佐々木朗希の2024オフシーズンのMLB移籍方法について



 

はじめに

佐々木朗希は言わずと知れた現NPBトップクラスの投手であり、彼のMLB挑戦はドラフト時から話題に上がっていた。そんな中、2023年のオフシーズンに所属球団である千葉ロッテマリーンズに対しポスティング要求を行ったということが一部媒体で報道された。その報道が事実かどうかはさておき、2024年シーズン終了後にはマリーンズの松本尚樹球団本部長が、佐々木朗希との間に継続した話し合いが行われていることについて認めた。そして、日本時間2024年11月4日、中南米の野球事情に詳しい、Francys Romero記者が以下のポストを投稿した。
 

https://x.com/francysromerFR/status/1853279037365371145 より引用

「情報筋によると、佐々木朗希が千葉ロッテマリーンズからのオファーを拒否した。」「23歳のエースのこの状況は不確かなままだ。MLBの球団と契約するためにポスティングされるかもしれないが、マリーンズと交渉を続けるかもしれない。(筆者拙訳)」と報じたのだ。そこで、本投稿では彼のメジャー挑戦の方法について取り上げる。なお、先に断っておくが、ここから先は当たり前の話を書き連ねるつもりだ。そのため、新たなルール解釈だったり新事実を伝えることはない。また、役職名を除き敬称略とすることもご理解いただきたい。

ポスティングシステムとは

 では、そもそもポスティングシステムとは何なのだろうか。ポスティングシステムとは通常、海外FA権を持たない日本人選手がMLB挑戦をするためのほぼ唯一の手段である。このシステムを利用した選手は沢山おり、最近では今永昇太や山本由伸が著名だろう。
 そして、このシステムの最大の特徴として「球団の許可が必要」ということと、「ポスティングシステムを介してMLB球団と契約した場合、その契約総額の一部が譲渡金として元の所属球団に還元される」というものがある。つまり、選手側がどんなに熱望しても、球団に拒否されてしまえばこのシステムは使えない。しかし、球団側にとってはその選手が大きな契約を結んでくれるのならば、球団側にも利益が生まれるので認めるメリットが生まれるわけだ。実際、オリックスは山本由伸の移籍金として、5060万ドルがドジャースより支払われたという。
 ではなぜマリーンズは佐々木朗希の渡米を許可しない可能性があると報道されるのか。それには「25歳ルール」が関わる。

 

25歳ルールとは

 端的に言えば、アメリカ以外のプロリーグてプレーした選手はそのリーグで最低限6年間プレーし、かつ25歳以上でなければ国際契約ボーナスプールの対象にならないというルールのことだ。このルールは2016年12月にMLBと大リーグ選手会が結んだ労使協定から始まった。ここからの話は様々な要因が絡み煩雑であるので省く。
 結論からいうと、佐々木朗希が今MLBに挑戦すると、全て込みで年間500万ドルほどの契約が上限なのだ。言い換えれば、ポスティングシステムの球団側にとって最大の魅力である、MLB球団からの譲渡金がとても少ないということだ。実際にそれは1億円~2億円と言われている。怪我がちなものの、投げれば場を支配できる佐々木朗希を手放し、その対価がせいぜい1億や2億程度なのである。

任意引退での移籍

 かつてドジャースなどでプレイし、ノーヒットノーランを複数回達成した“パイオニア“こと野茂英雄。そんな彼が渡米した方法は「任意引退」だった。当時所属していた近鉄バファローズを退団し、そのままドジャースと契約を結んだのだ。しかし今ではこの手法は使えない。この騒動を発端として、「日米間選手契約に関する協定」が作られた。任意引退選手がMLB球団と契約する際は、最終所属していたNPB球団の承認をとらなければいけなくなったのだ。これは任意引退選手の所有権を最終所属の球団が保持している関係上、避けては通れない。つまり、佐々木朗希が野茂英雄のように移籍することは事実上不可能なわけである。


年俸調停とは

 プロ野球には、年俸調停というシステムがある。選手側の希望と球団側の提示額がいつまでたっても乖離して契約が結べない場合(この状態を契約保留という)に使われる。日本プロフェッショナル野球協約2022によると、

第94条 (参稼報酬調停)
 次年度の選手契約締結のため契約保留された選手、又はその選手を契約保留した球団は、次年度の契約条件のうち、参稼報酬の金額に関して合意に達しない場合、コミッショナーに対し参稼報酬調停を求める申請書を提出することができる。
第95条 (参稼報酬調停委員会の構成)
 コミッショナーが前条による参稼報酬調停の申請を受理した場合、参稼報酬調停委員会を構成しなければならない。
第96条 (参稼報酬調停委員会の方法と時期)
 参稼報酬調停委員会は、選手本人、当該球団の役職員1名からそれぞれの希望参稼報酬額及びその根拠を聴取し、調停を行う。このとき、参稼報酬年額を記入する場所のみを空白とし、当該選手と球団が署名した統一契約書を提出しなければならない。この時点で当該選手は参稼報酬のみ未定の選手契約を締結した選手とみなされる。参稼報酬調停委員会はコミッショナーが調停の申請を受理した日から30日以内に調停を終結し、決定した参稼報酬額を委員長が統一契約書に記入後、所属連盟に提出することとする。

ag2022.pdf

 つまり、年俸が合意に達しなかった場合には、委員会が聞き取りを行い、球団提示額もしくは選手希望額のどちらがより妥当かを判断する。そしてより妥当だと思われた金額で契約が更新されるわけだ。球団に拒否権はない。
 しかし、選手がこれに合意しない場合は任意引退となるのだ。つまり保有権を球団が保持している状態となり、国内他球団はおろか海外リーグとも契約できない状態となる。

結論(忙しい人・面倒な人はここだけでもOK)

  1. 佐々木朗希が2024シーズンオフに移籍するならばポスティングシステムしかない

  2. しかしマリーンズに認めるメリットはほぼない

  3. 任意引退制度を使った移籍は不可能

  4. ポスティングが拒否された場合、たとえ佐々木朗希はマリーンズとの契約を拒否しても、ほかの球団とは契約できない

以上が大事なことだ。
 

蛇足

 Romero記者のポストに対し、一つ気になったことがある。それは、「なぜ[decline]という単語を使ったのか」というものだ。上にも書いたとおり、佐々木朗希がマリーンズとの契約を拒否しても彼はメジャーリーグに行くことは不可能だ(ポスティングシステムを除いて)。つまり彼に拒否する権利はあるが、したところでどうにもならない筈だ。「メジャーにいけないのなら」とより大きな契約を望んだのだろうか。しかしその場合でもあまりにも金額が大きい場合には年俸調停で負けることになるだろう。
 ここについては私の足りない頭では満足する考察は得られなかった。ぜひコメントで考えを聞かせてほしい。


           ここまで読んでいただきありがとうございました。

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