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#17 ブラック勤めのオンナの逆襲 〜 大声が防犯になった話 〜
パワハラ・モラハラ・モリモリブラックに勤めるオンナと、その社長爺やとの攻防戦のエッセイ。
ある昼下がりの午後、パートさんの面接中に駐車場の話になった。
音「初日は建物の横のスペースに駐車してください。正面は社用車と社長の駐車場なんです」
パ「分かりました。あのスペースに停めるんですね」
そこで社長爺から、とんでも発言が飛び出す。
「従業員ふえてきたからなぁ〜、土地買って従業員の駐車場にするか!」
はい?!そこまで?!
駐車場とはいえ、土地代だけでなくコンクリートに整備すると軽く数百万円は飛ぶ。
合わせて…500万円〜1,000万円程だろうか?
会社の懐(ふところ)事情も知っている身としては、そこまでの必要性は感じない。
むしろ、数百万円の粗利益を出すほうが大変なのだ。売上ではない、粗利益。
売上 − 経費 = 粗利益。
仮に100万円売り上げても、人件費や材料費固定費諸々引くと、50万円しか残らない。(例えです)
500万円かかるとしたら1,000万円を売り上げなければならない。
当時、営業の総括は私。
勘弁してくれセニョリータ。
「うるせぇー、オレの会社だ金なら俺が出す!」
ホッとしたのもつかの間、向かうは◯◯銀行。
開口1番に、窓口のお姉さんに言い放つ
「駐車場つくるの、◯◯万円おろしたいの!」
「病気で書けないの、でも印鑑持ってきた!」
後遺症で自然と大声になる爺や。周りはドン引き。
爺やは現金主義。分割大キライな昭和の男。
土地も不動産も外車も、全て現金で購入するツワモノである。
だから、地方の小さな銀行では目立つ。
かなり目立つ。
ロビーにいた爺さんバァさんがみんなで社長をガン見してくる。そんな中で……
二人組の男性がチラチラこちらを伺っている。
(なんか嫌な雰囲気だなぁ……)
二人でコソコソ会話している。目線はこちらを観察しているかのようだ。
1人は、記入台にいながら手は動いていない。伝票を書いていないのだ。
怪しい…。
怪しすぎる。
実は私は元銀行員。
怪しい客はすぐわかる。
通常のお客様の動きではない。
もう一人が、おもむろに携帯を取り出してどこかに電話をし始めた。通常は、家族などに電話して伝票記入するにせよ、目線だけは他人に釘付けにはならない。
二人とも目線はこちらの動きを追っている。
相変わらず手は動いていない。
(ん?現金の入出金や振込、住所変更の伝票なら、カキカキするはず…)
まずいな。
ない頭を振り絞り、帰社するまでの算段を立てる。
爺やに耳打ちをしてみた。
「後ろ振り向かないで聞いてください。後ろに2人、怪しいのがいます。車を入口につけるので、待っていてください」
窓口で受け取った数百万円を、バッグにしまう。もちろん肩から斜めがけで抱きしめる(笑)
ターゲットは現金を持っている私だろう。爺やを巻き添えにしなくて済む。
そんな時、またもや爺やがびっくり発言をする。
「誰?ダレ?どいつだーーー!」
怒鳴るような声で、後ろを振り返る。
めっちゃ振り返る。
後遺症だから、普通に喋っていても怒鳴っているようになってしまう。でも、今回はこれに助けられた。
良くも悪くも肝が据わっている爺や。この程度ではビクビクしない。むしろ相手を追い詰めるのが好き。ドSである。
「誰だっ、オレの知り合いじゃねーぞ」
「ああん?あいつらか?お前の知り合いかぁ?」
(あ、わざとだな 笑)
大きな声で、相手を振り返る。
田舎の銀行では、じいちゃんばぁちゃんも、他人に興味津々なのだ。
ロビーいた全員が男性2人を目で追う。
そう、爺やの一言でロビーにいた皆が男性2人を目で捕らえた。
その瞬間、男性達は蜘蛛の巣を散らすがごとく出口に向かう。
マスクをして下を向いて早足で出ていく。
記入台には、ボールペンと伝票が置いたまま。
無事に会社に到着したけれど、爺やは先輩から大目玉を食らっていました。
「後遺症で身体が不自由だから、バカにされたくない」
その気持ちはわかります。でも、オレは金持ちだ〜と言い放つなら、場所は選んでくださいね爺やさん。
まじ、寿命が縮まりましたよ(涙声)あんな思い二度としたくないですね。