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成人の日

今日、街に買い物に行ったら晴れ着の女性がたくさん歩いていた。
ああ、今日は成人の日か。
昔は成人の日は1月15日と決まっていた。
今はそれほど苦しくないけど、やはり成人の日には思い出すことがある。
自分が馬鹿だったと後悔すること。

うちは貧乏だったし、父は娘の成人式になんて興味がなかった。
だから着物は買ってもらえなかった。
当時レンタルがあったのかどうかも知らない。
わたしは普通のワンピースを着て成人式に出席した。
集合写真を今も持ってるかどうかわからない。
アルバムはほとんど捨ててしまった。
だけどワンピースの人はほとんどいなかったのは覚えている。
田舎に新しく出来た、交通の便の悪い会場だった。
バスの停留所までかなり遠い。
式が終わったらボタ雪が降っていて雪が30センチくらい積もっていた。
携帯電話の無い時代。
一つしかない赤電話に行列ができた。
やっと順番がきて家に電話をした。
もしかしたら父が車で迎えに来てくれるかもしれないと思ったから。
父は車で出かけていなかった。

他の人たちは彼が車で迎えに来たり、車で迎えに来たお父さんが他の子たちも一緒に乗せてくれたりして、どんどん帰っていく。

わたしはしばらく雪を眺めていた。
そして雪の中を歩きだした。

吹雪いているから傘をさすのをやめた。
パンプスを履いた足は冷た過ぎて感覚がなくなった。
積もった雪にズボズボ足を入れて歩いた。
やっとバス停に着いた。

うちに帰りたくなかった。

その時付き合ってた人のアパートにバスに乗って行った。
いるか、いないかわからなかったけど、家に帰りたくなかった。
びしょびしょになって彼のアパートのチャイムを押したら彼が出てきた。
わたしの姿を見てびっくりしていた。

彼の部屋の中で濡れた服を脱いで彼の服を借りて着た。
濡れた服を乾かしてもらいながらわたしは泣いた。
何が悲しいのかわからないけど涙が止まらなかった。

成人式なんて行かなきゃよかったんだ。

3歳年下の妹は、初めから成人式に出るつもりはなくて友達と一泊でディズニーランドに遊びに行った。

わたしには、そういう友達がいなかった。

大学の卒業式。
わたしは自分で調べて写真館でレンタルの着物と袴を、アルバイトしたお金で借りて記念写真を撮った。
その写真は今でも撮ってある。
「笑って」
って言われたけど上手く笑えなくて。
ちょっと寂しそうな顔に見える写真。
でも、わたしはその卒業写真が好きだ。
これが、わたしなんだって思える。

卒業式の時には成人式の時の彼とはもう別れていた。
でも同じ大学だから時々会った。
卒業式の日、手紙をもらった。

『成人式の日、○○(わたしの名前)は泣いていたけど綺麗だったよ。
着物を買ってもらえなくても成人式にちゃんと出て偉かったよ。
雪の中びしょびしょに濡れて僕の部屋に来てくれて嬉しかった。
思い出をありがとう』


彼は卒業後、自損事故で長く入院して足が悪くなった。
入院中も手紙をくれた。
退院して高校の社会の教員になった。
結婚して子供も生まれた。
もう定年退職したのかな。
学年は同じだけどふたつ年上だった。
時々彼の名前を検索すると、教員なので異動のお知らせや研究授業のレポートなどが見れた。
写真部の顧問で賞を取った時の彼と生徒の写真もあった。

もう彼の名前を検索することはないけど。
元気でいるかな。
ひどい別れ方をしたのに、いつまでも手紙をくれた人。

あの時はありがとう。

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