見出し画像

嵯峨野綺譚~狸~

我が家の庭先に狸の置き物がある。
信楽焼のでっかいヤツ。死んだ父親がこの家を建てたときに買ってきた。
もう50年近く前。だからけっこう古びていて、ところどころ剝げたり苔が生えたりしている。

往来からもよく見えるので、家の前を通る観光客、特にインバウンドの観光客が珍しがって写真を撮ったりする。

その日も家の前を掃いていたら、白人系のカップルが「アレは何と言う動物ですか?」と英語で訊いてきた。
狸って英語でなんて言うんだっけかなぁ・・・?
思いつかないので「日本語でタヌキと言います」と答えた。
「タヌキ!?」
「YES」
「どうしてあんな恰好してるんですか?何か意味があるんですか?」
難しいこと訊いてきやがるなぁ。
「狸は賢い動物で、時として人間を騙したりします」
「OH!トリックスターみたいですね!?」
「YES!そのとおり!!」

カナダ人だというカップルはそのやり取りに大変満足して落柿舎の方に歩み去った。
Have a nice trip.

「知らねぇのかよ。英語で狸ってなんていうか。ラクーンドッグ(raccoon dog)だよ。そんなことも知らねぇのかよ」
誰かがつぶやいた。

狸がこっちを横目で睨んでいた。

(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?