新しい家族(勇気)
「勇気ちょっと来て」
ある日、母に呼び出されたリビング降りていく。
母が新しい父と姉を連れてきたそうだ。
「今日からこの人があなたのお父さん、そしてこの子があなたのお姉ちゃんよ」
母の隣に立つ二人。義父は優しそうな顔をしていたが、勇気の目はその隣の女の子に釘付けになった。
「瑞稀です。これからよろしくね」
そう言って微笑む瑞稀は、すらりとした体型で、制服姿がとても似合っていた。髪は肩までのセミロングで、清楚な雰囲気を持っている。
(お姉ちゃん、か……)
初めてできた姉。勇気はどう接したらいいのかわからなかったが、仲良くなりたいという気持ちは強かった。
それからの生活は、思ったよりも自然に馴染んでいった。
「勇気、朝だよー」
ある日は瑞稀が布団を軽く揺らしながら起こしてくれたり。
「ちょっとスーパーまで行ってくるね。勇気も行く?」
またある日は、瑞稀と一緒に買い物に出かけたりもした。瑞稀は服を選ぶのが好きらしく、スーパーに行くだけなのに時間をかけてコーディネートを考えていた。
「ちょっと、このスカート可愛くない?」
「え? 俺に聞くの?」
「だって、家族の男の意見も参考にしないと♪」
そんなふうに冗談を言いながら、自然と会話が増えていった。
そして、ある日の放課後。
「勇気、今日は私の好きなゲームをしよう!」 「え? 瑞稀の好きなゲーム?」
そう言って瑞稀が取り出したのは、プロレスゲームだった。
「プロレス……?」 「うん! すっごく楽しいよ!」
瑞稀は楽しそうにルールを説明しながら、勇気にコントローラーを渡した。だが、いざ始めてみると、瑞稀の圧倒的な強さの前に勇気は歯が立たなかった。
「ちょ、ちょっと待って! 強すぎる!」 「あはは、私、こういうゲーム得意なんだ♪」
瑞稀はルームウェアのショートパンツ姿で、ソファに座りながらノリノリでゲームを楽しんでいた。画面の中では、彼女のキャラクターが豪快に技を決めている。
「よし、せっかくだし、実際にやってみよう!」 「えっ?」
瑞稀はにっこり微笑むと、いきなり勇気の腕を取り、ベッドの上に押し倒した。
「まずは、キャメルクラッチ!」
気がつくと、瑞稀は僕の背中にまたがっていた。彼女の温かい体温がじんわりと伝わってくる。次の瞬間、彼女は僕の両腕を持ち上げ、それぞれ自分の太ももに掛ける。
「よし、いくよ〜」
瑞稀は僕の顎に手をかけると、ゆっくりと持ち上げ始めた。最初は軽い引っ張りだったが、次第に力が強くなり、僕の背中は反り返っていく。
「ぐ、ぐぬぬ……! く、苦しい……!」
「これがキャメルクラッチ! こうやって相手の体を反らせて降参させるんだよ♪」
瑞稀はまるで楽しんでいるかのように微笑みながら、さらに力を入れる。僕は顔をしかめながら耐えたが、次第に息が苦しくなってきた。
「わ、わかった! もう無理!」
瑞稀は満足したように手を離し、僕はその場にぐったりと倒れ込んだ。
「ふふっ、いい感じじゃん! じゃあ次はスリーパーホールド!」 「え、待っ……!」
瑞稀は素早く僕の背後に回ると、僕の首に腕を回し、ぎゅっと締め上げた。
「スリーパーホールドはね、こうやって相手の首を締めて、じわじわと動けなくさせる技なんだよ♪」
彼女の腕が僕の首にぴったりフィットし、だんだんと締め付けられていく。息が苦しくなり、視界が少しずつ霞んでいく。
「ぐ……う……ま、まいった……!」
僕が力なく手を叩くと、瑞稀はようやく腕を緩めた。
「うんうん、ちゃんとタップしたね♪」
僕は床に崩れ落ち、荒い息をつきながら天井を見つめた。
「た、楽しくない……」
「そんなこと言わないでよ! ね、またやろうよ!」
瑞稀は楽しそうに笑いながら僕を見下ろした。僕は内心「もう勘弁して……」と思いながらも、彼女の楽しそうな笑顔を見ると、それを否定する気にはなれなかった。
「でも、瑞稀が楽しそうだから、まあいっか……」
そんなふうに思いながら、新しい家族との生活が少しずつ馴染んできたのを感じるのだった