新しい「契約」のかたち~「OneNDA」に込める思い
1 なぜこのプロジェクトを行うか。
Hubbleは、これまで契約業務の改革にチャレンジしてきました。
プロダクトリリースから4年が経過した現在では、日本を代表するような大企業の方々にもご利用いただけるまでになりました。
このチャレンジは、もちろんこれからも続けていきます。
もっとも、これまで延べ2000社を超える企業の皆様から契約業務の実態について話を聞かせていただくたびに、そこに潜む課題があまりに多様かつ根深いものであることを考えさせられました。そして課題の多様性ゆえ、汎用的な解決策を提供することの難しさも感じました。
ここを抜本的に解決するためにはどうアプローチをすべきか。我々が考えたことは、
「契約」そのもののかたちを変える
ということでした。
これまでのように、既存の「契約」を前提としたアプローチではなく、「契約それ自体をデザインしていく」ことで、大きな業務効率化、さらには契約がもっている本来の機能を果たすことが可能なのではないかと考えました。
実は、このプロジェクトの考えはHubbleが立ち上がる前からありました。
このプロジェクト自体は、何も新しい発想ではなく、長きにわたる慣習から見えづらくなっていた非合理性に目を向けたときに、実現されるべきものだと思っています。
皆様とこれからの契約のかたちを作るための第一歩を踏み出したいと思っています。
2 このプロジェクトの必要性
(1)このプロジェクトの目的
このプロジェクトは、秘密保持に関する取決めを軽視するようなものでは決してなく、
「秘密保持に関する取決めが重要であることを前提として、取引当事者双方がルールを認識しつつ、より迅速に取引を開始できる状態をつくる」ことを目的とします。
企業にとっての秘密情報は、競争力の源泉にもなり得る重要なものであることはいうまでもありません。企業にとって秘密情報を守ることは、その企業の競争優位性を維持強化する上で、非常に重要な意味を持ちます。また、企業の秘密情報が漏洩されることによって、その企業の信頼が失われる例は枚挙に暇がありません。
そして、秘密情報を取引相手に開示する際に、NDAを締結することで、相手方が秘密を保持し、目的外に情報を利用されないよう規律することができます。また、秘密情報の漏洩があった場合に「営業秘密」等(不正競争防止法)に該当することを主張立証できなくとも、契約違反を理由に法的責任を追及することが可能です。(さらに、不正競争防止法に基づく請求をする場合であっても、NDAが「営業秘密」要件である「秘密管理性」を補強する要素として働くことで、「営業秘密」漏洩に関して、同法に基づく「損害」の推定が働くことや行為差止めを行うことができる可能性等もあります。)
そのため、企業活動において秘密情報を守ること、そしてそれに関しての取決めを定めることは当然軽視されるべきではありません。
(2)NDAを締結すれば安心?
そのうえで、このような場面を経験されたことはないでしょうか?
典型的なNDA締結の場面だと思います。
繰り返しになりますが、自社の秘密を開示する以上、秘密情報の取扱いに関して相手方と取り決めを定めることは重要であることは前提としても、あくまでビジネスをはじめるための手段であり、より迅速に取引を開始できる状態ができるのであれば、そこに時間、リソースを割くべきではありません。
また、NDAが締結されていた場合であっても、仮に秘密情報が漏洩された可能性がある場合に事後的救済手段をとっても、事実上回復が難しい場面も少なくないです。上記のように、債務不履行責任や不正競争防止法に基づく損害賠償請求や行為の差止め請求が法的に可能であっても、法的要件を充足することを立証する必要があり、その立証活動は容易でないことも多いです。さらに企業内の問題でいえば、時間の経過とともに人事異動等に伴う情報の正確な引継ぎが十分ではないケースもあり、結果として第三者に開示されてしまう可能性もあります。
NDAを締結すれば安心であるということではないのです。
むしろ、情報を開示さずにビジネスの目的を達成することができる別のスキームはないか、自社の秘密情報を開示する際に、秘密情報を誰にどのように提供するのか、情報の重要性や性質から、開示情報の範囲と開示範囲をどうコントロールするかが、自社の秘密情報を守るために重要かつ実効性のある術だといえる場面もあります。
さらにいえば、実際に締結される契約書は、取引先ごとに内容が異なっているケースも多いと思います。個別の相手方との間で定められている権利義務やそこに潜むリスクをしっかり把握している状態をつくることは容易ではなく(上記のように企業内での人事異動があればなおさら)、双方で合意したはずの内容にもかかわらず、その内容が実際には形式的なものになってしまっていることも多いと思います。
