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LOVE BY CHANCE ~ AE君のヰタ・セクスアリス~

LBC、とてもいい。
まっすぐで、奇をてらったところがなく、きちんとしている。
シンプルなストーリーラインの上に順を追って丁寧にキャラクターの心情の変化やそれに伴う関係性の進展が描かれている。
細かい伏線をたくさん張って、それを回収するのが昨今のドラマシリーズ制作の定石であること自体を否定はしないが、そのテクニカルな技法に頼らなくてもいいくらいにまっすぐなストーリーだけで引っ張ってシーズン1を完結させている。(サブキャラのエピソードを削って全10話くらいでまとめてくれたらもっとシャープになるとは思うが、それはないものねだりというものだろう。)
「意外な展開」だの、「伏線の回収」だの、「どんでん返し」だのと言った修辞が付く作品が多い中で、そうではない作品は、それなりにきちんと評価したい。


「まっすぐで、奇をてらったところがなく、きちんとしている。」
これはドラマへの賛辞ではあるが、そのまま主人公AEのキャラクターでもある。

AEは大学の新入生。つまり、18歳の少年。
18歳が、少年なのか青年なのかは諸説あるところだろう。が、LBCのAEに関しては少年と言い切ってしまっていい。
サッカーが好きで、英語が苦手。(英語以外の科目はそこそこきちんとこなしているらしい。)
自分の身の丈を知っていて、見栄を張って無理することもなく、目の前にあるものに真摯に対応する。一生懸命で、至極真っ当な少年。

彼は自分が器用に立ち回るタイプではないことを自覚している。自分を格好いいとも思っていない。しかし、それを恥じたりはしない。
何故か。
彼は自分の世界がまだ狭いことを知っていて、自分の外に広い世界があることも分かっている。広い世界に一足飛びに出ようとする者もいるが彼はそうしない。自分の目の前のことをきちんとこなし、少しずつ自分の世界を広げていくことが彼の生き方であり、そこに疑問はない。だから彼は堂々と、まっすぐにしていられる。少年は、自分が少年であることに何も不安を持たずに自分と自分を取り巻く世界を受け入れ、そしてただ当たり前にそのままを生きて、そして成長する。

彼は、世界の中では未熟者である。
少年の周りに存在する世界は未知のことも多く、不可解だったり、不条理だったりすることもある。そして、いつか少年は二つの選択肢の中から一つを選ばなければならなくなる。
つまり、不可解なものを理解することをあきらめ不条理を受け入れるか、それともそれらに迎合することなく、自分を守り通すか。
このドラマの中ではAEはまだその選択肢を突き付けられてはいない。大学一年生の彼はまだ純粋な少年でいることを許されている。

ただ、彼の行動様式は、後者、つまり不条理に迎合せずに自分と自分の好きなものを守り通していくのではないかという期待を、すでにいろいろなことをあきらめた大人に抱かせてくれる。

夏休みの少年、もしくは少年の夏休み

少年は美しいものが好きである。
もちろん少年は、少女や大人たちよりは汚いものも好きではあるが、美しいものだってきちんと好きである。しかし、その美しさの評価基準は少女や大人たちとは違うかもしれないし、
工事現場の重機だったり、ペットショップの両棲類だったりを美しいと思うかどうかについては少年の中にも様々な見解があるだろう。

しかし、他者から見て美しいと言われないものでも、少年が一旦その中に美を見つけたら、彼は執拗にその美しいものを追いかけ、自分のものにしようとする。
少女のお人形ごっこは自己投影だが、少年のフィギュア集めは所有欲である。
伝書バトを育てたり、電車の型番を覚えたり、少年は基本的にマニアックであるし、そのあからさまな所有欲が他者の目に曝されてもそれを恥ずかしく思ったりしない。
少年は好きなものには貪欲になり、すべてを投げうってそれに夢中になる。

「大学時代は人生の夏休みだ」、という言葉があるらしい。
夏休みというのは少年にとってそれまでの日常と違う冒険の時間であり、新しいことを発見する喜びに満ちたものである。

AEはその夏休みが始まってすぐ、美しいものを発見した。

美しく、そして弱い存在。
庇護すべきものを自分の保護下に置く行為は自身の自己肯定につながる。
美しいものを所有する喜びと、美しいものを守ることができる自分を誇らしく思う気持ち。
AEがPETEに夢中になることにはなんの不思議もない。AE自身にも、傍観する我々にも、ごくごく自然な流れで物語が始まる。

話を進めるために悪役が登場するが、その話はストーリーに緊張感を持たせる効果はあるものの、実は悪役の存在がなくても二人の関係は成立する。
出会い頭の事故や不良の恐喝などに頼らなくてもAEが少年であることとPETEが自信のないゲイであることだけでこの話は充分ラブストーリーになるし、なんならPETE自身にゲイだという自覚がなくても問題ない。原作があるから仕方がないのだろうが、好き勝手なことを言わせてもらえるならその辺も削って、普通に強い少年と普通に気弱な少年の出会いからの進展を見たかった。と、ないものねだりしたくなるくらい、しっかりした芯がゆるぎない安定感を持ってストーリーの中心に存在する。

