『幸せ』
「最近あった小さな幸せってありますか?」
ギョッとした。
当時、大学四年生。
就職活動で、ある広告会社で面接を受けていた。
小さな幸せ?なんだその質問。普通の幸せじゃダメなのか?小さなくちゃならないのか?
グルグルと『幸せ』という文字が頭を回る中、咄嗟に前日の散歩を思い出した。
白いハトである。
ある公園を歩いている時、人生で初めて見たのだ。
白いハトを見るとラッキーだとか幸せを運ぶだとか、本当にそうなのかにわかには信じ難いが、とりあえず思いついたので「白いハトッ」と口早に話し出した。
すると面接官は「ハッハッハ、白いハトかあ〜、たしかにあんまり見ないよね」とゲラゲラと笑い、話した。
話は続くものかと思ったが「じゃ、次に...」と次の質問へ移動した。
一体なんだったんだ?
なんの意図があった質問だったのだろうか?
『小さな幸せエピソード』は面接官には特に響きもせず、(私の中では)無下にされたのである。
しかしあのハトは私に元気を与えた。白いハトが居なければこの質問には答えられなかった。面接官に幸せは届くことは無かったが、私に幸せはちゃんと届いたのである。
この後私は、無事にこの会社に合格し、入社する。しかし、更に幸せを届けたあの白いハトも虚しく、私はこの会社を半年で辞めた。今度は私が白いハトを無下にしてしまったのである。
二度も無下にされたあの白いハトは、今後もう私の前に現れることは無いであろう。