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『JUNK HEAD』特集

2021年公開と同時に話題騒然となったストップモーションアニメ映画『JUNK HEAD』、その見どころを特集!大人も子どもも楽しめる狂気のエンタメがここに!

閉塞感のある地下空間に広がるディストピア世界の物語

©2021 MAGNET/YAMIKEN

2021年は世界的にコロナウィルスが蔓延し、いたるところに息苦しい閉塞感が漂っていた。
偶然にもそのタイミングで公開された本作は、地下空間が深くまで広がる未来を舞台とした閉塞感を見事に表現したもので、公開直後からジワジワと話題を集め、最終的に世界的に知られる作品ともなったが、それにはやはり本作でしか味わえない質感の映像であること、そして国籍関係なくだれもが感じていた閉塞感が映像にも反映され、それらが普遍性を持っていたということだろう。
廃墟などのディストピア的世界観が好きな人だけでなく、コロナ禍を経験した多くの人々にご覧いただきたい傑作だ。

制作期間7年! 気の遠くなるような「時間」を表現した映像は必見!

©2021 MAGNET/YAMIKEN

ストップモーションという、一コマずつを撮影し、少し動かしては撮影、また動かして撮影と、気の遠くなるような作業と時間を費やした堀監督。内装業を生業としていた堀貴秀監督が、だれに教わることなく、絵コンテ、脚本から編集、撮影、演出、照明、デザイン、人形制作、セットを組みまでほとんど一人で作業したという狂気の作品。しかし、だからこそこの映画はアニメでも実写でも表現できないディストピア的世界観にマッチした映像を達成し得た。
人類が生殖機能を失った代償に、不老不死の命を手に入れたものの、新種のウィルスによって滅亡の危機にさらされるなか、その生殖機能を地下で活動する人工生命体に求めにいく、というストーリー。未来の人間や生命体の質感はまさにこれ! 緻密なセットなど観ているだけで興奮できる映像ばかりだ。

愛らしいキャラクターたち、そして会話らしきもの

©2021 MAGNET/YAMIKEN

もしこの作品が、大勢のクリエーターが関わったり、発言力の強いスポンサーなどが介入していたら、この圧倒的な世界は生まれていなかっただろう。
設定や舞台美術が好きな人ならヨダレがでるほど細かく組み上げられたパイプ類、空間建築。そこに、一見「かわいくない」キャラクターたちが登場する。が、観ているうちにかわいく見えてくる。
ポップではない変わりに、その世界で何万年か経過したであろう「時間」が彼らの造形から見て取れる。
そして交わされる言葉のようなものも観客にはまったく理解できない。が、彼らのやりとりから少しずつ理解できるようになっている。
こうした「会話」ひとつでも、わかりやすさを優先して日本語や字幕にしてしまうと、この世界が途端に嘘っぽく見えてしまう。
堀監督の強いこだわりがそのまま表現できたからこその映画だ!

映画は短いが、表現された「時間」は長い

©2021 MAGNET/YAMIKEN

映画のなかには、いったいこの人物は何年ここで過ごしているのだろうという人たちが出てくる。映画のなかでの登場時間は長くないが、そうした彼らの背景に広がる長い時間を感じさせることで、より地下空間で起こっていたことに想像が及ぶ。
映画はコンパクトで観やすいサイズだが、映像で表現される「時間」は長大だ。その「時間」こそ、この映画最大の魅力だと言っていいだろう。絶対観てよね!最高だから。

Text/サンキュータツオ

▼『JUNK HEAD』はこちらから

サンキュータツオ プロフィール

1976年東京生まれ。漫才コンビ「米粒写経」として都内の寄席などで活動。
早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程修了。
アニメ、マンガなどを愛好しており、二次元愛好ポッドキャスト「熱量と文字数」を毎週水曜日配信。「このBLがやばい!」選者、広辞苑第七版サブカルチャー項目執筆担当者。一橋大学などで非常勤講師も務め、留学生に日本語や日本文化も教えている。Twitter:@39tatsuo