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【財務・会計】証券投資の個別リスクと市場リスク

証券投資の個別リスクと市場リスク


証券投資には、様々なリスクが伴います。大きく分けて、個別リスク市場リスクの二つがあります。


個別リスク

個別リスクとは、特定の銘柄発行体固有の要因によって生じるリスクです。主なものとしては、以下のものがあります。

  • 信用リスク: 発行体が財務状況の悪化などにより、元本や利息の支払いができなくなるリスク

    • 企業の倒産や経営不振、国の財政破綻などが原因で発生します。

    • 格付け機関による格付けや財務諸表の分析によって、ある程度予測することができます。

  • 価格変動リスク: 株式や債券などの価格が、市場の需給や企業業績などの影響を受けて変動するリスク。

    • 株式の場合、企業の業績や成長性投資家の期待感などによって株価が大きく変動することがあります。

    • 債券の場合、金利変動や発行体の信用力変化などによって価格が変動します。

  • 流動性リスク: 投資家が希望する価格で、希望する時に、証券を売買できないリスク。

    • 流通量の少ない銘柄市場環境の悪化時に発生しやすくなります。

    • 流動性リスクが高いと、売却時に不利な価格で取引せざるを得ない場合があります。

  • カントリーリスク: 特定の国や地域に投資する場合、その国の政治・経済状況社会情勢などの変化によって生じるリスク。

    • 政治不安や経済危機、戦争、自然災害などが原因で発生します。

    • 新興国や発展途上国に投資する場合、特に注意が必要。

  • イベントリスク: 特定の企業や業界に特有の出来事によって生じるリスク。

    • 企業の不祥事や訴訟、製品の欠陥、業界再編、規制強化などが原因で発生します。

    • 予期せぬ出来事であるため、事前に予測することが難しいリスクです。




市場リスク

市場リスクとは、市場全体の動きによって生じるリスクで、全ての銘柄に共通して影響を与えるリスクです。主なものとしては、以下のものがあります。

  • 金利リスク: 金利変動によって、債券や株式などの価格が変動するリスク。

    • 金利が上昇すると、債券価格下落し、株式価格下落する傾向があります。

    • 金利が低下すると、債券価格上昇し、株式価格上昇する傾向があります。

  • 為替リスク: 為替レートの変動によって、外国証券の価値が変動するリスク。

    • 円高になると、外国証券の円換算価値は下落します。

    • 円安になると、外国証券の円換算価値は上昇します。

  • インフレリスク: 物価上昇によって、貨幣価値が下落し、資産の実質価値が減少するリスク。

    • インフレになると、同じ金額で買える商品の量が減り、資産の実質的な価値が減少します。

    • 株式や実物資産インフレヘッジ効果がある程度期待できますが、債券や預貯金インフレに弱い資産です。

  • 市場流動性リスク: 市場全体の流動性が低下し、証券の売買が困難になるリスク。

    • 金融危機や市場の混乱時に発生しやすくなります。

    • 市場流動性リスクが高いと、売却時に不利な価格で取引せざるを得ない場合があります。




個別リスク+市場リスク=証券投資リスク

証券投資リスクは、大きく分けて個別リスク市場リスクの二つに分類され、これらを合わせたものが証券投資リスク全体となります。


個別リスクは、銘柄選択や分散投資によってある程度コントロールできます。例えば、財務状況の健全な企業の株式を選んだり、複数の銘柄に分散投資することで、個別リスクを軽減することが可能です。

一方、市場リスクは市場全体に影響を与えるため、個別銘柄の選択や分散投資では完全に回避することができません。市場リスクを軽減するためには、株式や債券といった資産クラス全体の保有比率を調整したり、リスクヘッジのための金融商品を利用するなどの方法があります。

これをグラフに落とし込むと以下のようになります。

個別リスクと市場リスクの関係のイメージ

分散投資、つまりポートフォリオ内の証券の銘柄数を増やすことで個別リスクはある程度低減することができますが、市場リスクはコントロールできないことを表しています。




市場リスクの算出(β係数)

