後味極悪、傑作スリラー映画
観る者の心をかき乱し、不安に陥れるスリラー映画の数々。その傑作と呼ばれる作品を一挙に紹介。後味が悪くても、ついつい見入ってしまう、スリラーの世界へようこそ。
最大注目監督アリ・アスターの世界
突如現れた異色スリラーの俊英アリ・アスター監督。長編デビュー作『ヘレディタリー 継承』からして強烈だ。ある一家を中心に、何が原因で起きているか分からない奇妙な出来事の連続で中盤まで引っぱり、それ以降はジェットコースター式爆速展開。邪教的なモチーフを用いつつ、それに対する説明はゼロ。観るものすべてを、独自の世界観に引きずり込む。長編第2作の『ミッドサマー』は、前作の暗いトーンから一転、真夏で白夜のスウェーデン北部を舞台に、辺境の夏至祭で繰り広げられる恐怖の連続を描く。どちらの作品も、何度か観ているうちに「げ……ここでこんなことが……」と、監督が仕掛けたトリックに気付かされる。
ほんとにあったコワイ話in US/UK
ファンタジーではなく、臨場感ある恐怖を味わいたいという人には、実在した心霊研究家夫妻を主人公にした実話ベースの『死霊館』シリーズを。シリーズ第1弾の『死霊館』は、アメリカの一家を恐怖のどん底に陥れた心霊現象を解決するために、主人公のウォーレン夫妻がその原因究明と解決に挑むもの。続編の『死霊館 エンフィールド事件』は、夫妻がイギリスで起きていた怪奇現象と対決。どちらも、いわゆる幽霊や悪魔といった超自然現象を扱いながらも、実は一番怖いのは「人の猜疑心」ということを映し出した秀作。お化け屋敷映画的な怖さはもちろんだが、「ヒトコワ」ほどスリリングなことはない、ということを思い知らされるだろう。この秋には最新作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』も公開予定。スピンオフ作品も含めユニバース展開を楽しんで。
あらゆるスリラー映画に影響を与えた傑作
名匠スタンリー・キューブリックの傑作『シャイニング』は、その後のこのジャンルの映画に大きな影響を与えたスリラー映画の古典。山の上に建てられ、冬の間は雪で閉ざされたホテルを舞台に、そこの冬季管理人として雇われた母子が体験する恐怖を描く。おそらく、この映画を観たことがない人でも、青いドレスの双子の姉妹や、斧でドアをぶち破るジャック・ニコルソンなど……数々の映画でオマージュやパロディをされているため、それらアイコニックなシーンはどこかで目にしているはず。なにがどうしてこんなことになっていて、観ている者の気持ちまで乱れていくのか、ということが明確に分からない。それこそが、超常現象が頻発するホテルでの出来事よりも恐ろしいことだと気づくだろう。
text/よしひろまさみち
よしひろまさみち プロフィール
映画ライター。音楽誌、情報誌、女性誌の編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』のカルチャーページ編集・執筆のほか、雑誌、Webでのインタビュー&レビュー連載多数。日本テレビ系『スッキリ』での月一映画紹介のほか、テレビ、ラジオ、イベントにも出演。Twitter:@hannysroom