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103万円の壁より社会保険料を下げて。あと、食料品は消費税0%で。

 103万円の壁の見直しが佳境を迎えている。

 103万円から178万円までの引き上げを求める国民民主党は、その根拠を「最低賃金の上昇」としている。しかし、賃金が上昇した分だけ税金がかからないようにするという理屈はおかしい。

 賃金が上がれば税金が増え、賃金が下がれば税金が下がる。これは政府の景気調整機能の一つである(ビルトインスタビライザー)。

 一方自民党が推してる123万円は物価上昇分を反映したものとなっている。1995年に比べて物価は2割ほど上昇しているという。これは理屈としては間違っていない。

 折衷案(というか、単に間をとっただけのようだが)として、156万円という数字があがっている。生活保護費を基準としているという。これぐらいの所得が保障されていないと生活できないという点では理屈にはあっている。

 この場合の問題は基礎控除と給与所得控除の割合である。誰もが生活するために156万円が必要ということになれば、基礎控除が156万円必要ということになる。給与所得で生活している人だけではないからだ。

 現在は基礎控除が48万円、給与所得控除が55万円、合計で103万円となっている。「最低生活費」という考えに照らせば基礎控除を引き上げる必要がある。

 仮に、給与所得控除を55万円のままとし、基礎控除のみを101万円まで引き上げたとすると(合計156万円)、4人家族とした場合、156万円+3人×101万円=459万円までが非課税ということになる。

 この金額は給与所得者の平均給与(458万円、令和4年)とほぼ同じである。この水準を控除上限とすると、平均的な給与を受けている人までが非課税となることになる。「平均的な賃金の人」が非課税になるような社会は果たして公平な社会と言えるだろうか。

 道路、学校、図書館、消防署、警察…。これらの社会インフラを支えるのが富裕層のみという社会はいびつだと言わざるを得ない。

 また、所得税非課税ということは「住民税非課税世帯」でもある(住民税も基礎控除を同額引き上げるとしたら)。住民税非課税世帯は昨今話題となっている高額療養費の上限額においてもかなり優遇されている。ほとんど人の所得がこのカテゴリーに入るとなると、他の多くの社会保障制度も財政的に逼迫するだろう(というか存続できないと思われる)。

 それほど困っていない人を「住民税非課税世帯」に追加することは、実際に困っている非課税世帯にしわ寄せが行きかねない。

 国民民主党は「手取りを増やす」ことを目指すとしている。これは決して高齢者世代の「年金の支給額を増やして手取りを増やす」のではなく、現役世代の「手取り給与」を増やすことを主眼としていると思われる(国民民主党の支持者も若年現役世代である)。

 そうであるなら、所得税は123万円なりで手を打ち、社会保険料の引き下げを訴えてはどうかと思う。

 現役の給与所得者を苦しめているのは所得税ではなく、上昇し続けている社会保険料である。財源としても、7、8兆円かかると言われる「178万円」ではなく、社会保険料の負担低減を目指した方が自民党との交渉もうまくいくように思われる(厚労省は困るかも知れんが、財務省はまだ納得するかも知れない)。

 また、全世代での負担の公平性を担保するのであれば消費税を活用する方法もある。税率を引き上げる代わりに生活必需品の税率を引き下げる(ないしゼロにする)ことにより、実質的な購買力は上がる。

 何かと評判の悪い消費税であるが、源泉分離課税となる配当や利子所得が多い人など、所得を把握して課税しづらい層にも公平に負担を求めることができる利点がある。税率を上げつつも生活必需品を非課税とすれば逆進性も緩和される。

 将来的には「働き控え」を防ぐという意味では「壁」自体をなくすことが望ましい。また、現状では社会保険の106万円ないし130万円の壁が存在することから、(主婦・主夫や学生などの)被扶養者を労働市場に(より)参加させるという流れにはならないだろう。

 そうであれば、非課税枠は社会保険の壁である130万円と同一水準とし、来年の税制で消費税の軽減税率についての協議を約束する。

 このあたりが落としどころであるし、現役世代にメリットが多いように思われるのだがどうだろう。

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