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2011年4月1日、ミュージックステーションに出演したB'zが『ultra soul』を演奏しないことを選択した日。私が「一生この人たちの音楽を聴いて生きていくんだろうな」と思った日。
「前置き」
2024年12月31日の大晦日、紅白歌合戦でB'zは『イルミネーション』『LOVE PHANTM』『ultra soul』を披露して話題となっている
B'zの紅白に関する記事はこちら↓
特に『ultra soul』に関しては会場の盛り上がりもすさまじく、改めてこの楽曲の持つパワーやキャッチ―さが評価される形となった。
その紅白の反響は「『ultra soul』はもういいよ」と日ごろから思っていたコアなファンでさえ、「なんやかんや「ultra soul』ってすごいんだな」とこの曲を再評価するほどだった(私もそうだった)。
さて、今回の記事ではそんな大いに盛り上がった紅白歌合戦からさかのぼって、2011年4月1日のミュージックステーションにB'zが出演したときの話をしていきたい。
その時のB'zのパフォーマンスはファンからはもちろん、ファン以外からも非常に高い評価を得ていて、今回の紅白ほどではないがかなりの反響があった。
そして、そんなB'zのパフォーマンをを見て「私は一生この人たちについていくんだろうな」と確信した。
そもそもタイトルの「『ultra soul』を演奏しないことを選択した日」とはどういう意味か、と疑問に思われた人もいるだろう。
これから順を追って説明していきつつ、当時のことを振り返っていきたいと思う。
「Mステ出演前の予想」
2007年のスーパーライブ以降、Mステへの出演は一度もなかったB'z。
そのB'zが2011年4月1日、およそ4年ぶりに出演することが告知された。
ただし、何の曲を演奏するかまでは発表されていなかった。
当時の新曲「さよなら傷だらけの日々よ」が演奏されることは容易に想像がついたが、久々に出演するMステが3時間スペシャルということもあって「演奏は1曲だけではないのでは?」という予想が多かった。
当時は東日本大震災から1ヶ月も経過していない状況で、その被害の影響は凄まじく、テレビさえもACの宣伝が延々と流れるといった前代未聞の状況が続いていた。
そんな状況下で出演するB'zが演奏する曲は何か。
コアなファンの予想(希望と言ったほうが合ってるかも)として多かったのは、アルバム:『MAGIC』に収録された『PRAY』やファンとの絆を歌った『Brothehood』など。
しかし、MステのCMでは「元気ソングランキング」という特集が組まれることが告知されていたため、「過去にMステで演奏している」かつ「知名度のある曲」ということから、おのずと「ultra soul」が演奏されるだろうという予想が多かったように思う。
「2011年4月1日」
久々のB'zのMステ出演は、3時間スペシャルの上にB'zの出番はラストであったため、待ち時間がずいぶん長く感じたものだった。
そして予想通り「元気ソングランキング」では『ultra soul』が5位にランクインし、2001年出演時のVTRが流れる。
嵐の大野君が『ultra soul』に関して何らかのコメントをしてB'zの二人が笑っていたのは覚えている。
この時点で私は『ultra soul』を演奏するんだろうな、と勝手に思っていた。
しかし、私の予想とは裏腹に演奏される曲は、当時の新曲である『さよなら傷だらけの日々よ』と1999年に発売されたアルバムのタイトル曲『Brotherhood』であった。
タモリさんの「どうしてこの曲(Brotherhood)を選ばれたんですか?」という質問に対して稲葉さんが、
「離れていても繋がっている仲間をテーマにして作った曲で、今歌わせて頂けるなら、この曲だと思って選びました」
一通りのトークが終わり、B'zの演奏がスタートした。
B'zが『ultra soul』を演奏しなかった理由はその歌詞にある
通常であればMステの『元気ソングランキング』で5位に選ばれた『ultra soul』が演奏されるはずだったろう。
番組側としてもランキング企画と演奏する楽曲は連動させたかったはず。
しかし、この時のB'zは『ultra soul』は演奏しなかった。
それはなぜか?
その答えは『ultra soul』の歌詞を見れば分かるだろう。
どれだけがんばりゃいい 誰かのためなの?
