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人間は、追いつめられてからが面白い

ソリッド・シチュエーションスリラーの代名詞として、世界各国でカルト的な人気を集めた『CUBE』。監督ヴィンチェンゾ・ナタリが初めて公認した、注目の日本リメイク版の全貌は?生き残るのは果たして誰か…?

これは、世にも残酷な“脱出ゲーム”

ある日突然不条理な環境に身を置かれたら、人間はどうなるだろうか。絶望する者。正気を失う者。保身に走る者。最後まであきらめずにもがき続ける者。極限状態に追いつめられたとき、人は本性を露わにする。

人が、不条理スリラーを見るのは、自らの安全を保障された上で、人間のむき出しの感情を浴びる快感に浸りたいからだ。映画『CUBE 一度入ったら、最後』はそんな究極の娯楽を提供してくれる。

謎の立方体《CUBE》に閉じ込められた6人の男女。なぜ自分がここに来たか。どうすれば脱出できるのか。誰も何もわからない。唯一の手立ては、ハッチタイプの扉を開けて、隣の部屋に進むこと。まるで無限ループのように続く立方体の部屋。6人はその中から出口を見つけることができるのか。

世にも残酷で面白い“脱出ゲーム”が始まった。

ゲームの代償は、命。この謎をあなたは解けるか

まるで迷宮のような立方体。そこには、恐ろしい罠が待ち構えていた。部屋によっては、レーザーや火炎放射器といったトラップが仕掛けられており、不用意に侵入した者に容赦なく牙をむく。もしも進む部屋を間違えたら、即死亡。リセットのできないデスゲームに、6人は少しずつ希望を奪われていく。

ただひとつのヒントは、各部屋をつなぐ通路に刻まれた3つの数字。一見、何の規則性もない3桁の数字に、この謎の空間を突破する鍵が隠されていた。

だが、命を懸けたサバイバルは何の躊躇もなく6人を篩にかける。予測不可能なトラップを前に、命を落としていく参加者たち。

彼/彼女らは無事にこの《CUBE》から脱出できるのか。

本作はぜひ部屋を真っ暗にして視聴してほしい。襲いかかる衝撃の数々に、きっと叫び声を抑えられなくなるはず。

この映画が描くのは、人間の醜さか、美しさか

そんな原作の設定を活かしながら展開されるオリジナルストーリーが『CUBE 一度入ったら、最後』の見どころだ。

最初に部屋にいたのは、あるトラウマと闘いながら成長を遂げていく後藤(菅田将暉)。人当たりはいいが気の弱い越智(岡田将生)。心を閉ざした中学生・宇野(田代輝)。そこに、寡黙ながらリーダー気質の井手(斎藤工)、ミステリアスな甲斐(杏)、高圧的で自分勝手な安東(吉田鋼太郎)と、少しずつ仲間を加えながら、後藤らは出口を目指していく。

その中で繰り広げられる、醜い人間同士のぶつかり合い。傍若無人な安東は罵倒と怒号を繰り返し、その陰で越智はどす黒い感情に飲み込まれていく。

暴走する理性。覚醒する狂気。精神が限界を迎えたとき、最悪の事件が発生する――。

豪華俳優陣による怪演エンターテインメント

無機質でありながら近未来的な美術。ボタンをキーアイテムに人間の希望と絶望を描き出したカメラワークなど、演出も趣向に富んでいるが、やはりこの映画を支えるのは、6人の俳優による怪演だろう。

主演の菅田将暉は、感情の弁を全開にするような熱演。涙と鼻水混じりの叫びが、観る者を釘付けにする。どこか浮世離れした雰囲気を持つ杏の個性を活かしたキャスティングもピッタリ。

斎藤工は佇まいに強い意志を秘めながら、男の哀感を鮮烈に刻み込み、吉田鋼太郎は馬力たっぷりに本作の機動力としての役割を担った。オーディションで大役を掴んだ田代輝はイノセントな中にある反骨心が印象的。

そして最大級のインパクトを放つのが、岡田将生だ。この岡田将生を見たら、もう普通の岡田将生じゃ満足できなくなる。美しくも狂わしき岡田将生に溺れてほしい。

Text/横川良明

横川良明(よこがわ・よしあき)
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画を中心にインタビューやコラムなどを手がける。著書に、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)がある。Twitter:@fudge_2002