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夢の途中
私が仕事を辞めてから初めて店に行った。美佳ちゃんがかいがいしく、店内を動いている。嬉しそうだ。
彼は頑なにカウンターの中にいて、コーヒーを淹れたりサラダを作っている。
美佳ちゃんが料理はできないから忙しそうだ。
私は息を飲みながら、ドアを押し開けた。
振り向く美佳ちゃんの顔がひきつる。
「いらっしゃいませ。」
浩幸が急いで駆け寄ってくれると思っていたが、静かにうなづくだけだ。
やっぱり来ないほうか良かったかな。でもあのこと話しておかないと。
私はお重弁当を頼み、食前にお茶を点ててほしいと声をかけた。
美佳ちゃんがカウンターに入り、お重の準備を始めた。
私は「ひさしぶり。会いたかった」と囁いた。
彼は黙って私の手を握り引き寄せた。そしてゆったりと美味しいお茶を点ててくれたが、ゆっくり話せなかった。
「美佳ちゃんは7時までだから、ゆっくり食べて待ってて。」
「けっこうなお点前でした。」
私がテーブルに戻るとすぐに、ワゴンを押して美佳ちゃんが料理を運んできた。少し冷めているが気にしない。お弁当だもの。
蛤のお吸い物に筍ごはん。食後のコーヒーを頼んで先に会計を済ませた。
あっレジは打てるのね。安心した。
他の客が帰ると美佳ちゃんがレジ締めを始めた。
浩幸が「もういいよ。おつかれさま。」
しぶしぶ美佳ちゃんも帰っていった。
鍵を締めカーテンも閉めて、私たちはソファーで抱き合った。
長いキス短いキス、何度も何度も。お互いの骨が軋むように。細胞の一つ一つまで混じり合いたいような気持ちで。
会いたかったのに会えなかったのは、両親に浩幸とのことがバレてしまい、私が外出しにくくなったからだ。
バイト先の店長と恋仲になり、バイトを早目に帰ってきたり、辞めたり大層心配をかけていたらしい。
でも大丈夫、私たちは夫婦…婚姻届を出しているから。私はもう柿本宏美なのよ。
浩幸はまだ知らないけど、驚くかしら。
ソファーから茶室に移り、裸になった。まぶしそうに私の体を見て赤くなるような素振りがかわいかった。
私はくもった鏡のむこうで蠢いている浩幸の身体を見ていた。もう離さないわ。
お互いに背を向けて服を着ながら、この後浩幸の部屋に行くことになった。
急いでブラウスのボタンを留めているのに、浩幸の指が滑り込んで来る。
だめ。小さくささやいて浩幸を見つめながら顔をそむけた。
二人で裏口を出ると美佳ちゃんが立っていた
。私を睨みつけながら泣いていた。
「お兄ちゃんと結婚するのは私よ。私が決めたのよ。あなたはただの遊び。かわいそう」
私は静かに笑いながら、浩幸は茫然としていて。
「美香その話は今はやめてくれ。お願いします。」
頭を下げた浩幸を見て美佳は踵を返した。
私は浩幸の手をつかむと、タクシーに手をあげて
「行くわよ。私んち。」
タクシーが近づいてくるが、浩幸は動かない。
「じゃあホテル。オークラか日航」
私たちは博多駅前の日航ホテルの部屋を取った。ルームサービスが終わっていたので、1階のBAR 夜間飛行へ行った。私たちが初めてデートした店。
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