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遠州産地にとっての2024年と、その先の光(今年一年を振り返って)
まもなく2024年も大晦日を迎えます。
今年も、HUIS・遠州産地、いずれにも本当にいろいろなことがあった一年でしたが、その中でも振り返ってみると自分にとって大きな一つはentranceの
活動ではないかと思います。
2023年2月に実施した「遠州×尾州産地交流プログラム」を皮切りにentranceの活動は本格的にスタートしましたが、2024年は、
・entranceウェブサイトの開設
・清澄白河リトルトーキョーでの「entranceマルシェ」開催
・遠鉄百貨店「サンチノ」出展
・渋谷スクランブルスクエア「さんちギャラリー」出展
・浜松市事業「遠州のトビラ」開催
・イオン浜松市野リビングハウス内コンセプトショップ「entrance to 遠州さんち」開設
・こども園・小中学校での啓発授業の実施
・東京ビッグサイト「グッドライフフェア2024」出展
などを行いました。
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いずれも隔月で開催している『遠州さんちの未来会議』で企画し、実施してきた取組みですが、実際、一つ一つのイベントに手応えを感じることができました。
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そのうち、現在も開設中のイオン浜松市野リビングハウス内コンセプトショップ「entrance to 遠州さんち」は、来月1月31日までとなります。
先日の地元・遠鉄百貨店でのPOPUPイベントでは、「今まで遠州織物のことはよく知らなかったけれどイオン市野で知り、興味を持って今回のイベントに訪れた」とご来店いただいたお客さまが本当に多かったのが印象的でした。
イベントと違って自分たちが常に直接販売できる場所ではありませんが、リビングハウスさんのご協力もあって少しずつ認知が広がっていることを実感しています。
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この「entrance to 遠州さんち」は、HUISだけでなく多様な遠州織物を体感できる、ということにまた新たな価値のある場です。
今年はセミナーや講演に呼んでいただくことが多かった年で、遠州産地の特徴をお話しさせていただく機会も増えていますが、そうした際にまず紹介させていただくのは、こうした遠州産地の多様性についてです。
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HUISが使用している広幅織物(アパレル生地)のほか、着物などに使われる小幅織物、浴衣や手拭いに使われる注染ぞめ、バッグの紐や資材に使われる細幅織物やタオルなど、これほど多様な生地が生産されている産地は国内に例がありません。
広幅織物だけを見ても、シャツ生地に以外に別珍・コーデュロイ・帆布・刺子・藍染デニム・ガーゼなど枚挙にいとまがなく、そのいずれもが一社一社に特徴のある、価値ある生地です。
遠州生まれの豊田佐吉が日本で初めて自動織機を発明して以降、繊維業界はシャトル織機、レピア織機、ウォータージェット織機、エアージェット織機と、効率化を目指して織機の種類は革新を遂げてきたわけですが、それぞれの織機に適材適所があります。
【生地のコト、産地のコトシリーズ】vol.7 織機の種類
例えば、シャトル織機ではできない織り柄や特徴ある生地がレピア織機で体現できるものもあります。
例えば、桁違いの量が必要となる産業資材等の分野で、エアージェットのような大量生産できる織機がなければ今の経済社会は成り立たないでしょう。
HUISは旧式の「シャトル織機」で織られた生地を中心に使っているわけですが、仮にすべてがシャトル織機のような非効率な機械で服が作られていたとしたら、全てが高価な服になってしまいます。
手頃で買い求めやすいトレンドの服があることで、例えば若い学生さんにたちはたくさんのファッションに触れ、楽しむことができます。自分たちもまた、そうした経験を経てファッションと生地の知識を得てきました。
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僕たちは視野を狭めて一つのものそれだけがいいものだ、という考えを広めたいわけでは決してありません。
繊細な高級糸で織られた生地だけがいいものなわけではなく、素朴で粗野な、素材感を感じられる味わいある生地もあります。そうした生地で仕立てられた服もまた愛着を持てるものでしょう。
HUISを通して、そんな多様な服の楽しみを味わってもらいたい。それが僕たちの活動を通して願っていることの一つです。
遠州織物における特徴というのは、近代繊維業において織機の製造メーカーが数多生まれ、それに伴い紡績メーカーも集積していた産地であること、その歴史がある上で世界的にも希少な旧式の織機が多く残り、これらを操る職人さんたちが今なお活躍している産地であるということです。
“紡績工場跡地で伝える、遠州織物の本質”
遠州という産地の技術を伝え、その強みを活かしたブランド運営をしている。数あるアパレルブランドの中で、そうした特徴をもったブランドの一つです。
そして、遠州以外にも、今日本に残る他の産地にそうした特徴ある背景が必ずあります。
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生地の背景、産地の背景、様々なことを知って、その上で選択肢があることが大切なことだと僕たちは思っています。
そうした少し知識を得ることで、今これだけ世界中に広がっている衣服の楽しみは、もっともっと、無限に広がっていくはずです。
僕たちは、お客さまとともに、そうした楽しみをこの先も味わっていきたいと思っています。
2024年の1年間。右肩下がりを続ける産地には、例年に応じた後退はありました。でも前進もはっきりとあった年だと僕は思います。
新たに迎える2025年もまた、可能な限り新しいことに取り組んでいきたいと思います。