(3)バランスの取れた方法はないのか。
このように、秘密情報に関する取決めが重要であることは前提として、取引当事者双方がその内容を認識しつつ、より迅速に取引を開始する方法はないか。お互いがルールを把握し、迅速に取引を開始できる状態をつくりたい。このプロジェクトはこのような思いから生まれました。
過去にもSNS等でこのような議論がなされてきましたし、先日のリリース後も、問い合わせや賛同の声を数多くいただきました。
上記のような取引開始時の煩雑なやりとりを最大限効率化させたいという多くの方の思いを感じる一方で、前提としての、秘密情報に関する取決めの重要性も軽視してはいけません。
このバランスをいかにとるか、このプロジェクトの大きなポイントだと思っています。
3 統一規格化はなぜ実現できるのか。
(1)契約書は何のためのものか。
そもそも、契約した内容について、契約書を作成する意義はどこにあるでしょうか。
一般に契約書は、①証拠としての意義、②行為規範(取引ルール)としての意義があるといわれます。
もっとも、実務上は、契約書の中では、①②の意義よりも、③慣習的意義の強い契約書が実は多く存在していると思います。
こういった契約書は、当該契約から生じるリスクが相対的に小さく、かつ取引における個別具体的な事項が規定されることが少なく、誤解を恐れず言えば、「慣習的に締結される契約書」という側面が強いといえます。このような「慣習的意義の強い契約」については、取引開始の迅速性に重きをおいたかたちで合意を残しておくことができないかと常々考えてきました。
(2)契約がコミュニケーションであること
さらにいえば、契約は「人と人との意思の合致」です。
ここで日本における契約の特性について考えてみると、日本における契約は、同一言語同一民族間の合意として、文化背景が似た者同士の合意が多いといえます。既に共通の認識をもったもの同士の契約書の意義は、その共通認識を確認する意義や共通認識を補助する意義が強く、その結果、日常的に取り交わされる契約書には取引実態の詳細を定めていないケースも多く存在します。
特に上記のような「慣習的意義の強い契約書」についてはこの点が顕著だと思います。
そのため、日本における契約という点を考えても、個別の契約書締結という方法によらずに、双方の共通認識を確認しておく形でのルールの定め方によって取引を開始していくことは可能であると考えています。
4 どう実現するか~NDAの統一規格化
(1)雛形の提供?AIレビューではだめ?
先日のリリースの後、「これは雛形提供なのか?」という趣旨の質問をいくつも受けました。
このプロジェクトは、バランスの取れた新しい雛形を提供することではありません。雛形を公開するという方法では、この世の中の雛形が一つ増えるのみで、現在各社が保有している雛形から「OneNDA」へ移行するインセンティブが働きづらく、上記理想の状態を作ることは難しいと思います。
また、個別取引における都度のレビューを効率化してくという視点をとらえれば、これからはAIによる自動レビューによって解決できるとも思えます。
しかし、先ほどのとおり、そもそも契約は、人と人との合意やコミュニケーションそのものです。
その内容をお互いが理解して、そこにどんなリスクがあるのか、その後どんなことをしなければいけないのか、してはいけないのか、それを理解してくことが契約の本来的意義です。単にレビューを効率化していくだけではなく(その状態も大きな改革であることは間違いないと思いますし、それが大きな意味を持つ契約も存在します)、一つのルールを明確化して、お互いがルールを把握した状態で取引を迅速に開始していく世界ができてほしいという思いがあります。そこで、統一規格化をしていきたいと考えました。
(2)プロジェクト内容
実際のプロジェクトの内容は以下を想定しています。
このように、個別に契約書を締結するというわけではなく、一つのルールに賛同する形をとります。最終的には、統一規格に同意している企業か否かという点のみがポイントになるような状態を作りたいと思います。
5 最後に
「OneNDA」プロジェクトは、これまでとは異なる「新しい契約」の実現に向けた一つの社会実験です。
多くの企業、個人がこのプロジェクトに賛同していただき、このプロジェクトを進めていかなくてはいけない、大きなチャレンジです。
皆様とともに新しい世界を作っていきたいと思っています。
賛同いただける方からのメッセージ、ご意見等、お待ちしております。
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