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「育児あるある」を強烈に詰め込んだ傑作

育児に疲れた母親の元に現れたのはクールで完璧なベビーシッター。しかし彼女には秘密があった…「育児あるある」が詰め込まれた映画『タリーと私の秘密の時間

育児に疲れた母親と完璧なベビーシッターの秘密の時間

© 2017 TULLY PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

主人公のマーロは二児の母。おませな娘と情緒不安定な息子に加えて三人目の赤ちゃんも生まれ育児は火の車。多忙な夫は育児をあまりせずほぼワンオペ状態。そんな日々に耐えかねてベビーシッターを依頼したところ現れたのはタリーという若い女性でした。初対面なのにタメ口で今時っぽい若者のタリーにマーロは一瞬辟易しますが完璧な仕事ぶりと「私に任せて今は寝て」という優しい言葉に段々と信頼を寄せていきます。タリーのおかげでマーロの心は少しずつ安定していきますが必ず夜にだけ現れて朝にはいなくるタリーにはある秘密があったのです…。監督ジェイソン・ライトマン、脚本ディアブロ・コーディ、主演シャーリーズ・セロンの黄金トリオで送る映画は剝き出しの「育児あるある」をこれでもかと詰め込んだ映画になっています。

全ての育児描写が「あるある」すぎて苦笑いと戦慄が止まらない!

© 2017 TULLY PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

タリーが現れるまでの序盤は圧巻の一言です。二人の子どもを抱えたマーロは身重で動きにくい状態。子どもたちのことは心から愛しているのに雑に扱ってしまったり声を荒げてしまったりすることもしばしば。特に情緒が不安定な息子がパニックを起こして車のシートを蹴り続ける描写はマーロが限界状態にあることを示す白眉なシーンです。育児描写だけではなく、例えば久しぶりに会った友人が昔と変わらない姿で疲れ果てた自分と比較してしまったり、育児を完璧にこなす理想の母親像を追い求めて疲れてしまったりと身につまされる描写の連続です。産後も大変なシーンの連続で赤ちゃんを何とか寝かしつけてベッドルームに行くとヘッドホンを着けてゲームに没頭している夫が…というシーンは男性として思わずウワーッ!と頭を抱えてしまいます。

育児はバトルだ!シャーリーズ・セロンの体当たり演技

© 2017 TULLY PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

主演のシャーリーズ・セロンは背が高くスマートで「モデル体型」というイメージの強い俳優です。派手なバトルアクションや豪華な美女を演じることも多い彼女が今回挑戦したのは三児の母。役作りのために体重を大幅に増量して臨月~産後の女性を見事に体現しています。派手なバトルアクションで敵を殴り倒すのと同じように乳幼児の汚物で汚れた服を着替えたり搾乳機で母乳を絞ったりと育児という過酷で終わりの見えない「バトル」を演じています。この映画は他のシャーリーズ・セロンの派手な映画とは毛色が違うと思われるかもしれませんが、周りの理解や協力が得られない中で必死にバトルする姿は一貫していると強く感じるのです。この共演をきっかけにタリー役のマッケンジー・デイヴィスも様々な役に挑戦するようになったというのもいい話です。

「タリーと私の秘密の時間」とは何を意味しているのか?

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この映画はタイトルからも分かる通り「若くて完璧なベビーシッター」のタリーの秘密が重要なキーとなっています。タリーのように完璧にはなれないと悩む育児ノイローゼについての映画ですが、より正確に言うと「育児ノイローゼになっていることを自覚できない人」の映画なのです。だからこの映画を単にコメディとかホラーという枠に収めるのは違うような気がします。育児ノイローゼを恐ろしいものとか自分には関係のないものとは思わず、誰の身にも起きうることだと捉えることが大事なのです。それは母親にも父親にも大事な認識です。そしてこの映画は見終えた後、必ずもう一度見たくなるはずです。もちろん育児経験者に刺さる映画ですが、人生経験を積んで、若い頃に比べて自分が変わってしまったと感じる全ての人たちにも強く刺さる映画なのです。

Text/ビニールタッキー

▼『タリーと私の秘密の時間』はこちらから

ビニールタッキー プロフィール

映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」管理人。海外の映画が日本で公開される際のおもしろい宣伝を勝手に賞賛するイベント「この映画宣伝がすごい!」を開催。Twitter:@vinyl_tackey