ニューヨークは「そろそろ、」(後編)
ちなみに今年見たのはこんな感じ
今回のニューヨーク単独の参加は下記の通り。
7/7 銀座ブロッサム 夜の回
7/30 仙台電力ホール(遠征)
8/15・16 よみうりホール 全3回
8/16に関しては昼も夜も席が一緒で、チケット来た時3度見ぐらいしたし、小賀くんに「それは逆に珍しいことですよ!」言われた(小賀くん優しい)し、良い席だったけど、ちょっと地縛霊になった気分だった。
⑤神社
言いたいことは色々あるけれど、このネタに関してはここにスポットを当てる。
まだ忘れられない。もう、記憶も朧気になってるのに、あの時のすげぇもん見た!っていう感動と興奮と衝撃と。
めちゃくちゃ食らった。映像に残っていない8月16日の昼公演の21分間に。
多分銀座で見た時はまだほぼプロット通りのコントだったと思う。仙台で見た時は、ライブ感あるやり取りが混じってるなぐらいの感じだった。(勿論それも面白かった)
東京凱旋公演で15日に半月振りに見て結構変わったな?と思って、そして16日の人の少ない昼の21分間。
あの時のニューヨークは神がかってた。
枠組み、キャラ設定、プロットはあるもののコントと漫才の境界を極限まで薄くしたようなネタの中で柔軟に縦横無尽に動き回る嶋佐さんと屋敷さん。あぁ、2人共ネタの中で遊んでるなとニヤッとした。ネタを飛ばしてるなんて微塵も思わなかった。
元ネタ、モデルは別にあるものの、このコントの中のヤマガタは、嶋佐さんは、関西弁関係なく言葉の使い方や立ち回り、表情の付け方がずっと松ちゃんみたいだって私は最初から思っていた。
屋敷さんもトヨオカという人物の設定に乗っている間はお笑いオタクの拙いツッコミでいたのに、その枠からはみ出した瞬間、屋敷裕政の切れ味の鋭いツッコミに瞬時に変わる。
そんな嶋佐さんと屋敷さんの纏う空気で、ダウンタウンの枠組みは決まっているけれど、浜ちゃんの「もうええわ」が出なければ延々と続いてしまいそうな構成の漫才やコントなら長回しのアドリブもあるトカゲのおっさん(これ30分くらいあった)を思い出した。
これはとんでもないものを私は見てるぞと、「ニューヨークはもうその領域に行ったんか!ニューヨークめちゃくちゃ強いじゃん!」とトヨオカ程ではないがお笑いオタクの側面の私が嬉しくて震えてた。
この日の公演のエンディングで2人はもうこのネタどこでもやらないと思うと言っていて、そうだろうなぁと思いつつ、凄く勿体ないとも思ったけど、これはあの日のあの時だからの奇跡的な瞬間だった。もう再現なんて出来る訳が無い。ただただ見られて良かったと心底思った。
そして、これがこの単独の中で紛れもなく1番私が食らった瞬間だった。
⑥テーマソング
これは今年のニューヨーク単独の中で私が1番好きだったネタ。(食らったネタは別にある↑)
理由は単純。私がHIPHOP好きだから。それ以上でも以下でもない。
冷静に考えて、それ相当に予備知識がないと伝わらない要素が多く、多分見る人を選ぶネタだなぁと私も思っていたけれど、私には大ハマりした。毎回毎回笑い転げてた。屋敷さんが8/15の東京凱旋公演で「ポカンとしている奴か異常に喜んでいる奴しかおらん」って言っていて、「あ、異常に喜んでいる奴側に入った」とドキッとした。
いや、これ、だって、嶋佐さんのD.Oさんのモノマネめちゃくちゃ上手かったし、フィメールラッパーもちゃんとフィメールラッパーの癖みたいなものを上手くトレースしていたし、モノマネに乗じてHIPHOPがドラッグ等々と切り離せない側面もあることを上手く笑いに昇華させているのは芸人としての相当な技量が無いと出来ない。ツッコミで屋敷さんが「ゆっくり高い声で恐い事言う」と端的にD.Oさんの特徴を捉えている上に、屋敷さんもちょっとD.Oさん入ってたのも面白い。
そして、仲間の壮絶な死を歌うのが誰かとかフィメールラッパーならこの辺りかと想像出来るのも良いし、もし仲間の壮絶な死を歌うクルーが私の想像通りなら、都会でもなければ決してド田舎でもない私と同じ地方都市出身で不良通り越したヤベェ人達でもあるけど、HIPHOPに出会ってなかったら不良一軒家の世界線もワンチャンあったな…とネタとネタの中で妙にリンクしたり。(超個人的見解です)
屋敷さんの「下品女ラッパー」「あれ皆好きじゃないぞ」「引くよ、引くよ、引くよ、女の子があんな事言ったら」「恐くて言えんのよ、女性を受け入れなあかんから」「圧倒されてる様に見えて引いてるだけやから」のツッコミの皮を被ったフィメールラッパーへの見解は、これもまた誰もが思ってても口に出せなかった事に見事に切り込んで行っているのが凄い。個人的にはフィメールラッパーも聴くし、自立した強い女性像として格好良いとも思うけど、本当はセクシャルな事を歌うときだけあんまり好きじゃなくて、口に出せなかった引っ掛かってた部分を全部代弁してくれた感がめちゃくちゃある。
そして、最後にこの単独のテーマソング。本当に真っ直ぐダサくて、ちゃんと「ダサい」に落とし込むところと、逆にそのダサさが愛おしい。こんなん笑うわ!