分かっているのに決意(おもい)は揺らぐ
結末ばかりに気を取られ
この瞬間を楽しめない メマイ…
夢じゃないあれもこれも その手でドアを開けましょう
祝福が欲しいのなら 悲しみを知り 独りで泣きましょう
そして輝くウルトラソウル
おのれの限界に気づいたつもりかい?
かすり傷さえも無いまま終りそう
一番大事な人がホラ いつでもあなたを見てる I can tell
夢じゃないあれもこれも 今こそ胸をはりましょう
祝福が欲しいのなら 底無しのペイン 迎えてあげましょう
そして戦うウルトラソウル
希望と失望に遊ばれて 鍛え抜かれる Do it
夢じゃないあれもこれも 今こそ胸をはりましょう
祝福が欲しいのなら 歓びを知り パーっと ばらまけ
ホントだらけあれもこれも その真っただ中 暴れてやりましょう
そして羽ばたくウルトラソウル
ウルトラソウル
多くの人に愛され、B'zは知らなくても「ウルトラソウル!」って言われたら、とりあえず「ハイ!」って言うことは知ってる、というぐらいには『ultra soul』は浸透しているだろう。
だが、「ウルトラソウルってなに?」と疑問に思ったことはあっても、この曲の歌詞の意味について考えたことがあるという人は、意外と少ないかもしれない。
『ultra soul』は世界水泳の大会テーマソングのタイアップ曲である。
水泳を始めとする競技に打ち込む人たちへの応援歌だが、「ウルトラソウル!」「ハイ!」の聞いた人が思わず腕をあげてしまうキャッチーで楽しげな響きとは裏腹に、歌詞内容は非常に厳しいものとなっている。
1番Aメロの「どれだけがんばりゃいい 誰かのためなの?」
2番Aメロの「「己の限界に気づいたつもりかい かすり傷さえも無いまま終わりそう」
など、競技者たちが必ずぶち当たるであろう葛藤や自分の限界に屈しそうになる瞬間を表現しつつ、サビで「その手でドアを開けましょう」「今こそ胸を張りましょう」と『やるのは他の誰でもない、お前だ』と何かに打ち込んでいる人たちを叱咤激励する歌詞となっている。
『ultra soul』は「優しく寄り添う」歌ではない。
「厳しい言葉で背中を押す」、そんな応援歌である。
稲葉さん自身が非常にストイックな人であるためか、聴く人によっては厳しいと感じてしまう歌詞が登場することがある。
「押し潰されるほどの 重荷をわたしにください
ユトリ溢れる日々 そんなのが今は怖いから」
本来「押し潰されるほどの重荷」は避けたいものだが、それを求めるところが”稲葉節”である。
他にも『ユートピア』という曲では「あり得ないと決めて安心するのはやめて」と逆説的とも言える、ストイックな稲葉節が炸裂している。
稲葉さんの歌詞の凄さについてはまた別の記事で触れようと思う。
閑話休題。
『ultra soul』は歌のテーマ性だけでも、被災者の方たちに向けて送る歌としては適切とは言えないと思われる。
ましてこの歌のサビはより一層キツイ内容となっている。
「祝福が欲しいのなら 悲しみを知り 独りで泣きましょう」
「祝福が欲しいのなら 底なしのペイン(傷) 迎えてあげましょう」
悲しみや苦しみを受け入れた先に良い結果が待っている、ということを表現している歌詞。
世界水泳のテーマソングとしては、これほどピッタリなフレーズも被災者へ送る歌詞としてはどうだろうか?
