【企業経営理論#8】近現代の経営学
近現代の経営学
今回は、” 近現代の経営学 ”についてです。
直近の3-4回にわたって、経営学の起源や、時代とともに変化してきた経営学についてまとめてきました。
1960~70年代以降も、より複雑化、より多様化する社会経済に対応すべく、経営学はさらに多様化し、専門分野も細分化されていきました。
戦略論の隆盛(りゅうせい)
1970年代後半から1980年代にかけて、企業を取り巻く環境が大きく変化⁽¹⁾し、企業はそれまでの安定的な成長から、激しい競争にさらされるようになりました。
これらの変化に対応するために、企業は長期的な視点に立った戦略的な経営が求められるようになり、戦略論が注目されるようになりました。
1)環境が大きく変化した背景
・石油危機:1970年代の石油危機は、世界経済に大きな衝撃を与え、企業は資源の確保やコスト削減などの対応を余儀なくされた。
・グローバル化の進展:貿易や投資の自由化が進み、企業は海外企業との競争にさらされるようになった。
・技術革新:コンピュータやインターネットなどの技術革新が加速し、企業は新たなビジネスモデルや競争戦略を模索する必要に迫られた。
戦略論の特徴的な理論(競争戦略論・製品市場マトリクス・戦略の5P)
競争戦略論(マイケル・ポーター):企業は、業界構造を分析し、競争優位を築くための戦略を選択する必要があるとする考え。ポーターの競争戦略論は、以下の3つの主要な要素から構成されています。
1) 5つの競争要因(5フォース分析):ポーターは業界の構造を分析し、競争の激しさを決定づける5つの競争要因を提唱しました。
新規参入の脅威:新規企業が業界に参入しやすいかどうか。参入障壁が高いほど、既存企業にとって有利になる。
買い手の交渉力:買い手が価格や条件に関して交渉力を持っているかどうか。買い手の交渉力が強いほど、企業の収益性は低下する。
供給者の交渉力:供給者が価格や条件に関して交渉力を持っているかどうか。供給者の交渉力が強いほど、企業のコストは増加する。
代替品の脅威:顧客が、既存製品・サービスの代わりに利用できる代替品があるかどうか。代替品の脅威が高いほど、企業の収益性は低下する。
既存企業間の競争:業界内の既存企業同士の競争の激しさ。競争が激しいほど、企業の収益性は低下する。
これらの5つの要因を分析することで、企業は業界の競争状況を理解し、自社の戦略を策定することができます。
2) 3つの基本戦略:ポーターは、企業が競争優位を築くための3つの基本戦略を提唱しました。
コストリーダーシップ: 低コストで製品・サービスを提供することで、競合よりも低い価格を設定し、市場シェアを獲得する戦略。
例:業務効率化、規模の経済、低コストの原材料調達など
差別化: 製品・サービスに独自の価値を付加することで、顧客から高い価格を支払ってもらう戦略。
例:ブランドイメージ、品質、機能、デザイン、顧客サービスなど
集中化: 特定の顧客セグメントに焦点を当て、そのニーズを満たすことに特化する戦略。
例:ニッチ市場、特定の顧客層、特定の地域など
企業は、自社の強みや弱み、業界の競争状況などを考慮して、これらの基本戦略から最適なものを選択する必要があります。
3. バリューチェーン(価値連鎖):ポーターは、企業活動を戦略的に分析するためのフレームワークとして、バリューチェーンを提唱しました。バリューチェーンは、企業の活動を、主活動(調達、製造、販売、マーケティング、サービスなど)と 支援活動(人事、財務、技術開発など)に分類し、それぞれの活動がどのように価値を創造し、競争優位に貢献しているかを分析するものです。
バリューチェーン分析を通じて、企業は自社の強みや弱みを把握し、競争優位の源泉を特定することができます。
ポーターの競争戦略論は、出版から40年以上経った今でも、多くの企業で活用されている重要なフレームワークです。しかし、現代のビジネス環境は、グローバル化や情報化、技術革新などが加速し、ポーターの時代とは大きく変化しています。そのため、競争戦略論を適用する際には、現代のビジネス環境の特徴を踏まえ、柔軟に解釈する必要があります。
製品・市場マトリクス(イゴール・アンゾフ): 企業の成長戦略を、既存製品・新規製品、既存市場・新規市場の2つの軸の組み合わせで分析するフレームワーク。
この2つの軸を組み合わせることで、以下4つの成長戦略が導き出されます
1) 市場浸透:既存の製品を既存の市場にさらに浸透させる戦略。
顧客基盤の拡大、販売チャネルの増加、プロモーション強化などによって、既存市場でのシェア拡大を目指す。
リスクが比較的低く、実行しやすい戦略だが、市場が飽和状態に達すると成長が鈍化する可能性がある。
例:顧客ロイヤリティプログラム、広告キャンペーン、価格割引
2) 製品開発:既存の市場に新しい製品を投入する戦略。
新製品開発、製品ラインの拡張、既存製品の改良などによって、顧客に新たな価値を提供し、市場シェアを拡大する。
新製品開発には、時間とコストがかかり、市場に受け入れられないリスクもある。
例:新機能の追加、新モデルの開発、ブランド拡張
3) 市場開拓:既存の製品を新しい市場に投入する戦略。
新規顧客セグメントへの参入、新規地域への進出、新たな販売チャネルの開拓などによって、市場を拡大する。
新規市場の開拓には、市場調査やマーケティング戦略の変更などが必要となり、リスクも伴う。
例:海外進出、オンライン販売、フランチャイズ展開
4) 多角化:新しい製品を新しい市場に投入する戦略。
新規事業の立ち上げ、企業買収、合弁事業などによって、事業ポートフォリオを拡大する。
成長機会が高い戦略だが、リスクも最も高く、新規事業の立ち上げには、多大な投資と経営資源が必要となる。