ここまでで、市場リスクは個人でコントロールできるものではないことを説明しました。ここでは、そんな市場リスクがとある証券に及ぼす影響の大きさを求める指標をご説明します。



β係数

β係数(ベータ係数)は、ある証券(主に株式)の価格変動が市場全体の動きに対してどの程度連動するか、言い換えると市場リスクにどの程度影響を与えられるかを示す指標です。具体的には、市場全体の価格変動率1%に対して、その証券の価格変動率が何%になるかを表します。

  • 個別銘柄のリスク測定: β係数が高いほど、市場リスクの影響を受けやすく、価格変動が大きくなる傾向があります。

  • ポートフォリオのリスク管理: ポートフォリオ全体のβ係数を計算することで、市場リスクに対する感度を把握することができます。

  • 資産運用戦略の策定: β係数を活用することで、市場リスクを積極的に取る戦略や、市場リスクを抑える戦略などを立てることができます。



β係数の注意点

  • β係数は過去のデータに基づいて計算されるため、将来の値動きを完全に予測できるわけではありません。

  • β係数は市場全体の指標として、一般的には市場平均を表す株価指数(例:日経平均株価、TOPIXなど)が用いられます。

  • β係数は、株式だけでなく、債券や投資信託などの他の金融商品にも適用することができます。



β係数の計算方法

β係数は、以下の式で計算されます。

β = Cov(Ri, Rm) / Var(Rm)
= 証券iと市場全体の共分散 / 市場全体の分散
  • Cov(Ri, Rm): 証券iの収益率と市場全体の収益率の共分散

  • Var(Rm): 市場全体の収益率の分散

共分散の計算式は、相関係数を用いて、以下のように表されます。

証券iと市場全体の共分散= 相関係数 x (証券iの標準偏差 x 市場全体の標準偏差)

この式を、先ほどのβ係数の式に代入すると、

β = 証券iと市場全体の共分散 / 市場全体の分散
=相関係数 x (証券iの標準偏差 x 市場全体の標準偏差) / 市場全体の分散

分散は標準偏差の2乗であるため、さらに以下のように式変形できる。

β=相関係数 x (証券iの標準偏差 x 市場全体の標準偏差) / 市場全体の分散
=相関係数 x (証券iの標準偏差 x 市場全体の標準偏差) / 市場全体の標準偏差^2
=相関係数 x 証券iの標準偏差 / 市場全体の標準偏差

中小企業診断士の試験では、この変形後の式を利用する問題が出る場合があるため、この過程は理解しておく必要があります。



β係数の解釈

  • β = 1: 市場全体の動きと全く同じ動きをする。市場平均と同じリスク

  • β > 1: 市場全体の動きよりも大きく変動する。市場平均よりリスクが高い

  • β < 1: 市場全体の動きよりも小さく変動する。市場平均よりリスクが低い

  • β = 0: 市場全体の動きと関係なく変動する。市場リスクの影響を受けない

  • β < 0: 市場全体の動きと逆の動きをする。市場が下落すると上昇し、市場が上昇すると下落する。

ある株式のβ係数が1.5の場合、市場全体の株価が1%上昇すると、その株式の価格は1.5%上昇する傾向があることを意味します。逆に、市場全体の株価が1%下落すると、その株式の価格は1.5%下落する傾向があります。




まとめ

今回は、証券投資の個別リスクと市場リスクについてまとめました。

投資において、リスクはつきものであり、一般的に、リスクが高いほどリターンも高くなる傾向があります。これは、投資家がリスクを負うことに対する見返りを求めるためです。

しかし、リスクが高い投資は、必ずしも高いリターンが得られるとは限りません。投資する際は、リスクとリターンのバランスを考慮することが重要です。

復習問題(計算問題)

問題

ある株式Yの収益率と市場全体の収益率の相関係数は0.8です。
また、株式Yの収益率の標準偏差は15%、市場全体の収益率の標準偏差は10%です。
この株式Yのβ係数を計算してください。

解答

β係数は、相関係数と標準偏差を用いて、以下の式で計算できます。

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