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【企業経営理論#14】VRIO分析


VRIO分析

VRIO分析は、アメリカの経営学者 ジェイ・B・バーニーによって提唱されたフレームワークで、企業の内部環境を分析し、競争優位の源泉を特定するために用いられます。

VRIO分析では、企業の経営資源を以下の4つの観点から評価します。

  • Value(価値): その資源・能力によって顧客に価値を提供できるか?

  • Rareness(希少性):その資源・能力を競合が保有していないか?

  • Imitability(模倣困難性):その資源・能力は模倣することが難しいか?

  • Organization(組織):経営資源を活用できる組織能力があるか?





VRIO分析の各要素

  1. Value(価値)

    • その経営資源は、顧客に価値を提供できるか?顧客のニーズを満たし、顧客がお金を払っても良いと思うものか?
      価値を提供できない資源は競争劣位(競争優位ではない)につながる可能性がある。

    • 例:

      • 高品質な製品

      • 優れた顧客サービス

      • 便利な立地

      • 強いブランドイメージ

  2. Rareness(希少性)

    • その経営資源は、希少で、競合が保有していないものか?
      希少でない資源は、優位性を生み出すことができない。

    • 例:

      • 特許技術

      • 独自のノウハウ

      • 優秀な人材

      • 限定された資源

  3. Imitability(模倣困難性)

    • その経営資源は、競合が模倣することが難しいものか?
      模倣が容易な資源は、一時的な競争優位しか生み出すことができない。

    • 模倣を困難にする要因:

      • 1)経路依存性:企業が過去に歩んできた歴史や経験によって形成される独自の資源や能力など。

        • 例:

          • 長年培ってきた顧客との信頼関係

          • 独特の社風企業文化

          • 創業以来築き上げてきたブランドイメージ

      • 2)因果関係の曖昧性:どのように競争優位性に結び付いているのかが不明確なもの。

        • 例:

          • 暗黙知に基づく熟練の技術ノウハウ

          • 従業員のモチベーション組織全体のシナジー

          • 複雑なサプライチェーンビジネスモデル

      • 3)社会的複雑性:組織文化対人関係など、社会的な要素が複雑に絡み合っている資源や能力。

        • 例:

          • 従業員同士の信頼関係協力体制

          • 顧客や取引先との長期的な関係

          • 地域社会における企業の評判

      • 4)特許:特許等の知的財産権として確立している資源や能力。

  4. Organization(組織)

    • 企業は、その経営資源を活用できる組織能力を持っているか?
      経営資源を有効に活用できる 組織構造プロセス文化が必要。

    • 例:

      • 優秀な人材を活用できる人事制度

      • 技術力を活かせる研究開発体制

      • ブランドイメージを維持するためのマーケティング戦略

VRIO分析の各要素





VRIO分析の活用

VRIO分析を行うことで、自社が保有する経営資源を網羅的に洗い出すことができます。

ヒト、モノ、カネ、情報といった有形資源だけでなく、ブランドイメージ、組織文化、技術力といった無形資源も分析対象に含めることができます。

VRIO分析の活用パターンや以下の通りです。

  • 1)経営資源の棚卸:
    自社がどのような資源を持っているのか、 それぞれの資源がどれほどの価値を持っているのかを客観的に把握する。

  • 2)競争優位の特定:
    VRIO分析の4つの各要素について、それぞれの経営資源が競争優位に貢献しているかどうかを判断する。

    上記4要素の条件をすべて満たす資源は、 持続的な競争優位の源泉となりえる。

  • 3)経営戦略の策定:
    VRIO分析の結果に基づき、強みを活かし、弱みを克服するための経営戦略を策定する。

  • 4)資源配分:
    VRIO分析の結果を受けて、経営資源の効率的な配分を行う。
    競争優位に貢献する資源に、ヒト・モノ・カネ重点的に投資することで、投資効果最大化する。
    また、競争劣位につながる資源は、改善するか、削減することを検討する必要がある。

  • 5)組織能力の開発:
    VRIO分析の結果を、経営資源を活用するための組織能力の開発に役立てる。

    • 例:

      • 組織構造:資源を効率的に活用できる組織構造を構築。

      • プロセス:資源を活用するための業務プロセスを改善。

      • 人材:資源を活用できる人材を育成。

      • 文化:資源を活用することを促進する組織文化を醸成。

VRIO分析の活用パターン





VRIO分析の手順

  • 1)分析の目的を明確にする:
    何を明らかにしたいのか、分析結果をどのように活用したいのかを具体的に示すことで、分析の焦点を絞る。

    • 例:

      • 新規事業の実現可能性検証(フィージビリティスタディ)

      • 既存事業の競争力強化

      • M&Aの対象企業の評価

      • 経営資源の効率的な配分

  • 2)経営資源を洗い出す:
    分析対象の事業や製品に関連する経営資源網羅的に洗い出す

    有形資源(ヒト、モノ、カネ、情報)だけでなく、無形資源(ブランド、技術、組織文化など)も明確化することが重要。

    経営資源を洗い出す際には、以下の視点を活用する。

    • バリューチェーン分析:企業活動を主活動支援活動に分類し、それぞれの活動で活用されている資源を洗い出す。

    • 部門別分析:各部門が保有する資源を洗い出す。

    • 競合比較:競合他社と比較して、自社が優れている点、劣っている点を整理する。

    • ブレインストーミング:関係者を集めて、自由に意見を出し合い、経営資源を洗い出す。

  • 3)競合他社を選定:
    自社と競合関係にある企業を選定する。

    競合他社の経営資源と比較することで、自社の資源の希少性模倣困難性をより正確に評価することができる。

    競合他社の選定は、分析の目的に合わせて行う必要がある。

    • 例:

      • 特定の製品・サービスで競合する企業

      • 同じ顧客層をターゲットとする企業

      • 同じ地域で事業を展開する企業

  • 4)4つの視点から評価する:
    経営資源を、価値希少性模倣困難性組織の4つの視点から評価。

    各視点について「Yes」「No」もしくは、
    客観的なデータ根拠に基づいて、各視点について点数化し、 定量的な評価を行う。

  • 5)分析結果をまとめる:
    分析結果を表や図にまとめ、分かりやすく可視化する。

    競争優位は、以下の4段階に分類されます。

    • 競争劣位: 価値がない

    • 競争平価: 価値はあるが、希少性がない

    • 一時的な競争優位: 価値があり、希少性もあるが、模倣が容易

    • 持続的な競争優位: 価値があり、希少性があり、模倣が困難

  • 6)経営戦略に活用する:
    分析結果に基づき、強みを活かし、弱みを克服するための経営戦略を策定する。

    持続的な競争優位を持つ資源は、コアコンピタンス⁽¹⁾となり、競争戦略の核となる。
    一時的な競争優位しか持たない資源は、模倣されないように、差別化を図ったり、新たな価値を付加したりする必要があります。競争劣位にある資源は、改善するか、削減する必要があります。

    1)コアコンピタンス・・・企業がもつ「核となる能力」のこと。他社には模倣困難な独自の強みを指す。

VRIO分析の手順





まとめ

今回は、VRIO分析についてまとめました。この回で、第1章 経営学の基礎について終了です。

次回からは第2章 企業と経営戦略についてまとめます。




復習問題

問題1:穴埋め問題

  1. VRIO分析は、( ① )が提唱したフレームワーク。

  2. VRIO分析は、企業の( ② )環境を分析し、競争優位の源泉を特定するために用いられる。

  3. VRIO分析では、企業の経営資源を( ③ )、( ④ )、( ⑤ )、( ⑥ )の4つの観点から評価する。

  4. 価値を提供できない資源は、( ⑦ )につながる可能性がある。

  5. 希少でない資源は、( ⑧ )を生み出すことができない。

  6. 模倣が容易な資源は、( ⑨ )な競争優位しか生み出すことができない。

  7. 経営資源を有効に活用するには、適切な( ⑩ )が必要。

問題2:○×問題

  1. VRIO分析は、外部環境を分析するためのフレームワークである。( ○ / × )

  2. 顧客に価値を提供できる資源は、必ず競争優位につながる。( ○ / × )

  3. 希少な資源は、必ず競争優位につながる。( ○ / × )

  4. 模倣困難な資源は、持続的な競争優位につながる。( ○ / × )

  5. 組織能力は、経営資源を有効に活用するために必要である。( ○ / × )

問題3:組み合わせ問題

次のVRIO分析の要素と、具体的な例を正しく結び付けてください。

問題4:記述問題

  1. VRIO分析を行う目的を3つ挙げてください。

  2. VRIO分析の4つの要素について、それぞれ説明してください。

  3. VRIO分析の手順を説明してください。

  4. VRIO分析の結果を、どのように経営戦略に活かすことができるか説明してください。

問題5:多肢選択問題

以下のうち、VRIO分析のValue(価値)の要素を満たすものとして適切なものをすべて選びなさい。

a. 高品質な製品 b. 顧客のニーズを満たさない製品 c. 便利な立地 d. 模倣が容易な技術 e. 従業員の低いモチベーション

問題6:多肢選択問題

以下のうち、VRIO分析のRareness(希少性)の要素を満たすものとして適切なものをすべて選びなさい。

a. 多くの企業が保有する技術 b. 特許技術 c. 独自のノウハウ d. 簡単に入手できる資源 e. 模倣が容易な製品

問題7:多肢選択問題

以下のうち、VRIO分析のImitability(模倣困難性)の要素を満たすものとして適切なものをすべて選びなさい。

a. 模倣が容易な製品 b. 独自性の低い技術 c. 長年培ってきた顧客との信頼関係 d. 複雑なサプライチェーン e. 特許

問題8:多肢選択問題

以下のうち、VRIO分析のOrganization(組織)の要素を満たすものとして適切なものをすべて選びなさい。

a. 技術力を活かせる研究開発体制 b. ブランドイメージを維持するためのマーケティング戦略 c. 顧客のニーズを無視した製品開発 d. 非効率な組織構造 e. 人材育成を軽視する企業文化

問題9:記述問題

ある自動車メーカーが、VRIO分析を行う際に、どのような点に注意すべきでしょうか? 具体的な例を挙げて説明してください。

問題10:記述問題

あるIT企業が、VRIO分析を行う際に、どのような情報を収集すべきでしょうか? 具体的な例を挙げて説明してください。





解答

問題1

  1. ① ジェイ・B・バーニー

  2. ② 内部

  3. ③ 価値 ④ 希少性 ⑤ 模倣困難性 ⑥ 組織

  4. ⑦ 競争劣位

  5. ⑧ 優位性

  6. ⑨ 一時的

  7. ⑩ 組織能力

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