例:異業種への参入、新規技術の開発、M&A
製品市場マトリクスは、企業が自社の成長戦略を検討する際に、以下の点で役立ちます。
成長機会の特定:4つの成長戦略を検討することで、自社にとって最適な成長機会を特定することができる。
リスクの評価:各戦略のリスクを理解することで、リスクを最小限に抑えながら、成長を追求することができる。
経営資源の配分:各戦略に必要な経営資源を明確にすることで、経営資源を効率的に配分することができる。
しかし、製品市場マトリクスには「複雑なビジネス環境の反映が難しい」や「動的な変化をとらえるのが難しい」といったデメリットも抱えており、活用には十分に注意が必要です。
戦略の5P(ヘンリー・ミンツバーグ):戦略を、Plan(計画)、Ploy(策略)、Pattern(パターン)、Position(ポジショニング)、Perspective(視点)の5つの側面から捉えるフレームワーク。
Plan (計画)
将来の方向性を定め、目標達成のための行動計画を策定すること。
意図的な戦略形成プロセスで作成される、明確で具体的な計画を指す。
例:SWOT分析、シナリオプランニング、事業計画など
Ploy (策略)
競合を出し抜くための巧妙な戦術や駆け引き。
競合の意表を突く行動や、競争優位を築くための戦略的な行動を指す。
例:奇襲攻撃、価格競争、提携戦略など
Pattern (パターン)
過去の行動や意思決定から形成される、一貫した行動様式。
企業文化や組織構造、リーダーシップスタイルなどに根ざした、無意識的な戦略を指す。
例:常に革新的な製品を開発する、顧客満足度を最優先するなど
Position (ポジショニング)
企業が市場や業界において、競合と差別化された位置を占めること。
製品やブランドのポジショニング、市場セグメンテーション、ターゲティングなどが含まれる。
例:高級ブランドとしてのポジショニング、ニッチ市場への集中など
Perspective (視点)
企業の経営理念や価値観、世界観。
企業の行動や意思決定を導く、根本的な考え方や視点を指す。
例:顧客中心主義、社会貢献、環境保護など
5Pは、戦略を多角的に捉えるためのフレームワークとして、現代の経営学において重要な役割を果たしています。
戦略論の影響
戦略論は、企業の経営や組織、そして社会全体に大きな影響を与えてきました。その影響は多岐にわたり、企業の競争力強化から社会全体のイノベーションの促進まで、幅広い分野に及びます。
企業への影響
競争優位の意識向上:戦略論は、企業が競争に勝ち抜くために、独自の強み を持ち、競合との差別化 を図ることの重要性を強調した。
この考え方は、企業の競争意識を高め、イノベーションや効率性向上への取り組みを促進した。長期的な視点の導入:従来の短期的な利益追求型経営から、長期的な視点 に立った戦略的な経営へと転換を促し、企業は、将来のビジョンを明確化し、持続的な成長を追求するようになった。
環境分析の重視:企業を取り巻く 外部環境 や 内部環境 を分析し、機会と脅威、強みと弱みを把握することの重要性を認識させ、これにより、企業はより的確な戦略を策定できるようになった。
組織構造の変化:戦略論は、戦略を実行するための 組織構造 の重要性を指摘し、企業は、戦略に合わせて組織構造を柔軟に変化させるようになり、分権化 や プロジェクトチーム などの導入が進んだ。
経営管理システムの進化:戦略の実行状況を 評価 し、改善 するための 経営管理システム の導入が進みました。目標管理制度やバランス・スコアカードなど、戦略と連動した管理システムが開発された。
社会への影響
産業構造の変化:競争 を促進し、産業構造 の変化を加速させた。企業は、競争優位を築くために、新たな製品やサービスを開発し、市場に参入することで、産業全体の活性化に貢献した。
イノベーションの促進:企業の イノベーション を促進する役割を果たした。企業は、競争に打ち勝つために、技術革新や新規事業の創出に積極的に投資するようになった。
グローバル化の進展:企業の グローバル化 を促進した。企業は、海外市場に進出し、グローバルな競争に参画することで、経済のグローバル化に貢献した。
社会貢献:企業は、戦略論を通じて、社会貢献 の重要性を認識するようになった。企業は、社会的な課題を解決し、持続可能な社会の実現に貢献するための戦略を策定するようになった。
現代の戦略論
現代社会は、グローバル化、情報化、技術革新などが加速し、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と言われています。このような環境下では、従来の戦略論だけでは対応しきれなくなってきています。
そのため、ダイナミック・ケイパビリティ⁽¹⁾ や ブルー・オーシャン戦略⁽²⁾、オープンイノベーション⁽³⁾などの新しい戦略論が登場し、注目を集めています。
戦略論は、企業が変化の激しい環境の中で生き残り、成長していくための羅針盤として、今後もさらに進化を続けていくでしょう。
1)ダイナミック・ケイパビリティ:変化の激しい環境に対応するために、企業が組織構造や経営資源を柔軟に変化させる能力。
2)ブルー・オーシャン戦略:競争の激しい既存市場(レッド・オーシャン)ではなく、競争のない新たな市場(ブルー・オーシャン)を創造し、そこで収益を獲得する戦略。
3)オープン・イノベーション: 企業が、社内だけでなく、社外のアイデアや技術、知識を活用することで、イノベーションを加速させること。
組織文化論の登場
組織文化論は、組織のパフォーマンスや競争優位に影響を与える要因として、注目されるようになりました。
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