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幸せのその先へ
幸せのその先へ
私、佐山優子の日常は生き地獄だ。
毎日したくもない残業を皆がやっているからと上司の藤堂さんに強要される。
先輩の柳さんにはお前は本当に使えない奴だなと馬鹿にされ、時には後輩の石倉くんがミスした事をお前が見ていないからだと頭を殴られ、怒鳴られる日々。
他の先輩の河内さんは私がミスをしていないか、何故か執拗にチェックしてくる。
そしてミスが分かったら藤堂さんに報告され、藤堂さんから何でこんな事も出来ない、お前は使えない、お前のせいで今日もまた残業だ、お前が駄目だから、お前の為を思って言っているんだと怒鳴られる。
私は申し訳ございませんと涙をぐっとこらえながら、ひたすら謝り続けて耐える。
わかっている。
本当に私がダメ人間で、使えない人間、足手まとい、役立たずだから藤堂さんも柳さんも仕方なく注意してくれているのだ。
柳さんは注意されている内がはなだから、と言ってくださっている。だから、ちゃんと聞かないと。私の為を思って、言ってくれているのだから。
私がわるい。ああ、私がわるい。仕事ができない、私が悪いのだ。
けずられていく。何かが音を立ててけずられていく。
会社に行きかなきゃと思うと吐き気がして、涙が止まらなくなる。
でも、行かなきゃ。
私が行かないと仕事の量が増える。藤堂さんにも柳さんや河内さん、部署の皆にも、迷惑がかかる。
身体が震える。また怒られるんじゃないか、また殴られるんじゃないかと不安で動悸が激しくなる。息が苦しくなる。胸も痛い。あまり今日も眠れなくて、頭がふらふらする。
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自宅のドアを開けて、部屋から一歩出て、体がよろめく。
「おっと、大丈夫かな」
倒れそうになる私の体を、ラベンダーの優しい香りがある、白衣の女性が支えてくれた。
その女性は綺麗な黒髪を1つに縛っていた。
顔立ちは可憐で、女優の有村架純さんを感じさせる清楚で綺麗な顔立ちだ。まるで心理カウンセラーの先生かお医者さんのような白衣の恰好をしていた。
身長は私と同じ小柄ながら、力強く私を支えてくれる。
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立てるかい、と心配そうに顔を覗き込む小春さんに、私は大丈夫ですと笑顔を無理やり浮かべてガッツポーズをとる。
「うん、優子くんはあれだ。頑張りすぎだな。スマホ、貸してくれない?」
「あ、はい」
長年の親友のように気さくな笑顔を浮かべ、手を差し出す小春さんに、私はおずおずとスマホを渡してしまう。
「えっと、確か君は源蔵物流の3係の人だったな。
で、上司の名前は藤堂辰巳、と。
お、あった、あった。はい、佐山優子の隣人の芹沢小春です。
優子さん、今日は頭が痛いとの事で、お休みさせていただきますね。
はい。はい。ちゃんと病院は連れていきますので。それでは失礼します。
はい、優子くん今日はお休み」
「え、え、その」
「はいはい、問答無用。お部屋でやすみましょうね」
戸惑う私の左腕を掴んで腕を組むと、そのまま小春さんは私の部屋に連れ戻すのだった。