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純な涙がこぼれる、母娘の大いなる愛

企画・プロデュース:明石家さんま×原作:西加奈子×アニメーション制作:STUDIO4℃。心温まる愛の物語の魅力を、3つのポイントに分けて紹介。

また「会いたい」と思える無二の存在・肉子ちゃん

まずはやはりなんといっても、肉子ちゃんのキャラクター性。食いしん坊で温情家、いつも明るくおおらかな彼女は、観ているだけで元気をくれる存在。純粋がゆえに騙されてしまうこともあるが、人間の善なる部分を象徴するような肉子ちゃん、その生きざまに救われる観客は多いのではないか。大竹しのぶの妙演も相まって、また会いたくなる好人物に仕上がっている。

そんな母のことがちょっと恥ずかしい小学5年生の娘キクコ(Cocomi)の心情描写も絶妙で、愛情も感謝もあるが素直になりきれない子→親へのリアルな関係性は共感度大。母娘の人物造形の巧みさが、感動ドラマの推進力としても機能している。

感動を呼び起こす心情描写と展開の“仕掛け”

あの明石家さんまが西加奈子の原作に惚れこみ、5年がかりで実現したという本作。映画では『凪のお暇』等を手掛けた脚本家・大島里美が参加し、正反対な母娘の日常と絆を微笑ましくもドラマティックに描いていく。肉子ちゃんとキクコのやり取りを見守るだけでもクスッと笑わされる、まさにハートウォーミングな本作だが、それだけでは終わらない。各々の過去、そして秘密が明かされるとき……この母娘の間に流れる愛情の深さを再認識し、ふたりに対する観客の愛情もまた加速していく。親しみやすいキャラクターに、きめ細やかな心情描写、飽きさせない作劇の仕掛け――『漁港の肉子ちゃん』は、必然の感動作といえるだろう。

水から涙まで…STUDIO4℃の多彩な映像表現

そして、映像の美しさも本作の大きな強み。本作のアニメーション制作はSTUDIO4℃が手掛け、渡辺歩監督ほか『海獣の子供』スタッフが集結。同社の「4℃」は、水の密度が一番高い温度=クオリティの高さを保証する意とのことだが、その社名通りの豊かな世界観を構築している。漁港に欠かせない“水”の時に透き通り、時にとろみを帯びるような多彩な表現、肉子ちゃんが作る家庭的で美味しそうな料理の数々、笑ったり泣いたりといった登場人物の表情のバリエーション――加えて、『漁港の肉子ちゃん』の特長といえるのが、大粒の涙。肉子ちゃんやキクコがボロボロと涙をこぼし、全力で泣きじゃくるから観ている私たちも涙腺を刺激されてさめざめと泣いてしまう……。“共感”や“同化”を誘発する装置としても、STUDIO4℃の貢献度は果てしない。

Text/SYO

「漁港の肉子ちゃん」はこちらから▼

SYOプロフィール

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter:@SyoCinema