そのしっかりとした芯とは、AEの成長過程。
少年が大人の階段を上るさまは、丁寧に描かれることによってそれだけで充分ドラマチックなものになる。

AE君のヰタ・セクスアリス

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サッカー、つまりスポーツで、自分の体を使って爽快感だったり達成感だったりを得ることに夢中になっていた少年は、PETEに出会って初めて、他人を欲し、他人との関係性を構築することで得られる新たなカタルシスへの欲求が自分の中に内包されていることを知る。
好奇心は所有欲になり、やがて独占欲へ。彼はそれを恋だと自覚する。
そして、その感情に肉体的性欲が付随することに気づいた彼は戸惑いながらもそれを認め、自分の感情にきちんと答えを出し、その出した答えに責任を取ろうとする。

なんて真っ当なんだろう。

BLじゃなくても、ここまで丁寧に思春期から青年期へ移行する少年の恋愛における成長過程を細かく描いたものを私は知らない。
いや、私が知らないだけできっとあるのだろう。アドレッサンス、思春期~青年期をテーマに扱う作品は珍しくはないし。
だが、、昔は「子供は子供向け」「大人は大人向け」と文芸作品にもはっきり棲み分けがあったから、その移行期間を扱うものは変にドラマチックな設定だったり悲劇だったり、不安定要素をテーマにしたものが多いような気がする。LBCにそれはない。

こんなに丁寧に、しかもこんなにあっけらかんと、普通の誰にでも起こりうる恋愛のステップを描写したものを私は知らない。

ネタバレしない程度に時系列
AEがPETEに出会って、、そして、、、、

「お前は面白い奴だ」(ep.1)
  ↓
「暑いだろ?俺が(背中で)日差しを遮ってやるよ」(ep.1)
  ↓
「お前はか弱いから目が離せない」(ep.2)
  ↓
「髪が柔らかいな、肌も、、触れると壊れそうだ」(ep.2)
  ↓
「困ったときになぜ俺を呼ばない?俺たちはもう友達だろ?お前は俺が守る」(ep.2)
  ↓
「会いたい」(ep.3)
  ↓
「お前の頬にさわれるのは俺だけだ」(ep.4)
  ↓
「俺はお前を友達以上に好きみたいだ」(ep.4)
  ↓
「キスしていいか」(ep.4)
  ↓
「恋人になってくれ」(ep7)

ここまでで7話。そしてまだまだTo be continued.

本当はここまででももっとこっぱずかしい台詞満載なんだけど、それを恥ずかしがらずに見られるのはAEがまっすぐだから。(この先ももっとこっぱずかしい萌え台詞ありまくり♡)

引用句の後の番号を見てもらえばわかると思うのだが、ep.2まではAEが一人でアプローチしているところの台詞で、PETEも嫌がらないから、トントン進むんだけど、そこからペースが落ちる。

仲の良い二人が恋人になるのは簡単じゃない。
双方の意向を確認し合いながら、時には遠回りして関係は進む。逡巡や誤解は、相手への思いやりに裏付けされたためらいだったり、相手が好きだからこその嫉妬だったりするから、お互いの気持ちを確認するのには時間がかかるし、もどかしい。

もちろん恋愛当事者にとってももどかしい時間だが、ストーリーを追う作品を作る側にとってはもっと面倒くさい作業になるはず。ともすれば見るものをイライラさせ、飽きられてしまうことにもなる。でも、LBCではそこを端折らないで、きちんと心情描写をしながら二人の関係というドラマが進行している。二人の人間が出会って関係を深めていくだけの、ただそれだけの、どこにでもあるお話を、変な伏線や意外な展開と言った技巧に逃げずに真正面からまっすぐ描いている。これは称賛に価すると思う。

素材をきちんと丁寧にそして余計な手を加えずに料理することで素材の味が活きる。
少年の成長というどこにでも転がっている素材を丁寧に扱ったことでこのドラマは普遍性を持つに至った。

愛すべき付け合わせ、刺身のつま、いろどり

主人公二人がぐずぐずともどかしい時間を過ごしている間に活躍するのが友人たち。
ポンド、ボウ、ピング。可愛くて愛おしい。
ポンドがep.2でAEの自転車に乗っているシーン。AEがPETEを見つけて急に自転車を降りて走り出す。ポンドは自転車と一緒に倒れて横に一回転する。緊迫感のあるシーンの背景に映されるその体当たり演技はケラケラ笑える。
またep.4で映画を見終わった4人の場面で気を利かしたピングがポンドを引き離しAEとPETEを二人だけにしてあげようとするシーンの台詞も楽しい。

時にストーリー進行を助ける役以上の存在感を発揮する彼らの働きは特筆に値すると思う。
感謝。

おわりに

シーズン2 LBC2 A Chance To Loveでは、残念ながら別の展開になり、AEとPETEの話は「ストーリーの筋を通すための糸」くらいの扱いでわきに追いやられている。
ただ、先に書いた、
少年AEは「不可解なものを理解することをあきらめ不条理を受け入れるか、それともそれらに迎合することなく、自分を守り通すか。という二択をまだ迫られていない」という状況ではなくなっており、だったらそこらへんをきちんと描いて見せてほしいのだが、シーズン2ではその辺は扱われていない。
シーズン2はLBC(1)という直球恋愛ドラマの続編としては考えない方がいいのかもしれない。タイトルも別につけているわけだし。
ただ、原作にはシーズン2の続きの話もあるらしく、もし、それが映像化されたらAEとPETEのその後も見ることができるのかもしれない。

とりあえず、今はLBC(1)の完成度の高さを称賛してひとまず終わる。


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