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世直し系YouTuber「ガッツch」犯罪教唆事件のかんたんなまとめ

 YouTubeなど動画投稿サイトには日夜たくさんの人が動画を投稿しており、その中でも「世直し系」「私人逮捕系」と言われるジャンルは人気コンテンツのひとつです。
 「世直し系」というのは、たとえば駅の中を見回りして痴漢や盗撮犯を見つけたらその場で拘束し、警察に突き出すまでの様子をすべて動画に収め投稿するような人たちのことです。動画の内容は実際に投稿者と犯人が乱闘する様子が収められていたりと過激なものが多いので、ついつい目を引いてしまうようなものばかりです。

ガッツchの活動

 ガッツch(チャンネル)という世直し系YouTubeチャンネルを運営する今野蓮という人物が2023年8月に動画を撮影投稿し、それが原因で同年に逮捕されました。より詳細について知りたい方は報道のWEBページなどをご覧ください。

 ガッツchは薬物犯罪の防止と題して犯罪行為の「釣り」を行いました。まず最初に若い女性のフリをして「覚醒剤を買ってきてくれたら私と性行為できるよ」というような内容をインターネット上で呼びかけ、愚かにもそれに釣られた男性を、待ち合わせ場所で拘束し警察に通報して薬物犯罪者を現行犯逮捕して成敗する、といったものです。
 この動画の構成はテレビ番組でよく見る「ドッキリ」企画そのものでした。たとえば「美女とキスできると思い込んで近寄ったら落とし穴にはまり恥をかく芸人」とか「普段は不思議ちゃんを装っているがマジメな素顔を暴かれて居心地の悪くなっているアイドル」を見て愉しむような、下品だと分かってはいてもついつい見てしまう種類のドッキリです。私たちはそういう危ないラインのドッキリ番組の愉悦にあらがい難く、同時にその過激さにすっかり慣れてしまっています。
 今野蓮はまさしくガッツchというドッキリ番組のの「仕掛け人」であり、まんまと騙されてやってきた男性はドッキリの「ゲスト」です。下品な欲望に釣られてノコノコとやってきたら、恥ずかしいところをばっちりカメラに収められドッキリパートが完成したあとは赤いパトランプのひかる血の気の上がる物騒な雰囲気の「警察ドキュメンタリー」が始まるのです。
 しかしながらガッツchの思惑通りにはいかず、通報を受けて駆けつけた警察官にガッツchの方が逆に詰め寄られてしまい「薬物犯罪者を成敗し正義を執行した側をこんなふうに言うなんて心外だ」と言わんばかりに不満を露わにして最終的に警察官と口論になってしまいました。
 今野蓮はこの「釣り」によって覚醒剤取締法違反〝教唆〟の疑いで逮捕起訴されましたが「薬物犯罪抑止に貢献しているから良いことだろう」「犯罪者を私人逮捕することの一体何が問題なのか?」と納得のいかない人もいるかもしれません。しかし、これは大変悪質な行為であり(法的にも)危険ですので、絶対にマネしてはいけません。

教唆(きょうさ)

 教唆とはその言葉どおり「おしえてそそのかす」ということですが日本の刑法には次のように定められています。

刑法 第61条(教唆)
1 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。

 実際に行動をしたわけではなくとも、正犯(実行犯)と同じ罰を与えるよと日本の法律では定められており、教唆は犯罪の実行と同じか、ときにそれ以上に重く受けとられます。

「世直し系」は抑止する方法がまだない

 世直し系ユーチューバーは現在もたくさん活動しており、万の単位の再生数を稼ぎ続けています。自ら「世直し系」と名乗っていなくても、「攻めた」内容の動画を投稿し続けているチャンネルはすべて、ガッツchと同じ問題を常に含んでいます。
 動画内容を攻めれば攻めるほど再生数は上がり、それが彼らにとって直接の収入になるので、彼らが「攻める」のを止める理由はありません。規制しようと思っても今はまだ法的にも技術的にも、事実上不可能です。ちなみにガッツchは様々な「世直し」活動の結果、半年間で約1,000万円(!)の動画収入があったそうです。

法律で自分を防御するという意識

 ガッツchは、「世直し」を行っていた動機として「犯罪を撲滅したい」「社会正義を実行したい」と述べてはいるのですが、見知らぬ他人に覚醒剤を購入させるのは、動機がどうあれ社会にとってとても迷惑な行為です。
 また、過激なことをするわりに自身の法律上の防御にまったく関心がなく、法律を知らなかったこと、知っていても法律を自分に都合よく解釈していたことが自身の逮捕の原因になってしまったと言えるでしょう。
 ガッツchは2024年時点では、いまだ裁判での結論は出ていませんから当然無罪になる可能性もあります。しかし、裁判の結果がどうあれ、他人に犯罪を行わせて「社会正義」を達成するような方法はやめていただきたいですし、まずは自身を守るために法律の防御を固めておくということを頭に叩き込んでおいてほしいものです。

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