やっぱり量より質が大事! 苦境の中国映画界に意識の変化
コロナ禍で大きな打撃を受けている産業のひとつが、娯楽関連サービス業であることは言うまでもない。なかでも映画産業に関して言えば、映画館が休館に追い込まれたり、入場者数が制限されたり、映画の制作が中止や延期になったりするなどして苦境に立たされている。このような状況から中国では、これまでの映画の「量産体制」にある変化が生じている。
中国では映画を公開するまでに、「脚本の届出」、「撮影・制作」、「内容の審査」、「上映」の4つのステップを踏まなければならない。映画を管理する政府機関である国家電影局の公表によると、脚本の届出がされた総数は、2014年が2620本、2015年が3539本、2016年が3708本、2017年が3825本、2018年が3561本、2019年が3306本。ここから、2015年に急増したことと、2017年をピークに減少したという2つの傾向が見て取れる。なお、新型コロナで苦しんだ昨年は、1月から9月までで2333本。1年に換算しても3111本となり、2015年以降最少であると推測される。
中国では一時期、映画市場が拡大したことから投資が増加した。そのためそれまでの「良い脚本で投資を呼び込む」から「金にものを言わせて脚本を買い漁る」という方針転換が起こり、映画を大量に制作するという状況になっていた。しかし一方で、制作会社の脱税や、俳優への報酬の高騰、駄作の増加などがしばしば物議を醸し、2017年を境に投資家が次第に離れ、制作本数も減り始めたのだ。
特に昨年は、これまでの経緯に加えて、コロナ禍で映画館が休館する事態となり、投資の回収がより困難になった。その結果、制作側は従来の「量産」を避けて脚本を厳選するようになり、全体の脚本届出数が減ったと考えられる。
また、年間3000本を超える脚本の届出があるものの、興行収入が1億元を超える作品はわずか50本未満にとどまり、このことがさらに「投資による損失を回避」、「量より質を重視」といった意識の変化をもたらしている。
昨年の興行収入を振り返ると、トップ10はすべて国産映画。例えば、恋愛ドラマ「送你一朶小紅花」、戦争映画の「八佰」と「金剛川」、アニメ「姜子牙」(すべて原題)、ヒューマンドラマ「愛しの故郷(ふるさと)」、香港アクション映画「SHOCK WAVE 2」など、完成度の高い作品が10億元を超える興行収入を得ている。
昨年の成功例をヒントに映画界が意識改革を行い、現在の苦境を乗り越えられれば、中国映画は一つ上の新しい境地にたどり着けるかもしれない。