

  • 発注費用と在庫保管費用が既知で一定: 各コストが事前に把握でき、かつ一定であること。




EOQの計算式

EOQは以下の式で計算されます。

EOQ = √(2SR / H)

ここで、

  • R: 年間需要量 (単位: 個)

  • S: 1回あたりの発注費用 (単位: 円)

  • H: 1個あたりの年間在庫保管費用 (単位: 円)
    = 在庫品の単価 × 在庫費用率



EOQの導出

EOQの式は、総コストを最小化する発注量を求めることで導出されます。
※EOQの導出に興味のない方は読み飛ばしてもらって構いません。

総コスト(TC)は、年間発注費用と年間在庫保管費用の和で表されます。

  • 年間発注費用: (年間需要量 / 1回あたりの発注量) × 1回あたりの発注費用 = (R / Q) × S

  • 年間在庫保管費用: (平均在庫量) × 1個あたりの年間在庫保管費用 = (Q / 2) × H

ここで、Qは発注量です。平均在庫量は、一定の需要(一定のペースで商品が売れていく)と即時補充(発注したらすぐ商品が届く)の前提から、Q/2 と近似されます。

総コスト(TC)は以下の式になります。

TC = (D / Q) × S + (Q / 2) × H

この総コスト(TC)を最小化するQを求めるために、TCをQで微分し、その値を0と置きます。

d(TC) / dQ = - (DS / Q^2) + (H / 2) = 0

これをQについて解くと、EOQの式が得られます。

Q = √(2DS / H)




EOQの例

ある小売店が年間10,000個の特定商品を販売するとします。1回あたりの発注費用は5,000円、1個あたりの年間在庫保管費用は200円とします。

この場合、EOQは以下のように計算されます。

EOQ = √(2 × 10,000 × 5,000 / 200) = √500,000 ≒ 707

したがって、この小売店は、約707個ずつ発注することで、発注費用と在庫保管費用の合計を最小化できることになります。




EOQのメリット

  • 計算が容易: 比較的単純な計算式で算出できるため、実務での適用が容易。

  • 総コストの削減: 発注費用と在庫保管費用のバランスを取り、総コストを削減できる。

  • 在庫管理の改善: 適切な発注量と発注タイミングを把握することで、在庫管理を改善できる。




EOQのデメリット

  • 前提条件の制約: 現実のビジネス環境では、需要の変動、リードタイムの不確実性、価格の変動など、EOQモデルの前提条件を満たさないことが多くある。

  • 品切れリスクの無視: 品切れによる販売機会の損失を考慮していないため、安全在庫の確保などの対策が必要になる。

  • 数量割引の非考慮: 発注量に応じた数量割引を考慮していないため、実際の最適な発注量とは異なる場合がある。

  • 複数品目への適用: 単一品目に対するモデルであるため、複数品目を扱う場合には、品目ごとに計算する必要がある。

  • 動的な環境への不適応: 市場環境や需要パターンが変化する場合、定期的にEOQを見直す必要がある。




まとめ

EOQは、在庫管理における重要な概念であり、発注費用と在庫保管費用の合計を最小化する発注量を求めるための有効なツールです。しかし、現実のビジネス環境では、様々な要因が絡み合うため、EOQモデルをそのまま適用できるケースは限られています。EOQの前提条件や限界を理解した上で、他の在庫管理手法と組み合わせたり、発展形を検討したりすることで、より効果的な在庫管理を実現することができます。

復習問題(計算問題)

問題1

ある小売店では、特定の商品を年間を通して販売しています。以下のデータを用いて、経済的発注量(EOQ)を計算してください。

  • 1回あたりの発注費用: 5,000円

  • 年間需要量: 20,000個

  • 在庫品の単価: 1,000円

  • 在庫費用率: 20% (これは在庫品の単価に対する割合で、資本コスト、保管スペース費用、在庫サービス費用、在庫リスク費用などを全て含んだものとします)

解答

問題1

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