市ヶ谷発、二つの博物館
まさしく同時期に、「本と活字館」の企画展に駆け込み、その勢いでつい昨日「印刷博物館」へ行ってきたので、この井上のきあさんのnoteにはびっくりしました。二つの博物館の魅力を生き生きとまとめておられます(写真も素敵な……)。
私は亡父が国文学者で、実家の書庫にはそれこそ家が曲がる蔵書が詰め込まれていたこともあり(そして没後、それらを十年以上かけて処分したこともあり)、本・活字にはやはり複雑な思い入れがあります。それが高じて恩師の著書の編集に携わらせていただいたりもしたのですが、まあ愛憎交々というか。ええ。
二つの博物館はそれぞれ特色があって、機会(と体力)があればぜひ両方まわっていただくのがよいと思います。
私の感想としては、
【本と活字館】印刷工場に行ってインクの匂いを嗅いでいるような雰囲気、コンセプトを感じました。企画展の影響かとも思いますが、活字と印刷、本造りに関わる人の体温、といったキーワードが刺さる人にはとても楽しいと思います。2階のショップがヤバくて……製本用の栞ひも、特製ルーペを買い込んで、製本道具の目打ちに手を伸ばしたところではっと我にかえりました。スタッフの方に「楽しかったですがやばいです」と話しかけたら、「よかったです!是否ヌマってください!」……あぅ。
【印刷博物館】「歴史」を受け止める、ということではとても本格的な、まさに「博物館」だと思いました。小ホールほどの広さに、それこそ人類が「描く」ことを手にした太古の時代から始まって、世界と日本の「印刷」の歴史を体感させてくれます。特に、有史以降「印刷」が勝手に発達したわけではなく、社会や権力の要請に強く影響されて進化していった、という史観が綿密に展開されているのには驚き、またとても勉強になります。「歴史好き」にはたまらないのではないでしょうか。
二つの博物館に共通しているのは、企業博物館でありながらそれぞれ自社の発展、業績の展示には極めて禁欲的であることです。テーマを絞り明確化するためには理解できますし、ある意味私は好感も覚えますが、一方でやはり日本の現代史については業界のトップである両社がそれぞれ何を目指し、何をもたらしたのか、は独立したコーナーを設けてでも触れてほしいなあ、と思います。
そして、DTP、あるいはワープロ以降の印刷については、確かに「本と活字館」は対象外でしょうし、「印刷博物館」は一応触れてはいるのですが、もう少し現代の「印刷」を語る上で、あるいは「活版」がどう現代をもたらしたか、を連結する意味で、一歩踏み込みが欲しいところです。「印刷」と切り離されてきた「書く」ことがより密接に「印刷」の側に踏み込んで来ている、それを受け止めて「印刷」文化がどうなっていくのか、その史観を示すことは企業博物館のやはり責務だと思うわけです。
まあありえないとも思いますが、二つの博物館で相互にチラシでも置けばいいのに、と(本当はスタッフ同士は顔見知り、かも知れませんね。狭い世界だし)。知る人ぞ知る、というのはちょっと勿体無い気がします。時には合同企画展とか……
(タイトルバックはwikipediaより)