「生きる」〜谷川俊太郎さんからの贈り物〜

「生きる」
作詞 谷川俊太郎  作曲 新実徳英

空に樹に人にわたしは
自らを投げかける
やがて世界の豊かさそのものとなるために

わたしは人を呼ぶ
すると世界が振り向く
そしてわたしがいなくなる

生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ

人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ

空に樹に人にわたしは
自らを投げかける
やがて世界の豊かさそのものとなるために

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音楽部に所属していた高校時代、「生きる」という女性合唱曲を歌った。
谷川俊太郎さん作詞、新実徳英さん作曲の曲だ。
当時の、NHK全国合唱コンクール高校の部の課題曲だった。

優しく綺麗な旋律で始まるこの曲は、
穏やかな日常を表現しながらも、
生きる上での葛藤や感情の起伏などを表すかのような、
たたみかける音により私達に問いかけるような曲調を超えて、
もう一度最初の歌詞でクライマックスを迎える。

合唱する曲については、部員同士で必ず歌詞の意味を考え意見を出し合う時間があった。
高校生の私は、どのように「生きる」を解釈していたのだろう。
歌詞よりも曲のイメージの方が強かったように記憶している。

あれから30年近く経った私には、
その歌詞がとても沁みる。
「いま」を「生きる」
を再び深く見つめ見直すタイミングにいる。
わかってきていたようでまた振り出しに戻された感覚。その繰り返し。

いま生きていることを感じることを疎かにして、
また
外ばかりみていないか、
過去や未来にとらわれて「いま」を見失っていないか、
何者かになろうとしていないか、
特別であらねばと思っていないか、
自然の一部であることを忘れていないか、
おごりはないか、
私のからだは、心は、どう感じているかに耳を傾けることを後回しにしていないか、
……

いまを観る、感じる、
頭ばかり使ってきた私にとってはなかなかの難題だ。頭、知識としてはわかっているつもり、でもすぐに「いま」から離れようとする。
それも生きているということ。

谷川俊太郎さんの伝えたかったメッセージ、真意をまだつかみきれてはいないけれど、
また歳を重ねていった私が、その時どのように感じて、捉えるのだろうか。

あぁ、
この「生きる」を歌った時期は、
祖父の病・死から、生死を考えさせられ、医学の道に進むことを決めた時期と、
重なっていたんだな…。

そして、また今回、
谷川俊太郎さんから、
改めて「生きる」を投げかけられた、いま、のタイミングは、
今までのパターンをリセットして、
私の人生を、
私を生きることを、
どのような道を歩んでいくのか、どのようにありたいかを、 
私自身を、
本気で再生させようとしている時と重なっているな…、
と感じた。

「いま」を感じよう。
「いま」を生きよう。
「いま」を丁寧に積み重ねていこう。
生きている、それ自体がどんなにすごいことか。
自らを投げかけ、やがて世界の豊かさそのものとなるために…。

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約30年前、約100名の部員とともに、
ウィーン世界青少年音楽祭に出場させて頂き、
この「生きる」を演奏した。
音楽の都ウィーンで、
日本から、世界に向けて、
谷川俊太郎さんのメッセージを、音とことばにのせて、届けることができたことの大きさを、
100人の中の1人として、私も自分の音を出して声を通して表現できていたことの奇跡を、
今いろいろな想いとともにかみしめている。
あの時の素晴らしい体験と感動の思い出が、
いま、
より大きな視点から、より深みを増した喜びとなって、
また私を満たしてくれている。

いろいろな作品から、いまの私で谷川さんの世界をもっと感じてみたいと思った。

心からの感謝とともに、谷川俊太郎さんの御冥福を心よりお祈りいたします。


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