これを地震によって大切な人や住む場所を失い、心に大きな傷を負い、悲しみに暮れ、疲弊しきった被災者たちに向かって言い放つのはあまりにも酷だろう。
被災者からしたら、悲しみも底なしの傷も、もうたくさんだろう。
誤解されたくないから重ねて念のために言っておくが『ultra soul』が駄目な曲ということではなく、あくまで2011年4月1日に歌うには適さない曲だった、という話。
だからこそ、B'zの二人は企画でランキングに入った『ultra soul』ではなく、聴く人たちへ寄り添う『brotherhood』を選んだのである。
私たちがずっと愛してやまないB'zが、"そこ"でやるべき曲を間違えるわけがないのである。
『Brotherhood』の演奏
そもそも『Brothehood』とはどういう曲か
1999年に発売されたアルバム『Brotherhood』の表題曲である。
『Brotherhood』は「兄弟関係」といった意味を持ち、松本さんが「ブラザー」というワードを出したことがきっかけでできた楽曲で、B'zとファンの絆を歌った曲でもある。
一般的な知名度はおそらく無いと思われるが、ファン投票では1位に選ばれるほどの人気曲。
この曲が由来となってB'zファンのことを「ブラザー」と呼ぶようになった。
『Brotherhood』の演奏
『Brotherhood』の演奏は本当に素晴らしかった。
陳腐でナンセンスな言い回しになってしまうが、本気で想いを込めたパフォーマンスとはこういうものを言うんだろうな、とリアルタイムで見ていて思わされた。
これは実際に見なければ分からない。
逆を言えば、見ればどれだけの想いを込めてB'zが『Brotherhood』を演奏したのかが分かる。
B'zの出番のあと、テレビ越しでもMステの会場の空気が変わったのが伝わってきたし、タモリさんも満足そうな表情をしていた。
稲葉さんの歌声もいつにも増して感情が乗っており、その声から気迫が伝わってくるほどだった。
『Brothehood』はこのMステのためだけにアレンジを1から作り直しており、原曲とは大きく異なる松本さんの珠玉のギターソロは何度も聞きたなるほど素晴らしい。
歌詞も、
「うまくいってるかい なかなか大変だよな 全く
こっちだって毎日クタクタになっている」
『こっちだって』を『誰もが』に変更したりなど、とにかく自分たちにできるかぎり、音楽で被災者たちに寄り添おうとしていることが、これでもかと伝わってくる圧巻のパフォーマンスだった。
当時の私もその想いのこもった演奏に、知らず知らずのうちに涙が出てしまった。
同時に、私は「あぁ、たぶん私は一生この人たちの音楽を聴き続けるんだろうな」と確信した。
実際、このときの反響も今回の紅白ほどではないが、なかなかすごいものであった。
・番組終了後、公式サイトにアクセスが集中して落ちる。
・ツイッターのホットワード(当時はトレンドワードではなかった…はず)では『B'z』関連のワードが1日中残る。
・ツイッターや個人ブログなどはもちろん、当時はまだまだB'zへの風当たりが強かった2ちゃんですら絶賛される。
・過去にファンクラブに入っていた人たちが出戻ったり(これについてはファンクラブ会誌のインタビューで触れられている)、など。
1999年に発売されたアルバムの一曲を12年後のテレビで演奏した反響としては、異常と言っていい。
ファンの中でもB'zのベストパフォーマンスのひとつとして度々話題に上がるほどで、私もテレビ出演でのベストパフォーマンスをひとつ選べと言われたら、迷うことなくこの2011年のMステ『Brotherhood』を選ぶ(豆知識:『Brothehood』は実は1999年にもMステとカウントダウンTVで披露している)。
「最後に」
少し話が変わるが、2023年の「NHKクローズアップ現代」のインタビューで松本さんはこんなことを話していた。
「なにか大変なことがあると、まずは ”音楽じゃない” じゃないですか。それこそ天災みたいなことがあると。正直、その瞬間はちょっと無力感を感じますよね。(省略)。音楽もみんなの後押しをできるタイミングがくるので、僕たちの順番が回ってきたときのためにちゃんと皆さんを応援できるような音楽は準備していましたけどね」
「僕らにできるのは音楽を創ることだけだから」
私も含めて音楽の力に助けられてきた人間は大勢いるだろう。
ましてそれがB'zが作ってきた音楽となれば、なおさら。
しかし、たしかに音楽ではどうにもならないことはある。
そしてそれをB'zの二人もわかっているし、わきまえた上で自分たちにできる音楽を全力でやる。
その「音楽を全力でやる」の中には「どの曲を演奏するか」ということも含まれていると私は考えている。
やっていることはどこまでもシンプル。
ただ自分たちの音楽を真剣にやり続ける。
しかしシンプルで実直的だからこそ、B'zの音楽は私たちの心を掴み、彼らの演奏に私たちは胸打たれるのだろう。
2011年4月1日。
「一生この人たちの音楽を聴いて生きていくんだろうな」という私の確信はどうやら間違っていなかったみたいだ。
14年近く経った今も、私は毎日B'zの音楽を聴いている。
そして、それはこの先も変わらないだろう。
おわり。