このネタはある種、ニューヨークのニューラジオで屋敷さんが言ってた永野さんとD.Oさんの対談を見たことに端を発する一連の屋敷さんのHIPHOPとの邂逅の物語の集約でもある気がした。(嶋佐さんはロック以外にも私服でニトロT着てたり、キングギドラの曲やOZROSAURUSとKREVAの和解の曲をポストする位にはHIPHOPも聴いてると推測している)
余談だが、ニューヨークが単独で全国まわってる間に永野さんとD.Oさんの対談を撮ってたYouTubeチャンネルがD.Oさんとニューヨークと同期の鬼越トマホークとの対談上げていて少し歯痒いものを感じたり、後日D.Oさんのホームとラップ上手い芸人の令和ロマン・髙比良くるま氏の出身地が意外と近くてあの沿線侮れねぇなって思いに駆られたりしたことも合わせて記しておく。
⑦しごできサラリーマン
ニューヨーク単独後の日常に舞い戻った後の私のXでのポスト。
「今、休憩中なんですけどね、後ろの席で仕事の重めの話してる上司と部下がいるんですけどね、上司のキャラが完全にニューヨーク単独のしごできサラリーマンのアオバさん(嶋佐さん)なんですよね…
もう、面白くなってきちゃって、ギャンブルで借金8000万あってくれよと願ってしまう自分がいました…」
初めは聞き耳立ててた訳ではなく、自然と耳に入ってきた会話。途中からは悪いかなと思いつつ断片的に言葉を拾っていた。私の休憩終わりにちらりと見たその上司の見た目は全然嶋佐さんでもアオバさんでもなかったし、重めの話も独立とかそういうのでもなかった。
ニューヨークのコントを見て「こういう奴おる」って思うのはよくあるし、それがニューヨークのコントを語る上での常套句でもあるけれど、その逆パターンに遭遇するのは私の中ではゼロではないものの稀有な出来事。そして、改めてニューヨークの「こういう奴おる」の解像度の高さを思い知らされる。(ちなみに私が苦手とする上司のタイプだったりする)
しごできなのにギャンブル依存症。本当は仕事がなかったらただのクズ人間。しかもギャンブルは一向に当たらない。そんなアオバさんが独立というギャンブルに打って出ようとする。誘われて戸惑うサトシ。仕事は出来るから独立も成功しそうだが、ギャンブルは全く当てられない人。独立こそ人生を背負ったギャンブル。答えは見つからない。アオバさんの感情も表情も忙しいし、様子がおかしいし(それが面白いし)、もう状況はぐちゃぐちゃだ。
そこにさらに借金帳消しの為のギャンブル。サッカーの日本対ブラジル。普通ならその得点差で日本が勝つ方には賭けない。ガチギャンブラーのアオバさん恐るべし。
そして結局答えは分からないまま、嶋佐さんと屋敷さんの表情のみ(表情だけで十分面白い)で持っていくコントと単独のエンディング。
でも、答えは出なくても、出さなくても良いのかもしれない。
再述するが、「こういう奴おる」をイジって終了ではなく、終わり方に想像の余地や余白を持たせることで、そこにそれでも人間は面白いというニューヨークなりの人間愛や人間讃歌があるように思う。
だって、もしかしたらアオバさんにも平等にチャンスは転がってくるかもしれない。(転がって来ない方がおもろいけど)
ニューヨークは「そろそろ、」…
ここででも、X(Twitter)でも何度も書いてきたが、これまでの「こういうやつ居る」のアイロニカルな視点はそのままにネタにおける余韻、余白、想像の余地を残す点がこれまでの単独とは大きく違う様に私は思った。その余白にこそニューヨークのそれでも人間は面白いという人間愛、人間讃歌が込められており、嶋佐さんと屋敷さんのより確実な試合巧者への変貌を私は感じた。忖度なく昔のネタも面白いけど、確実に「今の、現在進行形のニューヨークが1番面白い」と言えるものを繰り出して来るところに「この人たちすげぇなぁ」と目をキラッキラさせてしまうし、だから芸人としての彼らをめちゃくちゃ信頼している。
そして、私が1番食らった16日の昼の神社。
プロットにハマりきらないフリースタイルな展開、エチュード。嶋佐さんとが影響を受けた芸人から同じ様に影響を受け、様々な作品を見てきた身としてはニューヨークはついにその領域に行ったのか!!という驚きと喜びと感動。震えた。
今回の単独のタイトルに私なりの答えを出すとしたら、それは『ニューヨークは「そろそろ、」次のフェーズに行った』だと思う。
ニューヨーク、愛してるぜ!!
追記:せっかく次のフェーズに行ったなら、このままでは勿体ないから配信だけでなく、DVDとかのフィジカル化をして欲しいし、した方が良い。例えDVDボックスの初動の売上が500枚だったとしても。(今はもう少し売れてて欲しいし、売れてるでしょ?)
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