題名は無い日々

スクールバスのカーテンを閉めて、隙間から漏れ出る光を眺めていた。
窓に頭を寄せると、時間という感覚は私から抜けていってくれそうな。そんな感じがした。
機種変をしたスマホに合う有線のイヤホン。
久々に聞いたお気に入りのプレイリストは、あまりしっくりこなかった。
バスのドアが開く
空いてるように見えたこの空間も、時は必ず進み、環境は変化する。
真ん中の列の椅子が倒されると、私だけの世界がぱらぱら、ばらばら、少し崩れてしまったような気分になった。
時をゆっくりと畳む
動き出す空間
バスが進む、揺れる光。
この小さな光は私にとって小さな幸せだった。
垂れ流していたプレイリスト。私の中に染み込んで、意識の中に入ってきたのは流れの優しい曲だった。
ふとカーテンの隙間に目を向けると 、
バスはもう駅前の交差点
見慣れた景色

右耳のイヤホンをはずす
お決まりの言葉を残したあとには、お決まりの言葉が帰ってくる。
かれこれ、4ヶ月目のいつものやりとり。
最近ようやく馴染んできた時間。
少し前までは毎日が目まぐるしくまわり
毎日が新鮮みを帯びていて
毎日、出会いがあった。
きっと、大人になってからでは難しい
今しかない出会い

環境の変化に対応するのは早い方ではない。
もう一学期が終わろうとしているにも関わらず、私はまだ新しい環境にいる、という感覚だった。
それでも、明日がくるのが憂鬱だとはもう思わないけど。
もうすぐ夏休みになる。
ぷらぷらと揺れるイヤホン
右耳で、風の音を聞いていた
またイヤホンをつけると
夏に相応しい、涼しげな曲がまた私の感性を、感覚を引きだした。
ー、ーー、、!!
慌ててイヤホンを取り
手を振る
ろくに会話できたこともない同じクラスの子と隣のクラスの子。
バド部、今日休みなんだ。いいなー。
部活に入っている訳でもないのに、休みがあることを羨ましいと感じた。
それに、
なぜか呼び捨てされてて、ちょっと嬉しかった。
またイヤホンをつける。
ーー!!!ーー!、!
振り向いた
イヤホンをまた慌てて取った
中学校が同じだった子だ。
そういえば、小学校も幼稚園も同じだ。
二輪×二台の自転車
公園横の木漏れ日
光の上を走る
なびく風には夏の煌めきが見えた。
夏休みという項目がつけば、この煌めきがよりいっそう輝くのを私は知っていた。
目をつぶれば、風が私を包んだ。
目をひらけば、光が私を包んだ。

いつもの帰路に
幸せを見つけられたような気がした。



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