ぶつかりおじさん、異世界に行く〜俺の道は俺が決める〜

第1章：衝突の向こう側

東京の喧騒の中、いつもと変わらない通勤ラッシュが始まっていた。電車を降りると、サラリーマンたちが押し寄せる波に乗って、四十代半ばの男性がひとり、意固地な表情で歩いていた。その男の名は田中雄一。周囲から「ぶつかりおじさん」と揶揄される彼は、誰にも道を譲らないことで有名だった。

「今日も変わらないな……」と心の中で呟きながら、雄一は歩き続けた。彼の顔には深い疲労の色が浮かび、目は虚ろだ。仕事のストレス、家庭の問題、全てが彼の心を蝕んでいた。

そんな彼が歩道橋を渡っていると、一人の若い女性がスマホを見ながら向かってきた。雄一は一瞬もためらわず、彼女にぶつかる覚悟を決めた。

「どけよ、前見て歩け！」彼の怒声が響く。しかし、次の瞬間、周囲の風景が歪み始めた。目の前が真っ白になり、身体が浮かぶような感覚に襲われた。気づくと、雄一は見知らぬ場所に立っていた。

「ここは……どこだ？」

目の前に広がるのは、見慣れない森と草原。澄んだ空気が鼻を突き、鳥のさえずりが耳に心地よく響く。彼の身体は異常に軽く感じられた。まるで現実の世界とは異なる、幻想的な空間にいるかのようだ。

「まさか……異世界？」

驚きと戸惑いの中、雄一は周囲を見回した。すると、目の前に一人の若い女性が現れた。彼女は長い銀髪と青い瞳を持ち、優雅なドレスを纏っている。

「あなたが『ぶつかりの勇者』ですか？」と彼女は問うた。

「ぶつかりの……勇者？」雄一は首をかしげた。

「はい、私たちの世界を救うために、あなたのような勇者が必要なのです。私の名はリリア、この国の王女です」と彼女は深々と頭を下げた。

雄一は信じられない思いでリリアを見つめた。彼がただ日常のストレス発散のためにしていた行動が、異世界で「勇者」として認められるとは。

「ちょっと待て。俺が勇者？俺に何ができるって言うんだ？」雄一は困惑の表情を浮かべた。

「あなたの強靭な意志と他者を恐れぬ姿勢こそ、この世界を救う力となります。どうか、私たちをお助けください」

リリアの真剣な眼差しに、雄一は一瞬ためらった。しかし、自分がこの異世界で何を成し遂げられるのか、彼自身も分からない。ただ、このまま流されるわけにはいかない。

「分かった、やってやる。俺の道は俺が決めるんだ」と雄一は決意を固めた。

こうして、ぶつかりおじさんこと田中雄一の異世界冒険が始まった。彼の新たな挑戦は、まだ見ぬ困難と出会い、成長を遂げる旅路となるだろう。彼の衝突は、果たしてこの世界を救う鍵となるのか、それともさらなる波乱を巻き起こすのか。

「行こう、リリア。俺がこの世界をぶつかり抜けてやる！」

新たな決意と共に、雄一は一歩を踏み出した。彼の異世界での物語は、今まさに始まったばかりだ。