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リアリティなんて自分で勝手に決めればいい。
創作における「リアリティ」(?)の話題をTwitterで見かけた。ちょっと興味があったので、簡単に意見を書いてみる。
対象となったのは、『プラネテス』という15~20年くらい前のSF漫画(アニメ)作品で、壮大な宇宙バトルみたいなものではなく、簡単に言うと宇宙ステーションや月面での"労働や暮らし"に焦点を当てた内容となっている。作品自体はけっこう人気があった。
作者も批判者も悪くない
で、まあ、このアニメに対しJAXA(宇宙航空研究開発機構)元職員の方が発した批判がちょっと話題になった。主だったコメントは以下。
プラネテス
— 野田篤司 (@madnoda) January 25, 2022
今まで見ていなかったので、義務的に再放送を3話目まで見ているのだが
何処が面白いんだ、このアニメ
軌道力学的な考察が無茶苦茶なのは、まだ許せるが、主人公だあろう新人、もし私のところに配属されたら、速攻で、不適格者としてクビだ
宇宙特にEVAを甘く見すぎている
プラネテス
— 野田篤司 (@madnoda) January 25, 2022
エンターテインメントのアニメに、面白くないと思ったら、こう言う事を Twitterには書かないで、単に見るのをやめるだけなんだが、普通は
ただ、プラネテスの影響で宇宙に対して誤解してる人が多く、実際に宇宙をやっているプロとして迷惑しているので、義務でも何でも最後まで見なくてはと
この批判に対し、作者である幸村誠氏がコメントを出した。
みーんな空想、フィクション、現実ではございません。OK?その上でお楽しみいただけましたら幸いです。
— 幸村誠 (@makotoyukimura) January 25, 2022
その上で、読者の皆様の心に何かポジティブな気持ちを呼び起こすことができましたなら、それはたいへん漫画家冥利に尽きます。
プラネテスをお楽しみくださっている皆様、ありがとうございます。
えー、ちょっとひと言お断りを。
— 幸村誠 (@makotoyukimura) January 25, 2022
全くもってプラネテスはフィクションでございまして、ウソばっかりでございます。ありもしない宇宙船、ありもしないデブリ、いもしない人物、未来が舞台のボクの空想でございます。
「面白くない」というご感想については、全くボクの力不足で申し訳ございません。
堀江貴文氏の批判。
描いた側にはそれが宇宙開発に与える悪影響までは考慮していなかったのでしょう。が、かなりの悪影響を与えています。なんらかの訂正アクションが欲しいところです。 https://t.co/xUuiNGydqi
— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) January 25, 2022
最初にひとつ。基本的にはエンタメ作品における科学的根拠の誤りを訂正などする必要はまったくないと思う。
■JAXA元職員さんのコメント
① 作品の設定(宇宙ステーションの船外活動など)に科学的に大きな誤りがある(つまりリアルじゃない)
②この作品はつまらないと思った
③エンタメにつまらないと言ったら批判がたくさん来た
④誤った宇宙開発業務の認識によって現実の宇宙開発に弊害が生じている
この中で④は具体的にどういうことなのかわからないので何も言えない。①②はぶっちゃけ、作品の観賞者が何を言おうが自由だと思う。③はオープンなTwitterで発言してバズってしまったら仕方がないこと、とはいえ一個人の感想をそこまで叩くか?とは思う。
つまりこの方は何も「おかしい」ことを言っていない。
■原作者のコメント
①フィクションであり、全て私の空想なので作品を楽しんでいただきたい
②「面白くない」というご感想については自分の力不足
幸村氏も何も間違ったことを言ってはいない。世に出した作品はどんな批判からも逃れることはできないし、今回のようなことは他の作品でも沢山起こりうる。
ここから僕が気になったことがあるので少し書く。
「リアリティ」とは何か
小説や漫画やアニメや映画でもドラマでも、創作作品における「リアリティ」といってもいろいろある。「これはとてもリアルだ」というとき、それは「"実世界"の"現実"に近い設定、描写、ディティール」(変な言い方だけどね)という文脈で言われることが多い。今回の件もそうだ。たとえば科学的正当性であったり、料理や風景といったものや、人間の生活環境や心理描写なども「リアリティがある」という表現でポジティブな評価をされたりする。専門知識のサポートをつけてリアリティを補強していく作品も多くあり、当然その精度にも作品ごとに差はある。創作物は学術論文ではないので間違いもあれば著しく正確なものもあり、半端に正しいものもある。
今回の『プラネテス』は、宇宙を舞台としたトガーンバギューンズトーン!といったタイプの荒唐無稽をあらかじめ織り込んだド派手エンタメSFでなく、「現在の科学技術や人類の生活の延長にある、ごく近い宇宙での近未来の人間の労働や社会」という設定なので、実際の宇宙船労働の専門家からすると「中途半端なリアリティ」にツッコミどころの余地があった。歴史創作物も似たようなツッコミを受けやすい。つまり、よりリアルに近い物語・舞台設定のほうに「そこは誤っているぞ」という指摘が入り、リアルからかけ離れている設定のほうには学術的、科学的な細かい指摘は入らない。ガンダムやスターウォーズは専門家から科学的妥当性など指摘されない。
まあエンタメにそこを言うのは野暮だろう、とは思うけれども、なまじ詳しいと気になってしまうのだろうし、実際のその誤った表現に"実害"があるのなら声を上げるは自由だろう。例えば法律を扱うエンタメだったら間違いはアカンと思う。作者の幸村氏はちょっと気の毒でしたね。
最後に。上述の件とはズレますが。
上のほうで書いた"人間の生活環境や心理描写"、などもリアルだとかリアルじゃないとかいう評価を見るし、それは科学的根拠とはちょっと別で、読者・観賞側の考え方や社会や人間への認識といった主観が入る。
長いこと様々な娯楽芸術エンタメを愉しんできた僕の意見を言うと、「その作品が/その作品のある描写が、自分にとってどれだけ切実に感じられたか」が自分にとってのリアリティだ。綿密に、徹底的に「リアル」に作りこまれたクオリティが高いとされる作品から自分は何一つリアリティを感じないこともあれば、荒唐無稽のアホなドラマのワンシーンのひとつの台詞に魂を撃ち抜かれることもある。
僕の解釈ということになるが、創作におけるリアリティというのは「現実に近い」ということではなく、自分にとって"リアル"な何かを感じられることそのものだと思っている。
漫画家・幸村氏が上のツイートで「読者の心の何かにポジティブな気持ちを呼び起こすことが出来たら漫画家冥利に尽きる」と仰っていたように、その"心に起きたポジティブな何か"こそが、読者にとってのリアリティだと思う。
*元JAXAの方はツイートを消してしまったようだ。感想を攻撃する行為はやはり良くないです。